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2章 変態宰相公爵の、魔女への溺愛ストーカー記録

41話 いつの間にか住む事が確定していた

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「一緒に暮らせばいいですね!」
「は?」
「ああ、勿論この家でです」

 結婚の話は急でしたからねとサクが困ったように笑う。いやいやどうしてそこから一緒に暮らすってなるの?

「そ、それは無理だよ。未婚の男女が一緒に暮らすだなんて」
「十年前だって同じ部屋で寝ていたじゃないですか」 
「うっ……そ、れは、サクが小さかったから……」
「あの時点で僕は公爵位を得ていたので、そもそも同じ部屋で寝るというのも問題だったかと」

 じゃあなんでサクってばあの時ベッド入ってきたの? サクから入ってきたくせに。枕取りに行って戻ってきたの覚えてるんだから。
 いや、でも今は過去をどうこう言ってる場合じゃない。今をどう断るかだ。

「貴方には……アチェンディーテ公爵には相応しい相手がいらっしゃるでしょう?」
「僕はクラスがいいです」
「でも」
「相応しいとか相応しくないとか関係ないでしょう? 幸い好きな者同士が結婚しても何も問題ない世の中です。クラスが気にする事は何もないと思いますが」

 どうしよう、分かってくれない。というか譲る気ないんだわ。
 確かに好き合った者同士は結婚できる。それでも年齢差、身分差を気にする人間は多いし、高爵位を持つ人間の間では政略結婚も未だ現存しているのだから、そんな簡単に言える話でもない。 
 なのにサクったら、結婚同棲と囁きながら悦に浸っている。

「ふふふふ」
「ええと、その」
「これ、つけてくれてたんですね」
「え?」

 サクの視線を追うと私の頭上のいつもつけている髪飾りだった。

「ああ、サクがくれた」
「ええ、本当につけてくれてる」

 想像していたよりもずっと似合いますねとサクが笑みを深くする。

「約束したし」
「ええ、律義に守ってくれる所も好きなんですよ。今度新しいの買いましょうね」

 それ安物ですからとあっさり言ってくる。まだ使えるのに。

「毎日クラスの髪も整えます。毎日違う髪飾りをするのもいいですね」

 僕が選んで僕がつける、と一人ぼそぼそ言いながら悦に入っている。大丈夫だろうか。
 というか、もう生活する気満々じゃない。なんとか断ろう。いても無駄だよと思わせるぐらいの理由だ。

「あの、私、あと一年で死ぬんです」

 この話はあまり持ち出したくなかったけど仕方ない。卑怯かもしれないけど、この話をすればさすがに引いてくれるはず。

「一年で?」
「来年の春には」

 ここで初めてサクが瞳に真面目な色を宿した。無表情に近いけど、なにかを探るような色合いも見える。

「呪いを、かけられてて」
「あの女?」

 言い淀むと、フィクタの名前が出た。ウニバーシタス帝国、ポステーロス城で私に暴力をふるっていた人物、第一皇太子妃フィクタ・セーヌ・プロディージューマ。

「呪いはもうないと言っても?」
「え?」
「……いやなんでもないです。ええそうですね、そしたら僕に看取らせてくれますか?」
「はい?」

 一年間ここで一緒に住んで、私の死を見届けてから去りたいと言う。

「まあそんな呪いなんて忘れるぐらい甘やかしてあげますよ」
「え?」
「身の回りのことは僕がやりますので安心して下さい」
「いいよ、そんな」
「この一年を自分へのご褒美だとでも思って好きに過ごしてください」
「でも」
「僕がやりたいんです」

 炊事洗濯家畜の管理から農作業まで全部やるとか言うけど、仮にも公爵よね? 無理があると思うけど?

「では荷物を」

 なにも詠唱なくモーションなく魔法で荷物を転移させた。どさっと家の扉前に大きな荷物が置かれる。

「よろしくお願いします」

 満面の笑みだ。そして施錠してある扉がなんなく開いた。合鍵はなかったはず。というか鍵使ってる素振りがなかった。
 どうして当たり前のように入っていくの?

「いつの間にか住む事が確定していたな」
「思いの外キモい」
「ああ」

 ドラゴンが肩に乗りながら溜め息をついた。最初から住む気だったけど、いつの間にか住む際の条件やりとりになってたな。

「あれって本当にサク?」

 荷物を持っていそいそ家に入るサクの後ろ姿を眺める。背も高くなって細身ながら男の人の身体になった。話し方まで違うし、昔のツンツン具合はどこにもない。

「クラスが一番よく分かっているだろう?」

 ドラゴンが薄く笑う。

「……サク、なんだよねえ」

 虹色のかかる紫の瞳が全てだった。あれがサクがサクであると証明している。

「まあかなり気持ち悪くなって帰ってきたがな」
「それは同意だよ」
「ああ」

 フェンリルの言葉に二人して深く頷いてしまった。
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