98 / 103
2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
98話 新しい聖女の誕生
しおりを挟む
「これが本当の聖女の力ですよ」
後ろから私の両肩に手を置いたサクがフィクタに宣告する。フィクタの瞳に暗い色が灯った。彼女がすがり唯一としていた聖女という形を完全に奪われたからだろう。消沈したフィクタはそのまま騎士に取り押さえられ連れていかれた。
「サクの力なのに」
「あ、聞いちゃいました?」
なんだとサクが一息つく。知らないままなら良かったのにと苦笑した。
「サク知ってたの?」
「ええ。精霊王と話が出来たので」
「ならもっと早く教えてくれても」
「聖女はクラスです」
妙にきっぱり言ってくる。
なんでよ。だって私は身の内にサクの力を貯めることが出来ても聖女ではない。
「僕の願いや祈りが現実になるなら、クラスが聖女であることは揺るがない」
サクの願いは私が聖女であること。聖女の願いは現実化するから、私が聖女になってしまうってこと?
「こじつけじゃ……」
「いいえ。僕がそう思い、周囲がそう思えば、それが現実です」
「え?」
「公国の忌まわしき魔女は聖女だった、とかドラマティックでしょ?」
騎士達を治癒し、作る料理はなぜか不調が改善する。雪崩を予知して人々を救い、聖女だと思っていた魔女の呪いを打ち破り倒した。
「ってとこですね。聖女ぽいエピソードでしょ?」
「……今までの全部?」
「ふふふふ」
民衆の認識を変えたの? サクってば怖い。そこまで本気でやる事じゃないのに。
「私まで偽物やる必要ないよ」
「僕がクラスの側にいる限りは、クラスは真の聖女ですので」
「もう……」
すると皇帝が重苦しい咳を繰り返した。無理して出てきていたのか車椅子から落ちそうなぐらい心許ない。先程の採決での気丈な態度は一変し、早く横になった方がいい状態だった。
「クラス、皇帝はフィクタの毒にやられています」
件の異物混入を皇帝にしていたのはさっきの裁判でも明らかだった。第一皇子がフィクタから原液をもらい受け、そのまま大して薄めもせずに使ったのが直近。十年前のように薄く緩くきかせる気はなかった。二人とも焦っていたから尚更だろう。
「シレと同じ、肝臓を悪くしてる」
「……治せって?」
サクじゃないから治るだろうけど、あまりに重度のものはそんなにすぐには治らない。部屋で横になってもらった上で、日を費やして治癒する案件だと思った。けどサクはこの場で治した方がいいと言う。急変したとかでもないのに……ああでも私の皇帝を治したいという気持ちが決まっている事を分かっていてサクはそう言うんだから困ったものね。言いづらくて動きづらくしていた私の片手を握る強さに勇気づけられる。
思った通りに動いて、やりたいと思ったことをやろう。皇帝が顔を白くさせたまま目の前に立った私を見上げた。
「ステラモリス公爵?」
「治します」
膝をついて両手で皇帝の手をとり治癒を行った。サクは私と同じように膝をついて支えるような形で私の肩を抱き、片手だけ皇帝の手を握る私の手の上から包んだ。
サクの掌が触れる部分があたたかい。これが聖女の力なのだろうか。
そうなると、サクから直接力を貰って治癒していることになるから、いつもより強力に働いている。だから不調はすぐに癒せた。あと数日寝ていれば自然と元通りになるぐらいに。
「ああ、君は」
一筋、静かに涙を流して天を仰いだ皇帝が囁く。
「君から多くを奪った私ですら救うのか」
「……」
何も言えなかった。はたから見れば奪われたものもあったかもしれない。けど私は自分で決めてフィクタの呪いを破る選択をとった。
ウニバーシタスに復讐とかそういうことは考えていない。ここにいなきゃサクに出会えなかったもの。
「さすが聖女です」
「サク」
否応にも聖女にしたいサクに文句の一つでも言おうとしたら、途端周囲がざわついた。どうしたのだろうと思って周囲を見回すと、各国の代表以外に帝都の民が広場に集まってこちらの様子を窺っていた。城前の広場で国際裁判なんてしていれば目立つに決まっている。
そして私はフィクタの呪いを破って、皇帝を治癒した姿を帝国民に見せつけた。それが他人にとっていかに奇跡なことに見えるかは明白だ。
「まさかサク」
「ええ。新しい聖女の誕生です」
途端周囲が歓喜にわいた。
皇帝が体調を戻し、悪を裁判にかけ失墜させる。新しい聖女が生まれれば、ドラマの一つが出来上がるわけで。
各国代表が皇帝の前にやって来る。ついでに私にも激励をくれるけど、サクが男性だけうまくガードするものだから代表たちは笑っていた。
人にもみくちゃにされ、騎士や民も交えて喜びをあらわにしてる輪から抜ける。一つ息を吐くと歓喜の喧騒を冷静に眺めることが出来た。その時。
「!」
嫌な咳が耳を通った。
後ろから私の両肩に手を置いたサクがフィクタに宣告する。フィクタの瞳に暗い色が灯った。彼女がすがり唯一としていた聖女という形を完全に奪われたからだろう。消沈したフィクタはそのまま騎士に取り押さえられ連れていかれた。
「サクの力なのに」
「あ、聞いちゃいました?」
なんだとサクが一息つく。知らないままなら良かったのにと苦笑した。
「サク知ってたの?」
「ええ。精霊王と話が出来たので」
「ならもっと早く教えてくれても」
「聖女はクラスです」
妙にきっぱり言ってくる。
なんでよ。だって私は身の内にサクの力を貯めることが出来ても聖女ではない。
「僕の願いや祈りが現実になるなら、クラスが聖女であることは揺るがない」
サクの願いは私が聖女であること。聖女の願いは現実化するから、私が聖女になってしまうってこと?
「こじつけじゃ……」
「いいえ。僕がそう思い、周囲がそう思えば、それが現実です」
「え?」
「公国の忌まわしき魔女は聖女だった、とかドラマティックでしょ?」
騎士達を治癒し、作る料理はなぜか不調が改善する。雪崩を予知して人々を救い、聖女だと思っていた魔女の呪いを打ち破り倒した。
「ってとこですね。聖女ぽいエピソードでしょ?」
「……今までの全部?」
「ふふふふ」
民衆の認識を変えたの? サクってば怖い。そこまで本気でやる事じゃないのに。
「私まで偽物やる必要ないよ」
「僕がクラスの側にいる限りは、クラスは真の聖女ですので」
「もう……」
すると皇帝が重苦しい咳を繰り返した。無理して出てきていたのか車椅子から落ちそうなぐらい心許ない。先程の採決での気丈な態度は一変し、早く横になった方がいい状態だった。
「クラス、皇帝はフィクタの毒にやられています」
件の異物混入を皇帝にしていたのはさっきの裁判でも明らかだった。第一皇子がフィクタから原液をもらい受け、そのまま大して薄めもせずに使ったのが直近。十年前のように薄く緩くきかせる気はなかった。二人とも焦っていたから尚更だろう。
「シレと同じ、肝臓を悪くしてる」
「……治せって?」
サクじゃないから治るだろうけど、あまりに重度のものはそんなにすぐには治らない。部屋で横になってもらった上で、日を費やして治癒する案件だと思った。けどサクはこの場で治した方がいいと言う。急変したとかでもないのに……ああでも私の皇帝を治したいという気持ちが決まっている事を分かっていてサクはそう言うんだから困ったものね。言いづらくて動きづらくしていた私の片手を握る強さに勇気づけられる。
思った通りに動いて、やりたいと思ったことをやろう。皇帝が顔を白くさせたまま目の前に立った私を見上げた。
「ステラモリス公爵?」
「治します」
膝をついて両手で皇帝の手をとり治癒を行った。サクは私と同じように膝をついて支えるような形で私の肩を抱き、片手だけ皇帝の手を握る私の手の上から包んだ。
サクの掌が触れる部分があたたかい。これが聖女の力なのだろうか。
そうなると、サクから直接力を貰って治癒していることになるから、いつもより強力に働いている。だから不調はすぐに癒せた。あと数日寝ていれば自然と元通りになるぐらいに。
「ああ、君は」
一筋、静かに涙を流して天を仰いだ皇帝が囁く。
「君から多くを奪った私ですら救うのか」
「……」
何も言えなかった。はたから見れば奪われたものもあったかもしれない。けど私は自分で決めてフィクタの呪いを破る選択をとった。
ウニバーシタスに復讐とかそういうことは考えていない。ここにいなきゃサクに出会えなかったもの。
「さすが聖女です」
「サク」
否応にも聖女にしたいサクに文句の一つでも言おうとしたら、途端周囲がざわついた。どうしたのだろうと思って周囲を見回すと、各国の代表以外に帝都の民が広場に集まってこちらの様子を窺っていた。城前の広場で国際裁判なんてしていれば目立つに決まっている。
そして私はフィクタの呪いを破って、皇帝を治癒した姿を帝国民に見せつけた。それが他人にとっていかに奇跡なことに見えるかは明白だ。
「まさかサク」
「ええ。新しい聖女の誕生です」
途端周囲が歓喜にわいた。
皇帝が体調を戻し、悪を裁判にかけ失墜させる。新しい聖女が生まれれば、ドラマの一つが出来上がるわけで。
各国代表が皇帝の前にやって来る。ついでに私にも激励をくれるけど、サクが男性だけうまくガードするものだから代表たちは笑っていた。
人にもみくちゃにされ、騎士や民も交えて喜びをあらわにしてる輪から抜ける。一つ息を吐くと歓喜の喧騒を冷静に眺めることが出来た。その時。
「!」
嫌な咳が耳を通った。
0
お気に入りに追加
68
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
悪役令嬢はお断りです
あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。
この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。
その小説は王子と侍女との切ない恋物語。
そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。
侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。
このまま進めば断罪コースは確定。
寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。
何とかしないと。
でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。
そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。
剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が
女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。
そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。
●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
●毎日21時更新(サクサク進みます)
●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)
(第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。
【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される
えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。
お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。
少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。
22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位
Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.
ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)
お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……
木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。
恋人を作ろう!と。
そして、お金を恵んでもらおう!と。
ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。
捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?
聞けば、王子にも事情があるみたい!
それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!
まさかの狙いは私だった⁉︎
ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。
※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。
【完結】伯爵の愛は狂い咲く
白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。
実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。
だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。
仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ!
そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。
両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。
「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、
その渦に巻き込んでいくのだった…
アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。
異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点)
《完結しました》
森に捨てられた令嬢、本当の幸せを見つけました。
玖保ひかる
恋愛
[完結]
北の大国ナバランドの貴族、ヴァンダーウォール伯爵家の令嬢アリステルは、継母に冷遇され一人別棟で生活していた。
ある日、継母から仲直りをしたいとお茶会に誘われ、勧められたお茶を口にしたところ意識を失ってしまう。
アリステルが目を覚ましたのは、魔の森と人々が恐れる深い森の中。
森に捨てられてしまったのだ。
南の隣国を目指して歩き出したアリステル。腕利きの冒険者レオンと出会い、新天地での新しい人生を始めるのだが…。
苦難を乗り越えて、愛する人と本当の幸せを見つける物語。
※小説家になろうで公開した作品を改編した物です。
※完結しました。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる