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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

73話 イルミナルクスデート、お茶会からの屋台デート決定

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「すみません、取り乱しました」
「あのままでいいのに」

 お茶を飲む頃には満面笑顔のサクが戻ってきてしまった。なんだ残念。

「ずっとクラスと一緒に屋敷で暮らしたらを想像していたので、想像通りクラスがヌックにいたと思うと感極まってしまって」
「そう……」
「旦那様ったらロマンス小説読みまくってるから、コテッコテの場面に弱いのよ」
「メル!」

 目付きが厳しい。メルは変わらずほほほほ~と笑っては二杯目のお茶をいれてくれた。

「クラスの趣味嗜好を理解する為です」
「思いの外嵌まってたのはどこのどちら様かしらね?」

 舌打ちが繰り返される。へえ、嵌まったんだ。

「僕が物語の王子様になるっとか可愛いく言ってくれれば良かったのにねえ、クラス~。勿論十年前の姿でね~」
「ええと……」
「今の僕でも立場も見た目も遜色ないはずです」
「自分で言う? 引くわよ」

 メルがばっさり切り捨てた。黙っていれば、見た目も麗しく若くして公爵位、王族の血も継いでいる。笑顔で優しくて、なんでもできる男性。ぱっと聞いた限りの肩書きはロマンス小説のヒーローと遜色ない。

「現実はやっぱり現実よねえ。ロマンス小説のヒーローはロマンス小説にしかいないのよ」
「確かに……」
「そんな! 僕優良物件でしょう!」
「優良物件は自分の理想のシチュエーションに魔が差したりしないわよ」

 舌打ちと歯噛みがきた。図星らしい。

「だってずっと同じ家に一緒に住んでて我慢とか無理だろ? 毎日あれやこれやな誘惑があって抱き締めて一緒に寝られて少し慣れたと思ったらデートしてくれて将来新居予定の屋敷の寝室に座ってんだぞ? おかしいだろ。これもういいって事だと思うだろ?」

 口調が元に戻った。ほっこりする。

「引くわよ」

 メルがまたばっさりいったわあ。

「くそっ……」
「というか、また戻ってるわよ」
「!」

 恥ずかしかったらしい。顔を赤くして片手で顔を隠す。別にいいのに。

「サク、気にしないで。そのままだと嬉しいし」
「僕が嫌です」
「格好つけたいお年頃だもんね~」
「ばっ、そんなんじゃ」
「そうでしょ?」
 
 メルがいると助かるなあ。昔のサクがしょっちゅう出てくるもの。にしても。

「サク、変えてくれるって言ったのに」
「それは、まあ……」

 気まずそうに唸る。
 私の前で笑顔の丁寧な口調をやめるのは余程嫌らしい。

「十年前と同じだと昔を懐かしんで終わりじゃないですか?」
「うん」

 なにが悪いのだろう。

「僕を異性として、結婚対象として見てもらいたいんです。十年前だといいとこで弟じゃないですか。昔怖がられた事もありましたし、実際このタイプでいくと女性の評価も良かったから」
「あー、なるほど」

 十年前も弟として見られると不機嫌になっていたし、サクが唯一で一番でないと嫌がっていた。今はその延長なのね。誤解だけは解いてこおこう。

「サクがツンツンしてても口が悪くても怖くないよ?」
「でも」
「言い訳できないなーっていうのは黙っちゃうけど」
「でも」
「それに弟じゃない」
「でも……え?」

 前に言ったことを忘れてるわね。

「サクはサクで、家族だけど弟じゃない」
「……」
「それに……きちんと男の人として見てるもの」
「え?」

 本当に? とサクが前のめりになった。それに頷く。メルったら空気読んで離れたとこで待ってくれてる。言えってことね。

「同居を断ろうとした時点できちんと見てる」
「それは結婚してくれるって事ですか?」
「違う」

 なんでも結婚に繋がるのね。
 サクは口元に手を添えて考え始めた。昔と同じ所作だ。
 弟でない、異性として見ている、家族、と私の言ったことを噛み締めている。暫くするとぶつぶつ言ってるのをやめて真面目な顔を上げた。

「外に出ましょう」
「なんでそうなるの」
「デートすればいける」
「なんでよ」
「なら屋台通り行ってくれば?」
「メルまでなに言ってるの」

 いつの間にか近くに戻ってきていたメルが新しいお茶を用意してくれていた。

「クラスはあまり食べないから、そこでの食べ歩きが夕飯になりますね」

 行くの決定してるんだけど?

「夜でも暑いから気をつけて」
「メ、メル」

 メルが助けてくれない。視線が合っても笑うだけだった。

「どうせサクが満足するまでデート終わらないわよ」
「え?」
「それに人目のあるとこの方が魔が差さないでしょ」
「もう差さない」
「そう言う人間ほど理性弱いのよ」
「ぐっ……」

 多数決でデート決定ぽい。

「クラスもさっき屋台通り気にしてましたよね」
「うっ」

 美味しそうな匂いもしたし。

「そういえば最近ケバブサンドの店が入ったわね」

 肉や魚、野菜をローストして独特のパン生地に包まれた食べ物らしい。気になる。

「じゃ、行きましょう」

 なんだか足元見られて外に出るのが悔しかった。なのでせめてもの抵抗をしてみる。

「サクが愛想笑いと丁寧な口調やめるなら行く」
「うええ……」

 腕を組んで悩み始めた。前に訴えた時もかなり粘ってたしな。

「……解りました」
「前みたく結局あまり変わりませんでしたは嫌だよ?」
「う……せめて屋台通りのデートの時間だけで」

 余程嫌らしい。

「クラス、もう癖みたいなものなのよ。訓練で毎日やるぐらいな気持ちでいた方がいいわ」
「そ、そっか……」

 メルの前は素なのに。

「旦那様、クラスの前ではへましないって十年訓練したのよ。戻すのに同じくらいかかると思って」
「こら、メル!」
「そっか、十年かあ」

 致し方ない。屋台のご飯も食べたいし、ここは私も譲ろう。

「分かった。少しずつね?」
「え?」
「屋台いこ?」

 驚いたサクがすぐに瞳を輝かせた。
 瞳が虹色に染まる。

「はい!」

 口調問答は夜まで続くことになるけど、そこはご愛敬ね。
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