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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

62話 白いポメラニアン

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「少し見るだけね。すぐ帰る」
「ああ」
「手伝おう」

 転移が使えない代わりに連れてってくれるという。移動はドラゴンが飛んで一っ飛びか、フェンリルが駆けてこれまた一っ飛びか。どちらにしろ足は確保した。

「変装とかする?」
「それもいいな」

 気分があがると二人盛り上がる。遊び半分なのね。私も興味本意だから人のこと言えないけど。

「なら変化したらどうだ?」
「変化?」
「クラスの血筋なら出来るはずだ」
「そんな話聞いたことない」

 魔法とは異なる変身能力があるらしい。二人の昔馴染みが私の祖先らしいから特殊能力があってもおかしくないということ?

「お前の子達はどうやっていた?」
「詳しくは知らないさ。感覚で出来るようだったが」
「ふむ。ならばクラス、フェンリルのような見た目を想像してみなさい」
「犬みたいになれるの?」
「似たようなものだろう」

 変身の魔法なんてしたことないのに。
 目を瞑って考える。犬みたいな、フェンリルみたいな感じ……銀色の毛並みに金色の瞳かあ。

「クラス気合いだ」
「クラスならやれるぞ」

 気合いを入れてやれるものなの? 今までやったことないのに?
 感覚でやるって分からない。フェンリルをひたすら頭に思い描いた。

「……成程」
「ほう、これは興味深いな」

 目を開けてと声がかかり言う通りにすると視界が低かった。もしかして成功した?

「血が薄くなったからか?」
「だろうな」

 声は上から降ってきた。見上げるとドラゴンとフェンリルがしげしげ眺めている。気を利かせてドラゴンが姿見をこちらに向けた。

「わあ」
「ふむ」
「できて、る?」

 どう見てもフェンリルじゃない。白い子犬だ。

「フェンリルがポメラニアンになるとは面白い」
「変身出来たならいいだろう」

 フェンリルに咥えられ宙に浮く。少し持ち上げられただけで意外と高く感じる。というかこの咥えられ方って無抵抗になるものね。

「行くか」
「ああ」

 どんな感じなんだろうと思って少しわくわくしたことをすぐに後悔する。

* * *

 物理で行くのではなくて、魔法で行きたかった。えらい重力がかかって目が回る。

「! ……! ……!」

 声すら出せないまま周囲の風景すら楽しめないままの移動だった。もっと優しくしてほしいけど、魔法と同じレベルで移動するのだからこうもなる。早くに気づけばよかった。

「クラス着いたぞ」

 そっと芝生におろされ、目を回した私は少しの休憩の後、人型に戻ってしまった。

「慣れないと持続しないか?」
「というよりも服ごと変身したのか? 昔は服は別だったろう」
「本来服は別だがクラスのイメージが服ごとだったのだろう」

 割とどうでもいいこと話してるけど、服ごとじゃなかったら今頃私全裸で危機一髪じゃない。

「あれ、ここ」

 やっと立ち直ったと思って周囲を窺うとよく見た光景だった。

「ウニバーシタス?」
「ああ」
「イルミナルクスじゃないの?」
「ああ」

 よりにもよってかつて暮らしていたウニバーシタス帝国ポステーロス城だなんて。あまり来たくなかった。

「サクがここに?」

 会合でもあるのだろうか。城の中はさすがに入れないので、最初にたどり着いた城内東側、騎士用の馬屋を越える。真東側は王族エリアで外回廊もあるから少しでも見られるかもしれない。庭の木も比較的大きく高いから隠れやすいし。

「ねえサク、もう少し時間を」
「くどい」

 聞き覚えのある声に顔を向ける。
 外回廊にサクとシレがいた。シレが焦った様子でサクを追いかけている。

「もう少しやってってよ」
「シレが宰相になったら終わりだっつー約束だろ」

 そもそも他国の人間が関わるべきではないと言う。

「でもさあフィクタもまだ後宮だし、レックス兄上も帰ってきたし」
「お前がさっさと王位を継げばいいだけの話だろうが。さっさとえらくなって仕事しろ」

 昔のサクとシレみたいだ。サクのツンツン具合と口の悪さが十年前と同じ。懐かしかった。

「長期も短期も計画しただろうが」
「お陰様でうまくいってるよ」
「ああ? 水路引けつーたのに引いてなかっただろ」
「あれは農業用排水優先でさ」

 ステラモリスは地形の特性上水路を作りづらいという話があがる。山あり谷ありだから元々作りづらいのに加え、農業地域を優先したから居住者ができるはずもなかったあの小屋には水路を引く余裕がなかった。
 私も一度聞かれ農業地域優先をお願いした記憶がある。ドラゴンとフェンリルがいて水回りは困らなかったから。

「十年もほっとくか?」
「そこは本当ごめんって」

 何回か水路引きを失敗していたらしい。新しく水路を引くことに関しては前時代の国々の方が技術が上のようだ。そもそも山の合間に造るのは大変だろうし。

「……」

 というか今のサクの姿は小屋に来てから数える程しか見ていない。十年前のサクのままだ。

「あっちがサクなんじゃない」
「ふむ」
「そうだな」

 と、ドラゴンとフェンリルが同意を見せる最中に、横を向いていたサクがぎゅんという効果音が出そうな勢いでこちらを向いた。瞳孔が開いている。怖いよ。

「バレた」
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