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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない
22話 私にとって特別
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訓練を終えたサクとヴォックスが戻ってきた。けどサクの期限がすこぶる悪い。目据わってるよ?
「サク?」
「さっきのはなんだ」
「さっき?」
どこのことだろうと悩んでいると、ユツィが代わりに応えた。
「街の警備騎士が負傷したので治癒を」
「……それで触らせるのかよ」
治癒をする際、触る時もあるけど今日触ったっけ? 首を傾げていると再びユツィが応えた。
「あちらがクラスの治癒の力と慈悲深さに感動してついという所です。注意しておきました」
「……ふん」
ああ、あの薬あげた時のか。やっと分かってサクを改めてみると拗ねてるだけのようだった。
「見てたの?」
「……」
「訓練を一時中断する程度にはな」
「ヴォックス!」
横からヴォックスの声が入り、サクがあからさまに怒った。
「……これからは、治癒に立ち会う」
「え?」
ぶすっとしたまま視線をそらして吐き捨てるように言う。
「となれば帝都の往診にも行かれますか?」
「なんだそれ」
ユツィが説明すると、一度私をあり得ないという顔で見た。なによもう。
「俺も行く」
「サク忙しいじゃん」
「成程、帝都の巡回もいいな」
あれ、ヴォックスまできそうだけど?
サクは不服感を出しながら絶対行くと譲らない。
「普段の治癒も一緒で往診も一緒?」
「おう」
「んー?」
「クラス、サクは貴方の事が心配なのですよ」
「おい!」
サクが嗜めるけど、ユツィはどこふく風だった。公爵として扱う割にこういうとこは子供を見る目で接している。というか、からかって遊んでいるだけかな?
「サクはクラスの一番が欲しいのでしょう?」
「ばっ」
「一番?」
ユツィが珍しくほくほくしていた。訓練でも実際の戦場を行ってきた後でもこういう顔は見ない。
「ああ唯一が欲しいの方が正しいですか?」
「お前もう黙れ!」
サクが珍しく慌てている。
仲良くなっててなによりだ。ツンツンしてるのは変わらないけど、こんなに話ができるなんて成長した。侍女のメルとも話すようになったみたいだし、いい傾向ね。
「唯一?」
「……」
唇尖らせてむすっとしているけど、頬は赤く染まって、相変わらず正直に回答を明示している。
唯一かあ。
「サクはサクだよ?」
「そういうことじゃない」
「私にとって特別」
「え?」
「特別な友達なんだけど?」
盛大な舌打ちをされた。そういうんじゃないの?
この城で私によくしてくれる最たる人物だ。同じ立場だから分かりあえたのかなと思っているけど、サクは違うのだろうか。ご飯を食べて一緒に寝て、それこそ家族みたいだと思っていた。サクは違うかもしれないけど、私にはそれだけで特別だ。
「友達よりも家族かな? そっちの方がしっくりくるかも」
「……弟かよ」
「んー、ちょっと違うかな」
「じゃあなんだよ」
「サクだね?」
「は?」
「サクはサクで、大事な家族」
「……」
お、これはきいたらしい。目元を少し赤くした。不機嫌が緩和されてもじもじし始める。
「サクは助けてくれるし、ご飯美味しそうに食べてくれるし、一緒に寝てるとあったかいし」
「クラス」
ユツィが身体をかたくして私の肩を掴んだ。笑顔が強ばっている。
あとちょっとで完全にサクの機嫌がとれそうだったのに、そんな切羽詰まった顔してどうしたのだろう。
「ユツィ?」
「寝てるとは?」
「サクと一緒のベッドで寝てるってこと?」
聞き返したらユツィは次にサクの方へ首をぎゅるんと勢いよく動かして照準を定めた。サクは知らんぷりしている。
「アチェンディーテ公爵閣下、何をされているかお分かりですよね?」
「なんだよ、何もしてねえし」
「そういう問題ではありません。貴方そういう時だけ子供の立場を活かすのですか?」
「……」
黙った。あの口が達者なサクが気まずそうに、やばいという雰囲気だしながら苦い顔をしてそっぽを向いている。
ということは、なにかよくないこと言った?
「クラスはそのままでいい」
サクがはっきり告げる。今まで通りでいい、とも。ユツィまで同意する。
あくまでさっきのはユツィとサクの間だけということだ。
ううむ、少し消化不良だけど仕方ないし、今まで通りで過ごすことにしよう。サクと一緒だと淋しくないからよく眠れるもの。
「サク?」
「さっきのはなんだ」
「さっき?」
どこのことだろうと悩んでいると、ユツィが代わりに応えた。
「街の警備騎士が負傷したので治癒を」
「……それで触らせるのかよ」
治癒をする際、触る時もあるけど今日触ったっけ? 首を傾げていると再びユツィが応えた。
「あちらがクラスの治癒の力と慈悲深さに感動してついという所です。注意しておきました」
「……ふん」
ああ、あの薬あげた時のか。やっと分かってサクを改めてみると拗ねてるだけのようだった。
「見てたの?」
「……」
「訓練を一時中断する程度にはな」
「ヴォックス!」
横からヴォックスの声が入り、サクがあからさまに怒った。
「……これからは、治癒に立ち会う」
「え?」
ぶすっとしたまま視線をそらして吐き捨てるように言う。
「となれば帝都の往診にも行かれますか?」
「なんだそれ」
ユツィが説明すると、一度私をあり得ないという顔で見た。なによもう。
「俺も行く」
「サク忙しいじゃん」
「成程、帝都の巡回もいいな」
あれ、ヴォックスまできそうだけど?
サクは不服感を出しながら絶対行くと譲らない。
「普段の治癒も一緒で往診も一緒?」
「おう」
「んー?」
「クラス、サクは貴方の事が心配なのですよ」
「おい!」
サクが嗜めるけど、ユツィはどこふく風だった。公爵として扱う割にこういうとこは子供を見る目で接している。というか、からかって遊んでいるだけかな?
「サクはクラスの一番が欲しいのでしょう?」
「ばっ」
「一番?」
ユツィが珍しくほくほくしていた。訓練でも実際の戦場を行ってきた後でもこういう顔は見ない。
「ああ唯一が欲しいの方が正しいですか?」
「お前もう黙れ!」
サクが珍しく慌てている。
仲良くなっててなによりだ。ツンツンしてるのは変わらないけど、こんなに話ができるなんて成長した。侍女のメルとも話すようになったみたいだし、いい傾向ね。
「唯一?」
「……」
唇尖らせてむすっとしているけど、頬は赤く染まって、相変わらず正直に回答を明示している。
唯一かあ。
「サクはサクだよ?」
「そういうことじゃない」
「私にとって特別」
「え?」
「特別な友達なんだけど?」
盛大な舌打ちをされた。そういうんじゃないの?
この城で私によくしてくれる最たる人物だ。同じ立場だから分かりあえたのかなと思っているけど、サクは違うのだろうか。ご飯を食べて一緒に寝て、それこそ家族みたいだと思っていた。サクは違うかもしれないけど、私にはそれだけで特別だ。
「友達よりも家族かな? そっちの方がしっくりくるかも」
「……弟かよ」
「んー、ちょっと違うかな」
「じゃあなんだよ」
「サクだね?」
「は?」
「サクはサクで、大事な家族」
「……」
お、これはきいたらしい。目元を少し赤くした。不機嫌が緩和されてもじもじし始める。
「サクは助けてくれるし、ご飯美味しそうに食べてくれるし、一緒に寝てるとあったかいし」
「クラス」
ユツィが身体をかたくして私の肩を掴んだ。笑顔が強ばっている。
あとちょっとで完全にサクの機嫌がとれそうだったのに、そんな切羽詰まった顔してどうしたのだろう。
「ユツィ?」
「寝てるとは?」
「サクと一緒のベッドで寝てるってこと?」
聞き返したらユツィは次にサクの方へ首をぎゅるんと勢いよく動かして照準を定めた。サクは知らんぷりしている。
「アチェンディーテ公爵閣下、何をされているかお分かりですよね?」
「なんだよ、何もしてねえし」
「そういう問題ではありません。貴方そういう時だけ子供の立場を活かすのですか?」
「……」
黙った。あの口が達者なサクが気まずそうに、やばいという雰囲気だしながら苦い顔をしてそっぽを向いている。
ということは、なにかよくないこと言った?
「クラスはそのままでいい」
サクがはっきり告げる。今まで通りでいい、とも。ユツィまで同意する。
あくまでさっきのはユツィとサクの間だけということだ。
ううむ、少し消化不良だけど仕方ないし、今まで通りで過ごすことにしよう。サクと一緒だと淋しくないからよく眠れるもの。
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