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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

34話 サク帝国脱出へ

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「このままでは帝国が傀儡となるだけだ」
「もうよろしいのでは? あの魔女共々屠る時が来たのです」
「ああ。こちらが下手したてに出てやれば調子に乗る奴らに鉄槌をくだしてやろう」

 タイミングが悪い。
 秋らしい晴天、気温も過ごしやすく、ドラゴンとフェンリルの言うハロウィンという日にあたる日に、最悪の話を聞いてしまった。

「……」
「では今日?」
「ああそうだな。父上にも早く目を覚めてもらおう。そして私に帝位を譲ってもらわねばなるまい」
「そうですわ。帝国を統べるのは貴方しかおりませんもの」

 この城に隠し通路みたいなのがあることは前回の盗み聞きで知り、ドラゴンとフェンリルと一緒に探すことをしていた。その通路を出た先の人気にない通りで、第一皇太子と皇太子妃が物騒な話をしている。

「国家反逆の罪で首を落とす」
「っ」

 隠し通路を逆に戻って出た先から最短距離で騎士エリアに向かう。つい先日の視察に行く前にも第一皇太子のことを話していた。ヴォックスやシレなら話を聞いてくれるはず。
 これが本当に実行されてしまうなら、サクを守らないと。

「……」

 隠し通路をただ戻っただけのはずが、新しく隠し通路に迷い込んでしまっていたらしい。気づいたら知らない壁の裏で、僅かに漏れる光をのぞくとシレの部屋の暖炉の裏にだった。

「最善はイルミナルクスから出ない事だろうね」
「今晩にでもやるか?」

 シレの部屋にはヴォックスがいた。二人で真剣な面持ちで話し込んでいる。声のボリュームも小さいから聞き取りづらかった。

「それがいい。安全を確保してから父上に事実を話そう」
「話せればいいが」
「まあ邪魔は入るだろうけど本来謁見権利はあるのだから邪魔される謂れはないね」
「分かった……それで彼はなんと?」
「サクってば動く気なくてさ」
「困ったものだな」

 サクの話だ。
 暖炉の裏から静かに出る。気配に気づいた二人が振り返った。

「クラス、その隠し通路知ってたの」
「サクが危険なのね」

 二人の顔が強張る。さっき聞いた第一皇太子と皇太子妃の会話を伝えるとより顔が暗くなった。

「兄上、先にサクを逃がそう」
「ああ」
「どうするの?」
「帝国領土内の視察と称して外に出ればいい」

 前と同じだ。今回はヴォックスが帝国領土端の警備騎士の元を視察する形をとるらしい。最近のサクなら行動範囲も広いし、行動としておかしくはない。
 と、遠くから激しい足音が聞こえ、ノックもなしに扉が開かれた。

「ヴィー!」
「早いな」
「ユツィ?」

 ヴォックスが眉を寄せる。
 三人部屋を出て騎士エリアに向かった。

「サクは?」
「こちらで保護しています。今は彼の護衛アルトゥムと、侍女のメルが側に」
「メルが?」

 メルは王族エリアにいたサクを騎士エリアまで連れてきたらしい。
 騎士エリアに着くと、ヴォックス直属の精鋭数名とサクたちがいた。なにかを考える時の所作で口元に手を当てぶつぶつ言ってる。変わらないなと思うと少し胸が苦しい。

「サク」
「……俺が色気を出しすぎたからか」

 苦虫を噛み潰したように囁かれた。たぶんサクは今回第一皇太子と皇太子妃の思惑の深いところまで全て理解している。
 にしても色気?
 困ったように眉を八の字にして君のせいじゃないって言うシレは分かってそうだ。後で聞いてみよう。今は逃げるのが先だ。

「時間がない。話は歩きながら」

 メルが先導する。しかも隠し通路を使い、道もよく知っているようだった。

「メル、どうして」
「僕がお願いしていたからね」

 シレが困ったような苦いような狭間の顔をする。
 こうなる可能性を考えていたのだろうか。

「普段の仕事に加えてお願いされてたから大変だったのよ~?」

 メルが努めて明るく言う。この通路の会話は外側に聞こえにくくなっているらしく、そう言った部分も調べあげた上で選んでいた。
 毎日他の侍女と比べて行動範囲も広く忙しそうに走り回っていたのは侍女の仕事の傍らで隠し通路探しや情報収集をしてきたから。今になって妙に納得してしまう。

「メル、ありがとう」
「ふふ、どういたしまして」

 クラスに感謝されるならやりがいあるわねとメルが笑う。手作りお菓子と引き換えよとも。冗談を交えてくれるあたり気を遣われている。

「ここを出れば騎士舎裏の馬屋の前です」
「ああ、ありがとう」

 メルとはここでお別れだった。なるたけ人に見られないようにと言う配慮だ。

「ユツィ」
「こちらを」

 表をユツィとヴォックスが通って来ることで正式な視察として演出したらしい。私とサクとシレ、この三人でも十分目を引くけど、ヴォックスとユツィが騎士を連れているのことで通常通りの日々を演出できる。
 ヴォックスとサクが馬に乗り、ヴォックス直属の精鋭も後ろに続く。

「気をつけてね、サク」

 当然のように見送りをするとサクが不快感を顕にした。

「クラスも俺と同じ罪に着せられるだろ」
「……」

 なにも話していないのによく分かってる。あの時、第一皇太子と皇太子妃の会話には私のことが加わっていた。本来なら私も逃げた方がいいだろう。

「クラス」
「サク、いってらっしゃい」
「……一緒に来い!」
「え?」

 サクが掌を差し出した。
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