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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

68話 デート、イルミナルクスでご挨拶

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「イルミナルクス、王都オーラーディです。奥に見えるのがピウス城」
「へえ」

 新興国と言いつつも元々母体があったからか伝統ある趣深い建物も多い。
 馬車から降りてもサクは手を離さなかった。繋いだままゆるく連れていかれる。

「ここです」
「眩しい」

 天井が高くて大きな窓ガラスで作られた上等なカフェに来た。準備していたサクが円形のガラス張りの半個室に案内してくれた。そこに先客がいる。

「サク」

 繋ぐ手を引くとすぐに立ち止まりこちらを向く。大丈夫だと囁かれた。

「クラスに会いたがってたので止むを得ず時間を作りました。話してなくてすみません」

 信頼してる以上になにかある相手なのだろう。サクの言葉の色合いが穏やかだった。シレたちは信頼してるが故に扱いがぞんざいになってて最近ちょっと可哀想だなと思っているけど、目の前の妙齢の男性に対しては少し違う。信頼もあれば敬意も含まれているのに少し距離が遠い。

「急にすまないね」
「いいえ」
「初めまして。ステラモリス公爵とお呼びした方がよいかな?」

 私のことを知っている。驚きに挨拶が遅れるとサクがフォローをいれてくれた。

「叔父です」
「叔父さん…………え、叔父?」
「はい」

 待った、サクの叔父? 確かサクの父親の兄弟が王様ではなかった?
 まさか目の前の人の良さそうな男性ってイルミナルクス国王?
 国王に視線を戻し、にっこり笑ってもらった後、がちがちの動きで視線を王様からサクに移す。

「こ、国王陛下?」
「はい」
「あ、そ、の、御無礼を」

 急ぎ低頭したところで遅いけどやるしかない。というか護衛の一人もなく、軽装でこんなところに来る?

「今日はお忍びで来てるから大丈夫ですよ」

 サクがそう言ったところで、はいそうですかってならないでしょ。改めてご挨拶しても、もうちゃんとできるか分からない。分からないけどやるしかなかった。

「彼の言う通りだよ。今日はただの叔父としてお茶に付き合って欲しい」
「は、い」

 陽の光が程よく入る場所で上等なお茶を頂く。ウニバーシタスの皇帝の前でもここまで緊張しなかったのに、どうしてかイルミナルクス国王の前だと緊張する。

「……あ、美味しい」
「嬉しいね。この店は妻が手掛けたんだよ」
「王妃殿下が?」
「外観内装、食器から茶葉まで全て」

 この国は王であろうとなかろうと良い商案があれば採用するらしい。

「アチェンディーテ公爵がこの十年で多くを変えてくれたおかげでイルミナルクスはさらに発展したよ。妻がここを作れたのは公爵のおかげだからね」
「サクが?」
「大した事はしていません」

 サクのことを公爵としか見ていないのは仕事の話をしているからだろうか。サクが叔父に向ける距離と国王がサクに向ける距離が同じで、家族としては些か遠い。

「全部クラスを迎え入れる為の手段の一つです。仕事で実績があった方がいいでしょう?」
「はあ」

 国王の手前、どう反応したものか。サクのこれは、いつもの調子だしなあ。実績を見せつけられなくてもサクがすごい実力の持ち主なのは十年前から知っている。今更だ。

「仕事の話はつまらないかな」
「いえ、そういうわけでは」
「しかし公爵との婚約生活をきくのは野暮というものだろうし」
「はい?」

 素早くサクの方を向くと笑顔のまま明後日の方を見た。また勝手なことをしたのね?

「婚約……」
「婚約でも同じ家に住むのはいかがなものかという意見もあったが、今では概ね好意的に捉えられているね」
「市井や一部の貴族も取り入れてますし」

 それは言い訳にならないでしょ。婚約になにも了承してない。第一、話なかったし。

「十年前にここに帰ってきてから君の話ばかりだったよ」
「私の?」
「ちょっと、その話は止めて下さい」

 まあまあと言いつつ国王が続ける。どうやら私の思い出話をちらほらしていたらしい。

「料理をするなんて言って本当に出来てしまった時は驚いたね」
「はは……」

 貴族にはあるまじき姿だから当然だ。そういえばサクはずっと料理をしていたと再会した時は言っていた。

「我々の考え及ばないような料理も編み出していたよ。それを振る舞われていたから刺激を受けた妻が店を開いたんだが」

 確かにサクは女性受けがよさそうなカフェメニューが得意そうだった。どこで仕入れたレシピかは分からないけど、周囲も大いに影響されたらしい。

「将来に向けた準備だと城を飛び出してどこへ行くかと思ったら畑だった時も驚いたね。農家が慌てていたよ」

 農業畜産をイルミナルクスでこなしていたの。なにをしてても全部私との生活に帰結する。

「おかげで農業と畜産で改革が進んだよ」

 サクってばやりすぎなんじゃないの?
 うち山羊と鶏しかいないし畑も小さいのに、サクがやろうとすると結局国家規模だからイルミナルクスでは事が大きくなってる。

「婚約生活に入ってからは、それはもう幸せそうでこちらとしても安心してね」
「っ……」

 眉を下げる国王の顔はサクが困った時にする顔とよく似ていた。返す言葉がすぐに出ない。公爵の扱いをする割に子供を心配するような顔だ。

「小さい頃から遠慮がちだったからね。早くに公爵位も継いで大人と対等に渡り歩いて、私達も公爵として扱ったから幼い彼には酷だったかもしれない」

 ウニバーシタスでも同じでサクは子供だけど大人だった。
 中身の出来は全然違う。一人だったから味方になろうと思って一緒にいようと決めたけど、サクに必要はなかったかもしれない。
 今こうして一緒にいるようになって、私がサクを必要だと自覚させられた。

「君は公爵を公爵としてではなく、かつては神童としてではなく、彼を個人として見てくれているね」
「……はい」

 隣を見上げれば微笑んでくれて、側にいて一緒に何かをしたり、ご飯を食べて寝て。私の安心と幸せがサクと一緒にあると気づかないふりをしていただけで事実存在している。爵位もなにも関係ない。それが恐らく目が合う育ての親である叔父に伝わった。
 目を細めて満足そうに頷く。

「ありがとう」
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