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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

37話 ステラモリスへ(一章最終話)

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「南端は医療の拠点だったので一度閉鎖していた。そのまま手付かずだった為、あの地は保護区にでもしようと考えていた」
「父上本気ですか」

 シレの声が荒らぐ。それもそうだろう。冤罪なのだから、わざわざ被る必要はない。

「では追放でお願いします」
「クラス!」
「シレ、私はサクの安全を確実にしたいの」
「イルミナルクスに戻れば大丈夫だよ」

 首を横に振る。
 サクに罪が被せられる以上、十割ではない。

「今なら死刑撤回を追放にして、断罪対象は私だけでサクの名をなくすことができますね?」
「可能だ」

 ステラモリス南端を収容所なりなんなりそういう設定にして、そこに第一号の私が行く。サクの名前はなかったことにする。どうしても名が出てしまったところには魔女に騙されたとし私が全てを背負う。くしくも第一皇太子妃が言ってた話の通りになった。皇太子妃としてもその方が気分がいいだろう。

「クラスがそこまでする必要はないよ」
「いいの」
「けど」
「あのね、そんなに格好いい理由で言ってるわけじゃないの」

 サクを救いたい気持ちは勿論ある。
 けどそれ以外に、皇太子妃から離れたいとか、サクに自分を重ね、私と違って助かる道をいってほしいと思っていたり、打算的な理由もある。

「確かに私にとってサクは特別可愛いくて家族みたいに思っているけど、私、一番に自分のこと考えてる」
「それは当然の事だよ」

 私は周りに優しくされ助けられてここまできた。騎士の治癒だけで今まで助けてくれた分を返せたとは思えない。

「レックス兄上やフィクタ妃が扇動した事や君に直接した暴力を長い間、僕を含めて周囲は何もしてなかったんだ。都合のいい事だと分かっているけど今回だけはって思って」

 皆が私のことを考えてくれている。

「それだけで充分だよ」
「クラス」
「第三皇子殿下」
「……ユラレ伯爵令嬢」
「私はステラモリス公の意志を尊重したい」

 ユツィは私をまだ公国の人間として扱ってくれる。たとえそれが皇帝の前でもなんてことなしに言う。私がユツィの好きなところだ。

「ユツィ」
「今後の護衛は私にお任せを」
「それはいいって」

 追放される身の人間に護衛ってなんなの。ユツィってば、がっかりしてる。本気で言ったの。

「暴漢がきたらどうするのです」

 ドラゴンとフェンリルいるから大丈夫とは言えない。するとシレがやれやれと首を軽く振った。

「結界をしこう」
「結界?」
「名目は君の逃亡防止、周辺は進入禁止で封鎖、箝口令もしこう」

 いいのときくと、シレがここまできたらクラス譲らないでしょと苦い顔をした。皇帝にも確認すると頷きにシレに任せると言う。

「ヴォックス兄上が戻ったら、なるたけ早く出よう。時間は朝方がいいかな」

 ただし住まいの確認をしてからだよ、と念を押された。シレの記憶では医療拠点にしていた大きな施設は解体したけど、物置に使っていた小屋があるはずだと言う。確かに薬等の医療物資をいれていた小屋があったはず。よく知っている。

「ではそれまでは騎士側で身柄を預かろう」
「そうだね、一人は危険だしユツィが側にいればいいか。父上、それでも?」
「構わない。私が命じた事にしなさい」
「ありがとうございます」

 君が受けた仕打ちと比べても償いきれないと皇帝が眉根を寄せた。

「レックス兄上達の事は僕らでうまいことやっておくから」
「うん」

 無理しないでねと伝える。皇帝があの二人に対してどう対応するかは分からないけど、今までのことを考えると抵抗もありそうだ。

「サクの事を一番にしてね?」
「分かってる」
「ステラモリス公」

 呼ばれ目を開く。皇帝が私の名前を呼んだ。
 なくなった姓で。

「君の希望通り、イグニスの子の安全は保障する。イルミナルクスとの交戦も起こらないよう配慮しよう」
「ありがとうございます」
「あってはならない事だと分かっているが、この現状甘えさせてほしい」
「かまいません」

 皇帝が頭を下げ、その後シレたちと少し話をして部屋を後にした。追放だなんてあまり実感がない。数時間後には城中に目立つように公表されるとも思えなかった。それぐらい城の中はいつも通りだ。

「クラスには騎士エリアの客間を使ってもらいましょう」
「うん」

 夜は扉の前に私が護衛をと言うのをどう断ろうか悩んだ。でも騎士の中で信頼を寄せているのはユツィとヴォックスぐらいしかいない。いくら関係が緩和しても他の騎士たちとは深く関わっていないし、ユツィがそもそも許さなそう。

「必ずお守りします」
「そこまで気負わなくても」

 程なくしてサクが無事イルミナルクスに渡ったことを聞かされ、ヴォックスがそのままステラモリスの私の住まい予定地の視察と準備にまわった。本当に仕事が早い。

「クラスは良かったのか」
「うん」
「そうか」

 仮部屋にドラゴンとフェンリルを招き入れた。やっぱり二人がいると安心感が違う。

「二人はどうする?」
「我々もクラスと共に行こう」
「本当?」

 二人は城にいないといけないかと思っていたけど、そうでもないらしい。

「クラスの側にいれば自ずと解決する」
「まだ予定が狂ったままなの?」
「このままなら問題ないだろう。しかし念には念を、だな」
「手伝えることある?」
「……生きる事だ」
「ん?」

 詩人みたいなことを言うのね。
 曰く、私が生き延びることが最善だという。私は二人の予定の中心ではないけど、私が生きると予定の中心がより良くなる。よく分からないけど、一緒にいる理由があるなら嬉しい限りだ。

「分かった」
「面白いな」
「そうだな。クラスが生き延びるだけで周囲の生存率が変わるのか」

 相変わらず面白いことを言うのね。治癒魔法と医療的な処置のことだろうか。
 
「今度きちんと中身教えて」
「時が来たらな」

 数日後準備を終え、私は城を去る。
 こんな形で故郷に帰るとは思ってなかった。
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