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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

33話 帝都公衆浴場視察

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「ねえサク、機嫌直して?」
「そもそも機嫌悪くない」
「サクってば」

 それでも手繋いだままなのが可愛いとこなんだけど。
 サクは不機嫌そのまま市場を隅から隅までまわり、最後追加の視察場所に入った。

「メイン通りじゃないね?」
「もっと裏の通りもあるぞ」
「どこいくの?」
「ここだ」
「お酒……」

 飲む場所ではなくて売る場所だったからいいものを、場違いにも程がある。
 一つ道は外れていたけど、中はそこそこ品がよく出てきた店主の品もいい。

「お話は第三皇子殿下より賜っております」
「え?」

 お酒が並ぶ店の中、椅子を用意された。

「第三皇子殿下からの御質問ですが」

 お酒の粗悪品の横行についてだった。お酒に良いも悪いもあるのだろうかと思ったら、お酒の強さを偽ったり産地を誤魔化したりしている売主もいるらしい。
 店主がいくらか手に入れた酒瓶を回収し、それを城で精査する。サクやシレって普段こんなに仕事をしているのね。

「よし」

 活気のある大通りに戻るとギャップに少し驚いてしまった。大きな街だと少し歩いただけでこんなに違うのね。

「最後だ」
「うん」

 向かった先は公衆浴場だった。

「水路の設置は存外受け入れられたようでしたね」
「ああ」

 どうやらあちこちまわるついでに先に使い始めた水路のチェックもしていたらしい。確かに当たり前のように利用してる人たちが多かった。

「では私たちは」
「おう」
「え、まって、サクは?」
「……俺は男だから女湯入れないだろうが」

 呆れられた。

「六歳なら女湯だっていけるんじゃ」
「入らねえよ!」

 あ、いけない。不機嫌になった。顔も赤い。そういえばサクは年齢の割におませさんだった。しかも黙ってると可愛いから、女湯入ったら注目の的になるかもしれない。

「そっか」
「クラス、私がおりますので安全面はお任せください。しっかり視察しましょう」
「サクの護衛は?」
「こいつ」

 ちゃっかり着いてきたフェンリルがサクの側に現れた。どこから一緒だったの。ということは姿を見せないけどドラゴンも近くにいるのね? 私の言いたいことを分かっているかのようにフェンリルの尻尾が一振りされた。

「分かった」

 サクが一緒だと目立つだろうと思っていた公衆浴場はユツィがいるが故に目立つことになった。
 ユツィはスラッとした長身で鍛えられている分メリハリのある身体のラインをしている。美貌もさながら雰囲気だけで人を惹き付ける魅力もあるし、なにより市井にプレケスの英雄である女性騎士とよく知られていたらしい。
 お風呂場で黄色い声があがっていた。でもユツィがいたから周囲に聞き取りができたといってもいい。ユツィに話しかけられると皆嬉々として応える。おかげで視察らしい視察ができたと思う。

「お風呂いいなあ」
「城にも作りますか」
「いいかも~」

 サクのシャンプーハット姿があればなおよしだったなあ。シャイのおませさんだから、どう足掻いてもお風呂一緒はなさそうで残念だ。

「サク」
「おう」

 公衆浴場あがり、サクはサク自身のことも済ませたらしくフェンリルを連れて出入口前で待機していた。ドラゴンが素早くサクの背中に隠れる瞬間が見えて、きちんと付き添ってくれてるんだなと仲よくなった姿にほっこりする。

「ほら」

 お風呂あがりは水分補給だと飲み物を用意してくれてた。私とユツィの分をきちんと用意してくれて優しい。帝都で人気のドリンクで並ばないと買えない時もあるとユツィが教えてくれて、それに対してサクが恥ずかしそうに視線を逸らした。

「サク、ありがと」
「……おう」
「考えて買ってきてくれたの?」

 並んでまでしてこれを選んでくれた。
 頬を赤くして、外出たことないなら王道のものがいいだろと、もそもそ気味に言う。気を遣ってくれて可愛い。

「ふふふ」
「し、視察も兼ねてたからっ」
「視察かあ」

 何故根強い人気を維持できるのか、市場心理も踏まえた調査だった。今言っても最初に王道のものがいいだろと言ってた時点で本音駄々漏れだ。うっかりさんね。調査じゃなくて私とユツィの為に選んだって言ってるんだから。

「確かに後味さっぱりで飲みやすいもんね」
「果実が入っているからでしょう。季節によって果実を変えるので味が変わるのが魅力だそうです」

 ユツィはよく知っている。サクが飽きさせない工夫だろうと返した。
 
「サクは飲んだことあるの?」
「いや」

 私と同じように入城して時間を一緒に過ごしていたら街に出ることはないだろう。侍従や護衛に頼めば買ってきてくれるかもしれないけど。
 飲んでないのに視察が済むのかと思うと、飲んだ方がいい気がした。

「飲む?」

 貰ったもののお裾分けもどうかなと思ったけど、サクの前に飲み物を出す。
 サクの目が開いた。頬が赤いままだ。

「な、なに言って」
「半分こする?」
「だ、これ、飲んで」

 挙動不審になった。
 確かに私が一度口をつけたものだ。いいとこ育ちのサクにはありえないのね。お行儀悪いかあ。

「美味しいのに」
「う……」

 赤くしたままオロオロしてるなんて珍しい。
 ユツィはにこにこしたまま静観を決め込んでいる。即否定しないから飲みたい気持ちがあるはずと思う。

「視察なんでしょ? 大丈夫だよ。私もユツィも少しぐらいお行儀悪いことしてても怒らないし、誰かに言うわけでもないし」
「そ、そういうんじゃなくて」

 もごもごした。いつもはっきり物を言うから不思議な感じね。でももう一息だ。

「だめ?」
「…………駄目じゃない」

 渋々受け取った。数秒じとっと見つめてから口をつける。

「ね、おいしいでしょ?」
「…………おう」

 顔真っ赤だけど大丈夫?
 そう思いつつもユツィを見上げれば、大丈夫だと言わんばかりに深く頷いた。

「意識されちゃいねえ」
「サク?」
「なんでもない。行くぞ」

 悔しそうにしている。おいしくて悔しいなんてないよね?
 それでも手を繋いでくるあたり可愛いさは変わらない。
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