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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

15話 俺以外に手料理振る舞うなよ

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「ヴォックスとシレは知っているのか」
「呪い以外はね。ユツィの怪我直した時に腕の痣見られて気づかれちゃったの。その後すぐに対処してくれたから前より会うことないんだよ?」

 なんてことないよというニュアンスを含めてもサクには伝わらない。やや視線を落とし片手を口許に当てぶつぶつ言いながら何かを考えているようだった。
 治癒魔法はステラモリスしか使えない、あいつは聖女、あの女分かってるのか、聞こえる限りはそんな感じの独り言が続いて、皇太子妃のことしか考えてなさそう。

「ねえサク、皇帝陛下とのお話はどんなだったの?」
「ん? いつも通りだけど」
「第一皇太子がサクの考えることに反対してるって聞いたけど」
「ああ、それな」

 要点だけだったけどヴォックスの話すことと同じ内容だった。そこにサクの感想が入るだけだ。

「あいつ、国の騎士たちが戦死する事も南の収容所にぶっこまれるのも構わねえとか言いやがる。長たる皇帝の為に身を尽くせて幸せだろうとか言うんだぞ?」
「……」
「自分が拷問すら受ける事もないと思って高みの見物なノリだな……くそ」

 このままだと仲良くやろうねが通じなさそう。 
 ここはサクをご機嫌にさせて第一皇太子がなにか言っても、ちょっとした言い争いにならないようねって諭す方向がいいと思い、何度か説得を試みるけどいい返事はもらえなかった。
 部屋に入って二人でお茶して暫く、サクが私の容態を心配しない程度になってから、夕飯の準備に誘って厨に行く。
 最近侍女侍従のとこまで食材が毎日きちんとくるから困らない。けど今日は初心に帰って、ないがしろにされてた子達をどうにかするとしよう。

「なにしてんだ?」
「んー?」
「ゴミだろ、それ」
「まだ捨ててないし、切れ端は使えるよ」

 ということで捨てられる前の野菜の余った部分を適宜切ってサクが持ってきてくれた鍋にいれる。肉だけ使って余ってる鳥の骨もいれてひたすら煮込むだけだ。
 簡単だけど時間がかかるから、比較的時間があいてる時向け。コックのドゥルケに頼めば火の加減見てくれるけど、沢山の人にご飯を作ってる手前邪魔はできない。だからいつも自分で作っている。

「骨はフィーのご飯ね」
「……」

 サクがいたからか肉のはじっこももらえた。筋とかあってなかなか使われない。これも煮込めばするっと食べられるので有り難く頂いて鍋で煮込む。

「うん、いい感じ」
「……」
「サク、野菜嫌い?」
「いや」

 じっと見てくるものだから嫌いなものでも入っているのかと思ったけどそうでもないらしい。今まで野菜があっても食べていたし煮るだけで嫌になるとかもないだろう。
 ステラモリスにいた頃も農業が盛んだったから、野菜料理は割りと好きだったりする。切れ端まで使おうとか、捨てずに活かそうとかそういう精神で野菜を育てる国だった。

「クラスっ」
「メル」

 厨を通り過ぎようとするのを立ち止まり中に入ってきたメルは目を輝かせながら鍋の中を見た。

「もしかしていつもの?」
「うん」
「いつもの?」

 きゃっと跳ねるメルに、食べていいよと言うとさらに喜んだ。
 サクが片眉を顰めてスープと私を交互に見る。

「これ、やるのか?」
「うん、沢山できちゃうし。いつもお裾分けしてるよ」
「クラスの特製スープ美味しいのよね~! あ、次はお菓子もよろしく」
「分かった」
「お菓子?」

 怪訝な顔をしてサクが私を見上げる。

「菓子って?」
「時間と食材がある時に作ったことがあるの」

 食材が入らないから代替で違うものを使っていた数えるほどしか作れなかったお菓子、今ならお願いすれば簡単には作れるかもしれない。
 サクが食べたら驚いてひっくり返るんじゃないの? お菓子だけどお菓子じゃないものを受け入れてくれるのだろうか。様子見ても、スープをじっと見て、菓子かと小さく囁いているだけだ。

「は~ん、そゆこと」
「?」

 メルが私たちの会話を聞いて口許に手を置いてにやにやしていた。

「クラス、サクにお菓子作ってあげなよ」
「な」
「食べたいんでしょ~? 自分だけ食べてないのが嫌ってことでしょ~?」
「サク食べたかったの?」
「そ、それは……」

 もごもごして否定しない。

「しかも俺以外に手料理振る舞うなよ的な? 独占欲だね~! 可愛い!」
「ば、ちがっ!」
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