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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

98話 新しい聖女の誕生

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「これが本当の聖女の力ですよ」

 後ろから私の両肩に手を置いたサクがフィクタに宣告する。フィクタの瞳に暗い色が灯った。彼女がすがり唯一としていた聖女という形を完全に奪われたからだろう。消沈したフィクタはそのまま騎士に取り押さえられ連れていかれた。

「サクの力なのに」
「あ、聞いちゃいました?」

 なんだとサクが一息つく。知らないままなら良かったのにと苦笑した。

「サク知ってたの?」
「ええ。精霊王と話が出来たので」
「ならもっと早く教えてくれても」
「聖女はクラスです」

 妙にきっぱり言ってくる。
 なんでよ。だって私は身の内にサクの力を貯めることが出来ても聖女ではない。

「僕の願いや祈りが現実になるなら、クラスが聖女であることは揺るがない」

 サクの願いは私が聖女であること。聖女の願いは現実化するから、私が聖女になってしまうってこと?

「こじつけじゃ……」
「いいえ。僕がそう思い、周囲がそう思えば、それが現実です」
「え?」
「公国の忌まわしき魔女は聖女だった、とかドラマティックでしょ?」

 騎士達を治癒し、作る料理はなぜか不調が改善する。雪崩を予知して人々を救い、聖女だと思っていた魔女の呪いを打ち破り倒した。

「ってとこですね。聖女ぽいエピソードでしょ?」
「……今までの全部?」
「ふふふふ」

 民衆の認識を変えたの? サクってば怖い。そこまで本気でやる事じゃないのに。

「私まで偽物やる必要ないよ」
「僕がクラスの側にいる限りは、クラスは真の聖女ですので」
「もう……」

 すると皇帝が重苦しい咳を繰り返した。無理して出てきていたのか車椅子から落ちそうなぐらい心許ない。先程の採決での気丈な態度は一変し、早く横になった方がいい状態だった。

「クラス、皇帝はフィクタの毒にやられています」

 件の異物混入を皇帝にしていたのはさっきの裁判でも明らかだった。第一皇子がフィクタから原液をもらい受け、そのまま大して薄めもせずに使ったのが直近。十年前のように薄く緩くきかせる気はなかった。二人とも焦っていたから尚更だろう。

「シレと同じ、肝臓を悪くしてる」
「……治せって?」

 サクじゃないから治るだろうけど、あまりに重度のものはそんなにすぐには治らない。部屋で横になってもらった上で、日を費やして治癒する案件だと思った。けどサクはこの場で治した方がいいと言う。急変したとかでもないのに……ああでも私の皇帝を治したいという気持ちが決まっている事を分かっていてサクはそう言うんだから困ったものね。言いづらくて動きづらくしていた私の片手を握る強さに勇気づけられる。
 思った通りに動いて、やりたいと思ったことをやろう。皇帝が顔を白くさせたまま目の前に立った私を見上げた。

「ステラモリス公爵?」
「治します」

 膝をついて両手で皇帝の手をとり治癒を行った。サクは私と同じように膝をついて支えるような形で私の肩を抱き、片手だけ皇帝の手を握る私の手の上から包んだ。
 サクの掌が触れる部分があたたかい。これが聖女の力なのだろうか。
 そうなると、サクから直接力を貰って治癒していることになるから、いつもより強力に働いている。だから不調はすぐに癒せた。あと数日寝ていれば自然と元通りになるぐらいに。

「ああ、君は」

 一筋、静かに涙を流して天を仰いだ皇帝が囁く。

「君から多くを奪った私ですら救うのか」
「……」

 何も言えなかった。はたから見れば奪われたものもあったかもしれない。けど私は自分で決めてフィクタの呪いを破る選択をとった。
 ウニバーシタスに復讐とかそういうことは考えていない。ここにいなきゃサクに出会えなかったもの。

「さすが聖女です」
「サク」

 否応にも聖女にしたいサクに文句の一つでも言おうとしたら、途端周囲がざわついた。どうしたのだろうと思って周囲を見回すと、各国の代表以外に帝都の民が広場に集まってこちらの様子を窺っていた。城前の広場で国際裁判なんてしていれば目立つに決まっている。
 そして私はフィクタの呪いを破って、皇帝を治癒した姿を帝国民に見せつけた。それが他人にとっていかに奇跡なことに見えるかは明白だ。

「まさかサク」
「ええ。新しい聖女の誕生です」

 途端周囲が歓喜にわいた。
 皇帝が体調を戻し、悪を裁判にかけ失墜させる。新しい聖女が生まれれば、ドラマの一つが出来上がるわけで。
 各国代表が皇帝の前にやって来る。ついでに私にも激励をくれるけど、サクが男性だけうまくガードするものだから代表たちは笑っていた。
 人にもみくちゃにされ、騎士や民も交えて喜びをあらわにしてる輪から抜ける。一つ息を吐くと歓喜の喧騒を冷静に眺めることが出来た。その時。

「!」

 嫌な咳が耳を通った。 
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