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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録
67話 デート初日、ピクニックご飯
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「さあ行きましょう」
サクがいつになく張り切っている。時折デートとぶつぶつ言いながら笑ってる姿は少し引くけど概ね通常運行だ。結界の外に出ると旧ステラモリス市場近くに馬車が止まっていた。
「これに乗ります」
「う、うん」
魔法とかドラゴンやフェンリルにお願いするつもりはないらしい。曰く、行きも帰りも時間をとっていちゃつくのが目的だと。いちゃつくってなんだ。
「馬車、豪華すぎじゃない?」
「アチェンディーテ公爵家のは昔からこんなものですが」
そういえば十年前、上等な馬車でやって来たサクを思い出した。せめてもう少し地味めの馬車ならよかったのに。
「乗り心地、すごくいい……」
「光栄です」
「……ねえ」
「はい」
「…………隣に座る必要ある?」
勿論と断言される。広いから二人並べるけど向かい合わせでよくない? 心なしか距離近いし。
「ふふふふ」
「楽しそうね」
「それは勿論」
肩と肩が触れあうなんてなかったかもしれない。家では向かい合わせだし、唯一触れてくるとしたら眠る時だけだった。その後のハンドクリームの塗り合いとかいきなりハードルがあがることしてたから距離の縮め方がおかしい気がする。十年前みたいな手を繋ぐとかしてなかったぽいし。
「……」
「何か?」
「ううん」
サクの手はもうサクじゃない。大きくてかたくて骨張ってて私の手で包み込めないし逆に包み込まれるだろう。
「よければ」
「ん?」
「手」
サクの掌が上を向いて開かれる。
「繋ぎたいな、と」
伏し目がちに細められた瞳の目元が赤い。なにも言わないサクの手をとった時を思い出した。
「……ん」
手を添える。
ぴくりと震えたのを無視してきゅっと握った。
「……」
普段のサクなら即座になにか言いそうだったけどなにもない。覗き見れば僅かに目を開いて驚いたまま固まっていた。
「サク」
「……」
「サク?」
やっと気づくと笑って誤魔化す。
「すみません、つい感極まってしまって」
「……そう」
「こうした形はここに来てからしてなかったし」
「うん」
おっと、といつも通り鼻にハンカチを当てる。
「サクはいい服着てるんだから汚さないようにね?」
「ええ」
クラスの服が汚れたら大変ですと言うけど、私ちゃんとサクの服だって分かるように言ったのにそっちに捉えるの? 私の服よりサクの服の方が圧倒的に高い。
「それで? どこに行くの?」
はい、と元気よく返事をする。
「イルミナルクスです」
* * *
イルミナルクスまで馬車で行くにはそこそこの距離がある。だからか途中で休憩しようと降りることになった。
ひたすら野が続く丘と小川がある静かな場所だった。
「……」
「どうですか?」
「うん、素敵なとこね」
私の言葉に満足そうだ。大きめのバスケットを持って木陰にまた上等な布を敷いて座る。
「ピクニック?」
「はい」
行く時に荷物多かったから予想はしてたけど、中身はかなり気合いの入ったものだった。
「いっぱい作ったのね」
「つい」
張り切ってしまったらしい。日持ちするものは残して間食にしてもいいだろう。むしろ売れるんじゃないの。サンドウィッチなんてお店で売ってそうだし。喜んで頂くことにする。
「ん、美味しい」
「よかった」
料理なんてお手のものなんだから今更安心する必要ないのに。私の胃袋はすっかりサクに掴まれてるからサクの作るご飯が出てくれば問答無用で尻尾振ってお手をするわよ。
んん、懐柔されてきた気がする。よくない。
「クラス」
「ん、ありがと」
いいタイミングでお茶が出てきた。柑橘系の香りがする。
「ブレンドしたの?」
「夏なのでさっぱりめで」
サクってとても優秀な子だったけど、大人になったら非の打ち所がなくなった。今日のご飯にとても合う。
「完璧ね」
「はい」
涼しい木陰で風を感じながら二人で笑いあって美味しいごはんを食べる。これだけで十分な気がした。穏やかな時間を過ごして終われる。
「これで帰るでもいいのに」
私の言葉にサクがきょとんとした。
「何言ってるんですか。まだ始まったばかりなのに」
「ですよね」
分かってる。サクがやると言うのならとことんやるのだろうし。
ご飯が終わればテキパキと片付けてバスケットを片手にあいた片手を差し出してくる。
「クラス」
期待に満ちた瞳を向けられる。敬語は相変わらず抜けないけど、顔つきは少し幼さが出るようになった。少しは素直になってきているのかと思うと悪い気はしない。
「まだ距離があるので辛かったら言って下さい」
「うん」
困ったなと思いながら手を取った。照れて少し顔が赤いのを見ると十年前を思い出す。なんだかんだデートを楽しんでるし、楽しみにしている私は随分毒されていると思って笑った。
サクがいつになく張り切っている。時折デートとぶつぶつ言いながら笑ってる姿は少し引くけど概ね通常運行だ。結界の外に出ると旧ステラモリス市場近くに馬車が止まっていた。
「これに乗ります」
「う、うん」
魔法とかドラゴンやフェンリルにお願いするつもりはないらしい。曰く、行きも帰りも時間をとっていちゃつくのが目的だと。いちゃつくってなんだ。
「馬車、豪華すぎじゃない?」
「アチェンディーテ公爵家のは昔からこんなものですが」
そういえば十年前、上等な馬車でやって来たサクを思い出した。せめてもう少し地味めの馬車ならよかったのに。
「乗り心地、すごくいい……」
「光栄です」
「……ねえ」
「はい」
「…………隣に座る必要ある?」
勿論と断言される。広いから二人並べるけど向かい合わせでよくない? 心なしか距離近いし。
「ふふふふ」
「楽しそうね」
「それは勿論」
肩と肩が触れあうなんてなかったかもしれない。家では向かい合わせだし、唯一触れてくるとしたら眠る時だけだった。その後のハンドクリームの塗り合いとかいきなりハードルがあがることしてたから距離の縮め方がおかしい気がする。十年前みたいな手を繋ぐとかしてなかったぽいし。
「……」
「何か?」
「ううん」
サクの手はもうサクじゃない。大きくてかたくて骨張ってて私の手で包み込めないし逆に包み込まれるだろう。
「よければ」
「ん?」
「手」
サクの掌が上を向いて開かれる。
「繋ぎたいな、と」
伏し目がちに細められた瞳の目元が赤い。なにも言わないサクの手をとった時を思い出した。
「……ん」
手を添える。
ぴくりと震えたのを無視してきゅっと握った。
「……」
普段のサクなら即座になにか言いそうだったけどなにもない。覗き見れば僅かに目を開いて驚いたまま固まっていた。
「サク」
「……」
「サク?」
やっと気づくと笑って誤魔化す。
「すみません、つい感極まってしまって」
「……そう」
「こうした形はここに来てからしてなかったし」
「うん」
おっと、といつも通り鼻にハンカチを当てる。
「サクはいい服着てるんだから汚さないようにね?」
「ええ」
クラスの服が汚れたら大変ですと言うけど、私ちゃんとサクの服だって分かるように言ったのにそっちに捉えるの? 私の服よりサクの服の方が圧倒的に高い。
「それで? どこに行くの?」
はい、と元気よく返事をする。
「イルミナルクスです」
* * *
イルミナルクスまで馬車で行くにはそこそこの距離がある。だからか途中で休憩しようと降りることになった。
ひたすら野が続く丘と小川がある静かな場所だった。
「……」
「どうですか?」
「うん、素敵なとこね」
私の言葉に満足そうだ。大きめのバスケットを持って木陰にまた上等な布を敷いて座る。
「ピクニック?」
「はい」
行く時に荷物多かったから予想はしてたけど、中身はかなり気合いの入ったものだった。
「いっぱい作ったのね」
「つい」
張り切ってしまったらしい。日持ちするものは残して間食にしてもいいだろう。むしろ売れるんじゃないの。サンドウィッチなんてお店で売ってそうだし。喜んで頂くことにする。
「ん、美味しい」
「よかった」
料理なんてお手のものなんだから今更安心する必要ないのに。私の胃袋はすっかりサクに掴まれてるからサクの作るご飯が出てくれば問答無用で尻尾振ってお手をするわよ。
んん、懐柔されてきた気がする。よくない。
「クラス」
「ん、ありがと」
いいタイミングでお茶が出てきた。柑橘系の香りがする。
「ブレンドしたの?」
「夏なのでさっぱりめで」
サクってとても優秀な子だったけど、大人になったら非の打ち所がなくなった。今日のご飯にとても合う。
「完璧ね」
「はい」
涼しい木陰で風を感じながら二人で笑いあって美味しいごはんを食べる。これだけで十分な気がした。穏やかな時間を過ごして終われる。
「これで帰るでもいいのに」
私の言葉にサクがきょとんとした。
「何言ってるんですか。まだ始まったばかりなのに」
「ですよね」
分かってる。サクがやると言うのならとことんやるのだろうし。
ご飯が終わればテキパキと片付けてバスケットを片手にあいた片手を差し出してくる。
「クラス」
期待に満ちた瞳を向けられる。敬語は相変わらず抜けないけど、顔つきは少し幼さが出るようになった。少しは素直になってきているのかと思うと悪い気はしない。
「まだ距離があるので辛かったら言って下さい」
「うん」
困ったなと思いながら手を取った。照れて少し顔が赤いのを見ると十年前を思い出す。なんだかんだデートを楽しんでるし、楽しみにしている私は随分毒されていると思って笑った。
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