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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

71話 イルミナルクスデート、新居(予定)の紹介

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「日帰りにしようよ」
「今から出てもステラモリスに着く頃には夜になりますよ?」

 旧ステラモリスの私たちの家までは馬車が通りづらい。朝に乗りこんだ場所だって朝日が登って道がはっきり分かる状態になってから来てもらった。

「クラス着きました」
「まだお泊まりの話終わってない」
「ええ、ここが今日の宿泊場所です」
「ふお」

 おりた場所は大きな屋敷の前だった。庭も広く、旧ステラモリスの家の庭の何十倍もありそうだ。屋敷自体も立派で二階建てで横に広い。

「僕たちの新居です」
「……はい?」
「イルミナルクスでの新居です。ウニバーシタスの帝都にも用意してますが、こちらは引き払おうかと」

 旧ステラモリスのあの家もサクに所有権がある。そしたら合計三つも家を所持? 行動力がひどい。

「クラスの住みたい所を選んで下さい。不必要な家は売りに出してもいいですし、別荘として使っても構いません」
「そこじゃない……」

 結婚前提でなにをしているの。返事してないんだってば。

「さあクラス」

 手を引かれ、渋々中にはいる。外観通り、落ち着いた色合いの中にきちんと華やかさがある内観だった。随分と綺麗に整えられているから、人を雇って保っているのが分かる。

「クラス?」

 名前を呼ばれて顔を向けるとかつて見慣れた姿があった。

「メル?」

 手紙でしかやり取りしてなくて、実際十年会ったことはないメルが手に持つバケツと雑巾を置いてこちらに駆け寄る。
 笑顔は変わらないけど、顔つきや立ち振舞いがよりしなやかに柔らかくなっていた。

「クラス、久しぶり。なんか変な感じね、手紙でやり取りしてたのに」
「うん。メル綺麗になった」
「嬉しいこと言ってくれるわね」

 ふふふと笑うメルは全然変わらない。

「あ、ごめん。奥様と呼ぶべき?」
「結婚してないし、婚約もしてない」
「ぶふっ、だって? 旦那様?」

 隣から盛大な舌打ちがした。サクったら顔がひどいことになってる。でも十年前みたいで嬉しい。

「クラス私ね、サクに雇われてるの」
「じゃあこのお屋敷で?」
「そうそう。もう八年かな~、引き抜きで来たの」
「そうだったんだ」
「ドゥルケもいるわよ」

 ウニバーシタスのポステーロス城、専属料理人で私に食材を融通してくれたりキッチン貸してくれた彼がここにいる。他にもメルから聞く侍女侍従の名前は知ってる人ばかりだった。

「サクってば強引にクラス連れてきたんじゃない? 大丈夫だった?」
「う、うーん……」

 デートに了承したのは私だけど、服買うくだりは確かに強引だった。ピクニックは楽しかったし、服は私の趣味を把握してくれてるのが分かる、叔父である国王に会うのはあちらの都合優先だし、あちらが会いたいと言うなら叶うべく動くしかないから仕方無い。
 というか強引って言葉使うなら押し掛けてきた時から強引だった。
 悩む私の姿にメルが再び笑う。

「旦那様ってば強引なだけだと結婚できませんよ?」
「別に、そんな強引には……」

 気まずそうに少し意地を張ったような様子を見せる。メルがからかっては不機嫌になってたかつてのサクがいた。

「急いては事を仕損じるという言葉があるわね? クラスが喜んでって態度と言葉に出さない限りは及第点ですらないわよ」
「ぐっ……」

 この二人は十年前と変わらない。心底納得できない顔をして歯噛みするサクと余裕の笑顔で勝つメル。あれ、そしたら不機嫌になったサクの機嫌とるの私?

「クラスの幸せを叶えて、泣かせない最高の旦那様の元でしか仕事する気ないので~、くれぐれも暴走はよしてくださいよ?」
「ぐ……」

 その様子じゃ達成してないわね~とメルが高笑いをする。もうこれ以上やるとサクの機嫌とれなくなるんじゃという心配しかない。

「メ、メル、その、お茶! お茶でもどう?」
「え?」

 これにはサクもメルも驚いて目を開く。おかしなことを言ったつもりはないけど。

「私、将来的に奥様なクラス付の侍女になるのよ? 対等な立場でお茶するって違うと思うけど」
「結婚してない」
「うぐっ」

 サクが胸を押さえた。彼の中では結婚してるようなものだから、私の言葉は辛いのかもしれない。でもそれには絆されないんだから。

「サクも一緒に」
「え?」
「三人でお茶をって」
「え? クラス本気? 私に旦那様とお茶? 立場抜きにしても嫌よ」
「こっちだって願い下げだ」
「ええ……」

 仲良くない……十年前は絡みつつも嫌いあってなかったのに。

「仲良くできれば機嫌直るかなって」
「……なら庭でティータイムできるよう準備するわ」

 メルがフォローをいれてくれた。さすが十年前から気が利く。

「メル」
「クラスじゃないと旦那様の機嫌とれないだろうから、二人で飲んで。お茶は私が用意する、これでどう?」
「うん」

 メルってば察した上で譲ってくれた。優しい。

「じゃあ準備の間は完璧な旦那様にエスコートされてね」
「え」
「ああでも気を付けるのよ。いつ手出すか分かったもんじゃないわ。盛りのついた犬みたいなもんだから」
「人を節操なしみたいに言うなよ」
「はいはい、じゃ、あとでね」

 サクへの扱いがぞんざいだ。
 素早くその場を去り、静寂が訪れる。
 一呼吸の後、サクが屋敷の中を案内しますと笑顔になった。
 やっぱり私の前はその顔なのね。
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