上 下
21 / 103
1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

21話 噂に聞いた魔女様とは大違いでした

しおりを挟む
「クラスは毎日どのぐらいからここにいる?」
「時間?」
「おう」
「サクが行ってすぐかな。ユツィと一緒に騎士様診て回るの」

 その日の遠征帰還の人数にもよるけど、普段の鍛練でそう怪我はないし持病の経過観察や処方も頻繁にあるわけではない。
 なにもないとユツィに話にきてるってのはあるけどね。勿論邪魔にならない範囲で。

「こんなに男が多い場所に単身で?」
「ユツィがいるよ?」
「そういう問題じゃない」

 なにかあればドラゴンとフェンリルが助けてくれることもサクは知っている。けど納得できないらしい。

「サクこれから毎日ここに来るんでしょ?」
「ああ」

 ヴォックス騎士団長自ら剣の扱いを教えてくれることになった。サクってば余程強くなりたいらしい。城内の蔵書チェックもいつもより多くなったし、シレから魔法も学んでいると聞いたから、明らかにオーバーワークな気がする。

「無理しないでね?」
「無理じゃない」
「んー?」

 返事のニュアンスが違う気がした。けどサクは俺が来るまで待ってろと言って少し照れたからよしとした。待っててほしいんだあ、可愛い。
 今日も早速訓練に来てて私とユツィはその姿を眺めながら見学した。

「あれで第一皇太子の言うこと捻り上げてきたんだからすごいよねえ」
「見た所太刀筋もいいですし体幹もしっかりしています。このまま腕を上げたら素晴らしい騎士になるでしょう」
「それで頭もいいんじゃ、文武両道になっちゃうね」
「ええ」

 六歳とは思えない。
 そして相変わらず第一皇太子と穏便にいかないのどうにかならないかな。
 ヴォックスから話を聞いたユツィが会合の内容を全部話してくれる。相変わらず論破してるらしい。

「魔女様」
「はい」

 名を呼ばれ顔を向けると、帝都警備の騎士が二人、ヴォックスの隊の騎士に連れられて治癒を求めてやってきた。

「酔っ払い同士のいざこざを仲裁した際にどつかれ倒されてしまい」

 転んだ先がゴミ置き場で切ってしまったと。少し深かったらしい。場所を変えようかと思ったけど、騎士がここで構わないと言うので、横に座る形で傷を癒した。

「これが、治癒……」
「他に気になる所はありますか?」
「すごい!」

 もう一人も軽い内出血と切り傷だったけど治した。話を聞くと日々の疲れで警備騎士たちの間で微熱を出したり、鼻が出たりする人も多いらしい。当たり障りない風邪にきく薬草を煎じたものを渡した。お湯を注いで飲めるものにしたから取り入れやすいだろう。お代は一切いらないと伝えると街の騎士二人はこれでもかと驚く。

「ありがとうございます!」

 薬草を渡す時にそのまま薬ごと両手を握られた。余程感激したらしく、目がきらっきらに輝いている。

「ええと……」
「噂に聞いた魔女様とは大違いでした! こんなによくしてくださり!」
「ええ?」

 そもそも帝都の警備をする騎士は城の中に気軽に入れない。今回はヴォックスの隊の騎士と馴染みがあったからいれてもらえて、そのままこちらにこられたけど普段はこうして私の治癒を受けられず、ちょっとしたことは自分でどうにかしないといけないらしい。
 街医者も数が少なく、騎士であっても身分によっては診てもらえないとか。

「魔女様は騎士団長の言う通りの方でした」
「噂など嘘にすぎず、奇跡の力で治癒し分け隔てなく治療をしてくださる優しい方だと……真実本当でした!」

 奇跡ではない。誇張されてるね?

「ヴォックスなに言ったの……」
「それよりもそろそろ手を離してやりなさい」
「ふはっ失礼を!」

 ユツィないす。お陰で手が自由になった。
 挙げ句帝都における魔女の私は極悪非道で、扱う治癒魔法は第一皇太子妃である聖女を模した紛い物で効果はなく、代わりに高額な治療費を請求されるとか。あるいは新薬の実験だと毒を飲まされ殺されるとか。嘘の内容がなかなかひどい。

「水が通れば変わると言う者もいますが……我々はその前に医者を増やしてほしいです」

 街の治安を守ることもそうだし、衛生面が悪いと病気も流行る。そこをどうにかしてほしいようだった。そしたら水はやっぱり正解で、衛生面と同時進行すればいい。
 直近の医者の増員かあ。

「今度そちらに往診に伺いましょうか?」
「え?!」

 あ、でも私基本城出られないかな?
 どの程度の制限かかってるか知らなかった。確認しにいけば即否定されそうだし、勝手に出たら怒られるだろうな。

「月二回ぐらいならよろしいかと」
「ユツィ?」

 いけるの? と目で問えば微笑んで頷いてくれる。できるんだ。最近待遇がどんどんよくなっていってる気がする。
 話をまとめ、改めて連絡することを伝えて街の騎士たちと別れた。

「私も参ります」
「ユツィが?」
「私以外の適任がいないでしょう」
「副団長のお仕事は?」
「問題ありません。月に二回行けるよう仕事をこなせば良いだけです」

 胸張って行く気満々をアピールされる。ユツィもサクに劣らず私についていきたいタイプよね。サクは否定するけどユツィは肯定する。味方がいるのは嬉しいから大歓迎だ。

「おい」
「あ、サク。お疲れ、さま?」

 訓練を終えたサクとヴォックスが戻ってきた。けどサクの期限がすこぶる悪い。目据わってるよ?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

処理中です...