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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
79話 嘘でもいいから結婚しません?
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翌朝、何事もなかったかのようにいつも通りなサクがいて、助かったような残念なような絶妙な塩梅の気持ちを味わって首を傾げる羽目になる。
そんな後日。
シレがやっと正式なウニバーシタス筆頭宰相になった。決まってから書類手続きまで長い。サク曰く、数年実績をあげた後、皇太子になるのではという話だ。今の皇帝の場合は帝国解体もあるかもと言っていたけど。
薬草茶を飲みながらサクがさらっと言いのける。
「じゃあ俺辞めるから」
「えーサクまだいてよ~」
私が覗き見しに行った時も辞める言ってたけど辞めてなかった。なんだかんだでシレに優しいよね。
「辞めてクラスといちゃいちゃすんだよ」
「いちゃいちゃしない」
「そんな!」
私の意思を無視しないでよ。
サクの希望を切り捨てつつ、シレに頼まれていたものを渡した。そもそも今日の目的はこっちだ。
「シレ、頼まれてたやつ」
「ありがとう」
「僕だけでいいのに」
「サクにも作ったでしょ」
納得いかないのかむすっとした。小さいサクと同じ反応が嬉しいけど、十年前から精神年齢変わってないようなものだから困ったものね。
「お菓子ぐらい、いいじゃない」
「だって」
騎士たちへの差し入れと、旧ステラモリスの市場への販売品だ。売る程でもとは思ったけど好評らしくシレに推すに推された。
「やっぱり騎士達、クラスのお菓子食べると元気になるって」
「薬の処方も一緒にしてるし、薬ない人は偽薬効果だよ」
「そう思う?」
「……まだ言えない」
正解を大概知ってるサクが解答を避けた。私の言葉が肯定されない当たり腑に落ちない。
「僕も貰っていいの?」
「うん。シレ家族とヴォックス家族分もきちんとあるから」
「誘惑に負けずに兄上に渡さないとだねえ」
「勝手に食ったらユースティーツィアがキレんぞ」
「それは恐ろしい」
過去、ヴォックスが一つつまみ食いしただけでも鬼の形相だった。私が絡むと容赦ないらしい。最愛の夫よりも私が優先されるのはどうかとは思うけど、ユツィのそういうとこは好きだったりする。
* * *
「あれ」
シレが帰ってサクと一緒に食器を洗ってしまおうとしたら、食器の中に紛れて小箱が置いてあった。サクが誕生日に用意した指輪だ。
「こんなとこにしまってたの」
「ちょっとした時に眺めてて」
「眺める?」
「で、想像して楽しむ」
「……」
それはキッチンにいる時じゃなくてもいい気がする。自室でやりなよ。
「想像いいですよ」
「おすすめしないでよ」
クラスと結婚、と悦に浸るサクは変わらずだ。こういうとこなければいいのにと思う反面、慣れてきている事実に震える。
「……これ、私がもっててもいい?」
「ん?」
「預かっててもいい?」
「え?」
笑顔の誤魔化しが消えた。予期せぬ言葉だったのだろう。瞳を開いた。
「いえ、それは、クラスのものだから、持ってて全然、いい、んですが?」
「預かっていいのね?」
「え、ええ」
高価なものだから傷つけないようにしないと。
両手に抱えて部屋に持っていこうとした時、サクが道を阻んだ。ヌックの時のもだけど、これはドラゴンたちの言葉で壁ドンというらしい。
「それって!」
「サク?」
「それって結婚してくれるって事?」
「違う」
がくっと肩を落とす。壁に添えられた腕に手を添えると抵抗なく下がった。そこを抜ける。
「……なんだ」
少しいじけた。可愛い顔を見せるようになって嬉しい限りだ。
悶々としてるサクを尻目に部屋に指輪を置きにいった。ドラゴンとフェンリルがまったりしてるのを横目に机の上に置く。
「おや、どういう気の迷いだ?」
「本当変だよね~」
「……まあいいが、シレは帰ったのか」
「うん」
二人が部屋から出ていく。
おかしいとは自分でも思う。なかったことにしてたはずの指輪、つけるのは気が引けたのでチェーンにくぐらせてこっそりネックレスにした。服の中に隠しておけばサクにもばれないはずだ。というか、これを指にまでとはいかないまでも身に着けるだなんて心境の変化も甚だしい。来年の春には呪いで死んでしまうのになにを期待してるんだろ?
「……」
考えるのをやめてリビングに戻った。相変わらずサクが鼻血を出して、ドラゴンとフェンリルが引いていた。なにを妄想したの。
「クラス」
「なに?」
新しくお茶をいれたサクの向かいに座る。
「嘘でもいいから結婚しません?」
「はい?」
「本当はクラスが心から僕と結婚してくれるのが理想なんですけど」
いちゃいちゃできるしとぼそっと言った。何気なく自分の願望いれないでよ。
「ウニバーシタス帝国から所在抹消が出来ればクラスは自由になれる」
言いたいことは分かるけど、その為にサクが犠牲になることはない。
「所在抹消」
「ウニバーシタスから出て好きな国に属してもいい。ステラモリスも興す事が出来るから、そっちでも構いません」
「それ、十年前の?」
「……ええ」
私の言いたいことが分かったらしい。
十年前、私の身柄がウニバーシタス帝国にあるのを理由にサクの脱出を断った。そのことを言っているのだと思って聞けば案の定の回答だ。
今までふざけて結婚といっていたのは私の身柄の預かり場所を変えることにあるということ?
サクが優しさや私への恩返しで考えてくれるのは嬉しいけど、なぜだか妙に納得がいかなくて腹の内がもぞりとした。イライラしてるような悲しいような。
「クラス、騙されるな」
「え?」
ドラゴンが肩に乗った。フェンリルが足元にくる。
「格好良い事を言って本音は結婚してしまおうという魂胆だぞ?」
「んん? というと?」
「一つの外堀埋める手段だ」
「ちょっとドラゴン」
サクが止める。
結婚にサインしてしまえばこっちのものだ的な?
「身柄をウニバーシタスからサク自身に変えて、クラスを逃げられないようにするという事か」
「結婚へのサインで縛る気だな」
「独占欲の塊め」
笑顔で舌打ちした。ドラゴンとフェンリルに言われたのが図星ってこと?
「既成事実あればいいかなって」
「ゲスい」
「エグい」
「なんだよもー」
それはつまり、助けたいから自分を犠牲にするとか善意ではなく、サクが私と結婚したい気持ちを優先してやってる?
「サク私と結婚したいの?」
「勿論」
「私を助けるとか抜きで?」
「何があろうとなかろうと、クラスと結婚したいです」
「……そう」
腹の内側の違和感がなくなっていた。
そんな後日。
シレがやっと正式なウニバーシタス筆頭宰相になった。決まってから書類手続きまで長い。サク曰く、数年実績をあげた後、皇太子になるのではという話だ。今の皇帝の場合は帝国解体もあるかもと言っていたけど。
薬草茶を飲みながらサクがさらっと言いのける。
「じゃあ俺辞めるから」
「えーサクまだいてよ~」
私が覗き見しに行った時も辞める言ってたけど辞めてなかった。なんだかんだでシレに優しいよね。
「辞めてクラスといちゃいちゃすんだよ」
「いちゃいちゃしない」
「そんな!」
私の意思を無視しないでよ。
サクの希望を切り捨てつつ、シレに頼まれていたものを渡した。そもそも今日の目的はこっちだ。
「シレ、頼まれてたやつ」
「ありがとう」
「僕だけでいいのに」
「サクにも作ったでしょ」
納得いかないのかむすっとした。小さいサクと同じ反応が嬉しいけど、十年前から精神年齢変わってないようなものだから困ったものね。
「お菓子ぐらい、いいじゃない」
「だって」
騎士たちへの差し入れと、旧ステラモリスの市場への販売品だ。売る程でもとは思ったけど好評らしくシレに推すに推された。
「やっぱり騎士達、クラスのお菓子食べると元気になるって」
「薬の処方も一緒にしてるし、薬ない人は偽薬効果だよ」
「そう思う?」
「……まだ言えない」
正解を大概知ってるサクが解答を避けた。私の言葉が肯定されない当たり腑に落ちない。
「僕も貰っていいの?」
「うん。シレ家族とヴォックス家族分もきちんとあるから」
「誘惑に負けずに兄上に渡さないとだねえ」
「勝手に食ったらユースティーツィアがキレんぞ」
「それは恐ろしい」
過去、ヴォックスが一つつまみ食いしただけでも鬼の形相だった。私が絡むと容赦ないらしい。最愛の夫よりも私が優先されるのはどうかとは思うけど、ユツィのそういうとこは好きだったりする。
* * *
「あれ」
シレが帰ってサクと一緒に食器を洗ってしまおうとしたら、食器の中に紛れて小箱が置いてあった。サクが誕生日に用意した指輪だ。
「こんなとこにしまってたの」
「ちょっとした時に眺めてて」
「眺める?」
「で、想像して楽しむ」
「……」
それはキッチンにいる時じゃなくてもいい気がする。自室でやりなよ。
「想像いいですよ」
「おすすめしないでよ」
クラスと結婚、と悦に浸るサクは変わらずだ。こういうとこなければいいのにと思う反面、慣れてきている事実に震える。
「……これ、私がもっててもいい?」
「ん?」
「預かっててもいい?」
「え?」
笑顔の誤魔化しが消えた。予期せぬ言葉だったのだろう。瞳を開いた。
「いえ、それは、クラスのものだから、持ってて全然、いい、んですが?」
「預かっていいのね?」
「え、ええ」
高価なものだから傷つけないようにしないと。
両手に抱えて部屋に持っていこうとした時、サクが道を阻んだ。ヌックの時のもだけど、これはドラゴンたちの言葉で壁ドンというらしい。
「それって!」
「サク?」
「それって結婚してくれるって事?」
「違う」
がくっと肩を落とす。壁に添えられた腕に手を添えると抵抗なく下がった。そこを抜ける。
「……なんだ」
少しいじけた。可愛い顔を見せるようになって嬉しい限りだ。
悶々としてるサクを尻目に部屋に指輪を置きにいった。ドラゴンとフェンリルがまったりしてるのを横目に机の上に置く。
「おや、どういう気の迷いだ?」
「本当変だよね~」
「……まあいいが、シレは帰ったのか」
「うん」
二人が部屋から出ていく。
おかしいとは自分でも思う。なかったことにしてたはずの指輪、つけるのは気が引けたのでチェーンにくぐらせてこっそりネックレスにした。服の中に隠しておけばサクにもばれないはずだ。というか、これを指にまでとはいかないまでも身に着けるだなんて心境の変化も甚だしい。来年の春には呪いで死んでしまうのになにを期待してるんだろ?
「……」
考えるのをやめてリビングに戻った。相変わらずサクが鼻血を出して、ドラゴンとフェンリルが引いていた。なにを妄想したの。
「クラス」
「なに?」
新しくお茶をいれたサクの向かいに座る。
「嘘でもいいから結婚しません?」
「はい?」
「本当はクラスが心から僕と結婚してくれるのが理想なんですけど」
いちゃいちゃできるしとぼそっと言った。何気なく自分の願望いれないでよ。
「ウニバーシタス帝国から所在抹消が出来ればクラスは自由になれる」
言いたいことは分かるけど、その為にサクが犠牲になることはない。
「所在抹消」
「ウニバーシタスから出て好きな国に属してもいい。ステラモリスも興す事が出来るから、そっちでも構いません」
「それ、十年前の?」
「……ええ」
私の言いたいことが分かったらしい。
十年前、私の身柄がウニバーシタス帝国にあるのを理由にサクの脱出を断った。そのことを言っているのだと思って聞けば案の定の回答だ。
今までふざけて結婚といっていたのは私の身柄の預かり場所を変えることにあるということ?
サクが優しさや私への恩返しで考えてくれるのは嬉しいけど、なぜだか妙に納得がいかなくて腹の内がもぞりとした。イライラしてるような悲しいような。
「クラス、騙されるな」
「え?」
ドラゴンが肩に乗った。フェンリルが足元にくる。
「格好良い事を言って本音は結婚してしまおうという魂胆だぞ?」
「んん? というと?」
「一つの外堀埋める手段だ」
「ちょっとドラゴン」
サクが止める。
結婚にサインしてしまえばこっちのものだ的な?
「身柄をウニバーシタスからサク自身に変えて、クラスを逃げられないようにするという事か」
「結婚へのサインで縛る気だな」
「独占欲の塊め」
笑顔で舌打ちした。ドラゴンとフェンリルに言われたのが図星ってこと?
「既成事実あればいいかなって」
「ゲスい」
「エグい」
「なんだよもー」
それはつまり、助けたいから自分を犠牲にするとか善意ではなく、サクが私と結婚したい気持ちを優先してやってる?
「サク私と結婚したいの?」
「勿論」
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