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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

93話 ドラゴンとフェンリル、本来の力

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 鍔迫り合いに押し勝ち、相手を地面に叩き伏せる。遅れて木々の奥から騎士たちが一斉に走り出てきた。

「少し時間がかかりました。すみません」

 間に合ってよかったと肩を落とす。もう大丈夫ですよと顔だけこちらを見て笑った。

「サク」
「はい」

 邪魔になると分かっていてサクの服の裾をとると、すぐに気づいたサクが目を開いた。けどすぐに眉を八の字にしてしまう。

「怖がらせた?」

 ヴォックスが出てきて周囲に指示を出しながらフィクタの騎士たちを次々に捕えていく。サクが私の頬に触れた。

「もっと早く来るべきでした」
「ううん。来てくれて嬉しい」

 勝手をしたのは私だ。サクは決して動くなと言っていたのを無理を言ってフィクタに接触した。なのに怒る素振りを見せずに心配だけしてくれる。

「クラスがフィクタに連れて行かれるのは想定の内の一つだったのに、あいつの処理で時間をかけてしまったのは僕のミスです」
「私、勝手をしたのに」
「いいえ、クラスは悪くありませんよ? だって自分で呪いを破りに立ち向かったんでしょ?」
「サク、知って」

 呪いなんて始めからなかったけど、とサクが笑う。

「ごめんね」
「謝らなくていいのに」

 クラスが生きる選択をすればそれでいいと言う。ドラゴンとフェンリルと三人で話したことを思い出した。

「ドラゴンもフェンリルもクラスを守ってくれてありがとうございます」
「なに大した事はない」
「我々の目的も達成された」

 聖女を守るというやつ? これでサクが生きることになるの?
 サクに繋がりのことを聞こうと口を開きかけたところで金切声があがった。ヴォックスに捕えられたフィクタだ。こちらを睨みつける。

「ドラゴン? フェンリル? そんなものが」
「貴方も偽りつつも聖女を名乗っていたのなら知っているのでは? その昔、聖女制度が生きていた頃に聖女が魔物と共にいたという話です」
「それ、は……」

 心当たりがあるらしい。必ずしもというわけではないけど、聖女の逸話で魔物を連れていた人物がいた。

「となれば、誰が聖女か明白ですね?」

 サクが嫌にいい笑顔をフィクタに向けた。ドラゴンもフェンリルもサクの為にここにいるのに、あたかも私を聖女だと指して言っているような形だ。

「ドラゴンもフェンリルも見えない時点で終わってんだよ」
「サク」
「ああすみませんつい」

 口の悪いサクを咎めていると、フィクタが歯の根を噛んだ。

「なら……」
「?」
 
 ヴォックスに拘束されたまま、こちらに向かって叫ぶフィクタにはどこにも余裕がなかった。

「それを寄越しなさいよ。伝説の魔物を従えていれば、私が真の聖女だという証明にもなるのでしょう」

 その言葉を許す程、二人は寛大ではない。不穏な空気が私とサクの周囲に満ちた。

「ほう。従える、ねえ」
「見えもしない人間が」

 フィクタは、魔物を従えるを聖女の条件に変えてしまえばいいも笑う。ドラゴンとフェンリルが溜め息をつく。

「我々を利用しようとは呆れて物も言えんな」
「やるのか」

 ドラゴンが肩から降りた。そしてずずっと低い音を立てる背後を振り向くとドラゴンが元の大きさに戻っている。周囲から悲鳴があがった。

「今だけどのような人間でも敢えて見えるようにしてやった」

 空気が痺れるような重低音。初めてウニバーシタスの城で出会った時と変わらない声だ。

「では私も」

 フェンリルも元の大きさに戻る。咆哮が響いて地面が揺れた。逃げ出そうとする人間を囲う様に炎が地面から湧く。フェンリルが笑うと炎が柱になって逃げ道を塞ぎ、人が触れようものなら焼かれてしまう。けど不思議と周囲の木々は燃えなかった。これが伝説の魔物と言われるフェンリルの力。

「我々を利用するなど笑えんな」

 巨大な光がドラゴンの口元に集まり、光の線となって放たれる。

「よくやった。ウニバーシタスの城が一階部分を残して消失したぞ」

 フェンリルが楽しそうに報告する。

「ええ……」
「荷電粒子咆というやつです」
「サク」

 ああ、この時代のものではありませんねと笑う。明らかに楽しんでるでしょ。

「城にいるものは二階から上にはあがらせてません。城が消失しただけで中の人間は無事ですよ」

 ほっとするも、いくらか消失してもいい人間はいましたがと笑顔のまま恐ろしいことを言っていた。
 聞かなかったことにしてフィクタと向き合う。

「フィクタ・セーヌ・マギア公爵令嬢、いやマギア姓も本来のものではないならただのフィクタか。フィクタ嬢」

 あまりの出来事に震えて言葉を失うフィクタがゆっくりサクを見る。私の隣にサク、背後に二人の魔物を抱えた姿は彼女には毒だったらしい。小さく悲鳴を上げた。

「帝国民無差別殺傷未遂と国家反逆罪で連合の国際裁判にかけます」
「私は何もしていないわ」
「そうですか。まあひとまず移動しましょう」

 その言葉と共に巨大な魔法陣が空にうつる。まさかここにいる全員を転移させる気? いくら帝都内とはいえ、この人数を動かすのは無理がある。サクがいくら魔法を使うことに長けていて負担が高すぎるはずだ。

「サ、ク」

 一つ咳をし手で押さえたサクの姿に血の気が引いた。
 掌が血に染まっていたから。
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