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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

77話 帝都デート、あーんして下さい

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「クラス? 大丈夫です?」
「えっなにが?」
「さっきから少し変な気がして」

 うっかり仕事しちゃいましたしね、と自身の行動を振り返り、デートに集中しないとと自分を戒めている。仕事の事をするのは特段気にならないし、サクの立場上仕方のないことだと思う。けど今はサクが勘違いしてくれている方がいい。
 気づかれたくないもの。私が髪をおろして外に気軽に出られるようにしてくれたことに、すごく感動してしまったって。

「サク、もうすぐ着くの?」
「ええ。ウニバーシタスの屋敷はだいぶ小さいし、使用人も三人しかいないんですけど」
「三人もいれば充分でしょ」

 程なくして辿り着いた場所は、国家連合成立の際にウニバーシタス帝国に派遣されたサクと同じ立場の人たちが住む区域だった。ヴォックスが目をかけている帝都の騎士も定期的に巡回していて治安も帝都の中では最高峰だとか。

「大きいじゃないの」
「クラス?」
「ううん、なんでもない」

 ウニバーシタスのサクの屋敷はイルミナルクスの屋敷と比べれば確かに小さいけど、旧ステラモリスの家と比べれば大きい。イルミナルクスの屋敷の三分の一ぐらいかな? 広い庭はないけど、使用人三人で管理するには大変かもしれない。

「ここのクラス付きの侍女は決めてないんですけど、イルミナルクスの信頼できる人間を置いているので安心して下さい」
「うん」

 使用人三人と軽く挨拶をかわし、一度着替えて外に出た。このエリア内であれば外食もいいだろうとサクが判断したからだ。直近襲われたばかりだし、安全を期してということだった。

「ここです」
「ひえ」

 着替えたから、そこそこ上等なディナーなのは察していたけど、本当に高級そうなお店だった。中は思っていたよりも厳格な雰囲気はないけど、明らかに爵位のある人物御用達の内装だ。気軽に会話をしながら笑い合う客が大半だけど、着ているものや振る舞いが明らかに身分が高いと言っている。
 昨日の屋台が嘘のようだった。場違いなのではという思いが足元から這い上がって来る。

「クラス」

 私の気持ちを見透かしたように、手を取って奥へ連れていかれる。メインフロアよりも離れてて半分カーテンがかかった個室に近い席だった。

「あ、サク、分かって」
「クラスといちゃいちゃする為です」
「……いちゃいちゃはしない」

 ちぇーっとおどけたように唇を尖らせる。わざとやっているのだろうか。
 私の為に?
 ああだめだ。髪のことで絆されすぎてる。全部が全部私の為なわけないのに。早く屋敷に戻って寝ないとだめそう。

「クラス」

 サク自ら椅子を引いてくれたので黙って座る。出てくる料理はコースだったけど軽いものだった。
 けど、やっぱり量が多い。前菜はいけるけど、メインが食べきれるだろうか。

「クラス」
「なに?」
「食べきれないなら僕が食べましょうか?」
「え、でも……」

 いつもならするっとあげられるけど、ここはそういう場ではない。

「残すのは勿体無いんでしょう?」
「うっ……」

 見透かされていた。ご飯は基本捨てないし、食べられない分は明日に回したりしていた。サクの作った食料保管棚は翌日まで新鮮さを保つような作りだったから、作りすぎても大丈夫って思ってたし。

「ここからなら見えませんから」
「……じゃあ」

 私が了承を示すとサクがキラッキラオーラを出して笑う。そして口を開けた。

「食べさせて」
「はい?」

 あーんして下さいとサクが笑う。食べさせるなんて風邪引いた時のスープですらやらなかったのに、ここで今やるの?

「自分でとってよ」
「食べさせてもらえるよう机幅の狭い席頼んだのに?」
「え?」

 確かに他の席より狭く、私が腕を伸ばせば少し前のめりになったサクに届きそうな距離だ。まさか触れ合える長さの机の席を狙っていたってこと?

「クラス」
「それはちょっと……」
「早く」
「だって」
「疲れる」
「うっ」
「人来るかも」
「うう」

 皿があくか店員がよく見ている。他のお客からの視線が気にならない席でも全く人通りがゼロでもない。

「見かねた店員が皿下げるかも」
「わ、分かったから!」

 勿体無いからだめだ。
 ちらりとカーテンの向こうを確認して人がいないのを見てから皿の肉をサクの口に放り込んだ。
 すごく嬉しそうに食べてる。

「あーんの台詞もほしいな」
「それはちょっと……」
「まあまだあるし」

 まだサクに食べてほしい分を考えると今と同じことを何度もしないといけない。恥ずかしいのに。

「ほらクラス」
「うう……」

 食べさせられているのに無駄に品がよく見えるのはなぜだろう。挙げ句あんなに嬉しそうに食べるものだから可愛いだなんて思ってしまった。
 うぐぐ術中に嵌まってる気がする。

「ドルチェは軽いから大丈夫ですよ」
「どういこと?」

 サクの言う通りで、デザートは一口サイズが三つ置かれた。

「エクレアです」
「エクレア」
「ドラゴンとフェンリルには怒られますね」

 結構先のお菓子なのでと笑う。エクレアはサクが考案して、今回のコースにいれてもらったらしい。

「ほら。手にとって食べられるし、量も少ないからいいでしょう?」
「うん」

 いくつものスプーンやフォークを使わないし、手でとって食べていいなんて随分気軽だ。とても気楽に食べられる。

「ん? サクが考えたの?」
「ええ、レシピの権利を譲渡する代わりに今日のデートでいれるように頼みました」

 さっきの言葉を思い出す。
 手にとって食べられる。量も少ない。
 それは間違いなく私のことを気遣ってやってくれたことだ。

「……甘やかされてる」
「勿論」

 今まで泊まりがけでやってきたデートの甘やかしぶりを思い返して恥ずかしさに顔が熱くなった。みっともない顔してそう。

「……ありがと」
「どういたしまして」

 サクは終始上機嫌だった。
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