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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

64話 口調問答

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「それはもう僕が好きって事ですよね?」
「違う」

 紫の瞳に虹がかかって輝く。ポジティブなのかネガティブなのか分からないわね。

「シレも筆頭宰相になりましたし、そのままシレが王位を継げば終わりです。ここまでくれば僕もここで仕事をしなくてもいいでしょうから今日辞めようと思って」
「シレ困ってたけど」
「大丈夫です。その内一人で出来るようになりますよ」
「いてあげればいいのに」
「えー?」

 切り捨てた。ひどいものね。シレも相変わらず辛辣に物を言われ困っていたあたり十年前と重なる。

「ねえサク」
「はい」
「サクの口調は、シレと一緒の時のが本当の姿?」

 これには笑顔のまま身体を震わした。当たりだ。サクは意図的に私の前だけ言葉遣いを変えていたのね。

「やっぱり」
「ええと……」

 悲しくなってくる。だってわざわざ偽らなきゃいけない相手だったってことだもの。勝手に壁を作られていた気分だ。

「十年前の方が距離近かった……口悪かったけど素直だったし」
「クラス……」
「今の口調だと心配されても本当のサクじゃないでしょ……なんだか今はサクが遠く感じる」

 その言葉にサクの顔が歪む。あ、泣きそう。なんでサクがそんな顔するの。

「サク」
「……可愛い」
「……は?」

 頬を少し紅潮して、瞳を潤ませて可愛いと二度言った。あっれ、さっき泣きそうな感じだったのになんなの?

「落ち込むクラスが可愛いすぎて困ります」
「わ、私っ、真面目に言って、」
「はい」

 それ以上可愛いと鼻血でますと宣言され、ぐっと口を閉じてしまった。今のサクは両手が塞がっている。そこで鼻血を出したら折角の上等な服が台無しだ。宰相の服、というかこういうとこで着るサクの服高そうだし。

「確かにクラスの言う通りです」

 視線を下げてサクが囁いた。見下ろし名前を呼ぶと顔を上げてくれる。困った顔をしていた。

「距離とっていたんでしょうね」
「……やっぱり」

 はっきり言われるとそれはそれでショックだ。懐いてくれていると思っていた。けどそれは私の勘違いだったのだろうか。

「怖がるかなと思って」
「怖がる?」
「十年前、口悪いって言われましたし、怖がらせた事もありました」

 確かに言葉がどうこう言った気がするけど、怖かった記憶はない。言い訳できないことはあったけど。

「怖くない」
「クラス?」
「怖くないから、口調元に戻して?」
「それは……」

 あからさまに渋ってきた。

「サクお願い」
「ええ……ほらだって、我慢できなくなるし?」
「我慢?」
「もっと可愛がりたくなります」

 今以上の甘やかしはいらないけど、ここは引けない。

「やだ、十年前のサクと同じに戻して」
「可愛げないじゃないですか。この口調の方が好かれますし」
「私は可愛げない方のサクが好き」

 この言葉にさすが唸る。私が好きな方を選ぶだろうことは分かっていた。

「サク」
「えー……」
「サクお願い」
「でも」
「サク」
「……」

 顔を逸らしてくるのを頬に手を添えこちらを向かせる。困った顔をしてる。いつもなら可哀想だと引くけど今日は引かない。馴染みのある相手に言葉崩して話すなら、私もそこに入りたい。丁寧な言葉遣いにされて、その他大勢のご令嬢の一人は嫌だった。

「サクの特別が欲しい」
「………………分かった」

 絞り出された了承の言葉に笑う。やった、これでサクらしいサクが戻ってくる。
 喜ぶ私にサクは変わらず眉を八の字にしたまま微笑んだ。少し呆れたように見える姿は十年前もたまに見た顔だった。

「ではこのまま行きましょうか」
「え?!」

 いい加減おろしてと言っても無視された。

「サク!」
「お願い聴いたから、こっちのお願いもきいてもらいますよ」

 このまま城に戻りますと一言。
 どうやら帰りは一緒らしい。先にドラゴンとフェンリルと一緒に帰るのはサクとしてはだめだと。

「てか口調戻ってない!」
「急にはちょっと」

 笑って誤魔化してる。ちょっとむっとするわ。

「サク」
「少しずつで、ね?」

 可愛さアピールしたって許してあげない。
 というかそろそろ木々の間を抜けてしまう。こんな抱っこされた姿は他人に見られたくない。

「や、やめ」
「しっかり掴まってないと落ちますよ」
「ひえ」

 歩き始めると振動で身体がぐらつく。思わずサクの首に回していた腕に力をこめてしまった。サクは満足そうに進んでいく。
 程なく開けたところに出たらシレがこちらを見留めた。私の姿を見て驚き駆け寄ってくる。
 恥ずかしくなって俯いてしまった。
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