上 下
14 / 103
1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

14話 なんだ、今のは?

しおりを挟む
「お前のような卑しい人間が歩いていい場所ではないわよ?」
「……」
「お前は喋れもしないの。学がないのも問題ね」
「……失礼します」

 言って場を離れようとすると、妃は目配せして護衛が素早く動く。私を止めるどころか、胸ぐらを掴んで投げ捨てた。急なことで受け身がとれない。

「いっ……」
「いずれ帝国の皇妃となるわたくしに失礼ではなくて?」

 場を離れることが? 前は道を譲ったら急かせるとは何事だと叩いてきたのに?

「……申し訳ありません」
「お前のような厄災を連れてくる魔女をここに住まわせてあげているだけ有難いことなのよ?」
「……」
「少しばかり治癒が出来るだけで図に乗って」

 いつも通りだ。連れてきたのはそっちのくせに、私がいたらいけないのか。ならさっさと城から追い出せばいいのに。

「最近はイルミナルクスの子供を懐柔しようとしてるそうじゃない? 色気でも出したの?」

 子供には有効みたいだけど、とせせら笑う。
 だめだ、サクの立場がある。感情的になっちゃいけない。

「ああ魔女の呪いかしら? この城にいるものは心得ているけど外から来た子は知らないものね」
「呪い?」
「おぞましい公国の魔女がイルミナルクスの子供には呪いをかけ操り人形にした……そうねえ、帝国を内から滅ぼすのが目的、とか?」

 まさか、ないことでっち上げる気?
 そんな嘘が出回ったら第一皇太子と対立しているサクの立場が危うくなる。

「そんな、嘘を……」
「あら、この城で誰の言う事を信じるかが重要なのよ? 気味の悪い魔女の言う事なんて誰が信じるというの」

 十中八九第一皇太子妃の言い分が正義として通るだろう。けど今の嘘を考えればサクは被害者だ。罪には問われない。問われるのは私だけになる。そしたらこのままの方がいい。

「なにその顔」

 皇太子妃の顔が心底不快だと言わんばかりに醜く歪んだ。

「いつものように青くしてればいいものを……痛めつけないと分からないのね」

 可哀想に、学の足りないものに教えを施して差し上げてよと仰々しく言ってくる。
 途端痛みに倒れた。

「!」
「私の縛りはきちんときいているわね?」

 全身を裂かれるような痛みに声が出ない。息がきれ、涙が滲む。

「死なない程度なのだから感謝なさい? お前の治癒はまだ使ってやるわ。少しは帝国に尽くしなさい」

 呪いが解ける。
 まともに息が吸えて、大きくむせた。
 魔女はどっちだ。いつでも私を殺せる呪いをかけて、少しずついたぶって楽しんでいる。
 足取り軽く靴の音を立てながら去っていくのを見届けた。

「……行った?」
「おい」
「ひっ」

 後ろから急に話しかけられて大袈裟に飛び上がってしまった。
 振り向くと最近の癒しが恐ろしいオーラを纏って側にいた。

「さ、サク……いつから」
「なんだ、今のは?」

 瞳孔すごい開いて無表情、淡々と喋る割に声は一つ低く、皇太子妃が去った先を凝視している。不穏な色のオーラが見える気がした。

「な、なんでもな」
「ないわけないだろうが!」

 さっきの呪いに地面に座り込んだ今の私はサクに見下ろされている。迫力が割り増しになってる気がした。

「呪いだかなんだか知んねえけど、ふざけんなよ!」
「さ、サク、落ち着いて」
「くそっ、今すぐ止めて」
「だめ!」
「ああ?」

 サクの手をとった。
 やっとこちらを見たサクは怒っていたけど悲しそうだ。

「いいから!」
「お前、まさか誰にも言ってないのか」
「……」

 そうでなければシレもヴォックスも動いている。サクの考えは当たりだ。呪いを知っているのはドラゴンとフェンリルだけ。皇太子妃フィクタからの暴力については知られて改善したけど、かけられた呪いは現存している。

「お前命握られてんだぞ?」
「……その」

 サクの瞳が鋭さを増した。

「あいつの嫌みも暴力もほぼ日常的にあるな?」
「そ、そんなことは……」

 事実シレとヴォックスのおかげで減ったから毎日ってほどじゃないし、会わなければなにも起きない。日常的とは言えないと思うけど、サクにそれを言っても屁理屈と言われるだけだろう。
 言い淀む私に、サクは盛大に溜息を吐いた。

「……話は後で聞く。ひとまず戻るぞ」
「う、うん」
「立てるか?」
「大丈夫」

 立ち上がるとするりとサクが手を握った。見下ろすと目が合い、気まずそうにそらされる。少し顔が赤いぞ。

「ふ、ふらついてるだろ」
「……」

 か、可愛い。心配してくれている。これはシレの言う通り懐いてきてくれてる?

「仕方ないだろ、転んだら危ないし」
「うん、部屋まで手繋いでて?」
「お、おう」

 結果オーライというやつね。このサクが見れただけで今日は幸せな日だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~

石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。 食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。 そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。 しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。 何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。 小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

麗しの王子殿下は今日も私を睨みつける。

スズキアカネ
恋愛
「王子殿下の運命の相手を占いで決めるそうだから、レオーネ、あなたが選ばれるかもしれないわよ」 伯母の一声で連れて行かれた王宮広場にはたくさんの若い女の子たちで溢れかえっていた。 そしてバルコニーに立つのは麗しい王子様。 ──あの、王子様……何故睨むんですか? 人違いに決まってるからそんなに怒らないでよぉ! ◇◆◇ 無断転載・転用禁止。 Do not repost.

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

お金目的で王子様に近づいたら、いつの間にか外堀埋められて逃げられなくなっていた……

木野ダック
恋愛
いよいよ食卓が茹でジャガイモ一色で飾られることになった日の朝。貧乏伯爵令嬢ミラ・オーフェルは、決意する。  恋人を作ろう!と。  そして、お金を恵んでもらおう!と。  ターゲットは、おあつらえむきに中庭で読書を楽しむ王子様。  捨て身になった私は、無謀にも無縁の王子様に告白する。勿論、ダメ元。無理だろうなぁって思ったその返事は、まさかの快諾で……?  聞けば、王子にも事情があるみたい!  それならWINWINな関係で丁度良いよね……って思ってたはずなのに!  まさかの狙いは私だった⁉︎  ちょっと浅薄な貧乏令嬢と、狂愛一途な完璧王子の追いかけっこ恋愛譚。  ※王子がストーカー気質なので、苦手な方はご注意いただければ幸いです。

【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那
恋愛
 いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。 ◇◇◇◇  私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。  元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!  気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?  元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!  だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。 ◇◇◇◇ ※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。 ※アルファポリス先行公開。 ※表紙はAIにより作成したものです。

処理中です...