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1章 新興国のツンデレショタっ子は魔女に懐かない

13話 タイミングが良くなかった

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「今日はどんな感じだったの?」
「相変わらずだな」

 今回は海を渡った南側の大陸を攻め帝国領土としたい第一皇太子レックスと、今の帝国武力では海上戦において圧倒的に不利で非現実的な話だと言うサクで対決バチバチだったらしい。
 そもそも連合を望む皇帝の前で従前の戦争ありきの話をするのもいかがのものか。第一皇太子の発言を許している皇帝もどうかという話ね。

「そもそも南側は国家連合に賛同し争いを望んでいない。交易も文化交流もある」

 友好関係を築けているのに第一皇太子は攻め入りたくて仕方無いらしい。

「最後にサクが、南の国の戦犯収容所は相当厳しい事を引き合いに出したら、兄上は少し引いていたな」
「具体的に話をされたのか」
「ああ。そこで父上が戦争の話をしたいのではないと一声発して終わった」

 サクってば、公でそういうことしちゃだめでしょ。もっと和やかな会議をしてほしい。

「サクの言う連合の話は進んでいるから問題はないだろうな」
「だから第一皇太子と妃は焦っているのか」
「ああ。形だけでも成立したら動きづらくなる」

 来て数日、サクはすっかり帝国の中心になっている。話の内容だけ聞くなら六歳の子供がやっていることとは誰も思わないだろう。

「サクはすごいね」
「そうだな」

 第一皇太子に喧嘩売るのはどうなのかって話だけど、皇帝が特段サクを嗜めることがなければ問題ないかな? でもやっぱり心配かな。

「クラス、そろそろ時間が」
「うん、ありがと」

 そろそろお暇してシレのところに行かないと。今日は肝を治癒し現在経過観察中のシレに薬を渡す日だ。念の為としてるし、もうそろそろやめてもいいかなとは思っている。あの手のタイプに渡すと薬飲んで無理に仕事する傾向があるから塩梅が難しい。普段忙しすぎて中々会えないから今日は詳しく話を聞こう。
 シレの執務室はヴォックスの騎士エリアからすぐだ。扉を叩くと彼専属の侍女が開けてくれた。お茶の時間だったらしい。

「ああ、クラス。こっちまで来てもらってすまないね」
「いいえ大丈夫……サクは?」
「丁度今帰ったとこだよ。すれ違わなかった?」
「ええ」

 ならもう部屋かな?
 たまに城内書物を物色したり、城の中の巡回もしてるから行動範囲が広い。私との時間をしっかりとるのに、会合以外での情報収集に余念がなく、こなせてしまっているのは正直不思議でならない。ヴォックスと二人で城内見回りしては改善場所をチェックしていたのも記憶に新しい。
 さておきシレの容体確認に戻る。身体に症状として出ていないかの確認から、普段の生活の聞き取りまで細かく。幸い側付きの侍女がシレにとって都合の悪いことも報告してくれるので助かった。できるメイドさん好き。

「ふむ。指摘事項はあるものの、依然と比べてだいぶ良くなったかな」
「最近は頭痛と胃痛がひどいよ……」
 
 放っておけないのがいるからね、と苦笑いしている。十中八九サクのことだ。

「そうかと思って、効く薬草いれてます」
「うわあ、ありがと~」
「お茶にしやすいようにしてあるので」

 喜んでもらってくれ、そのまま側付きの侍女にリリースされる。彼女も安心したように瞳を緩めた。心配にもなるよね。

「君を気に入ったみたいだからさ~、一緒にいてもらえれば少しは大人しくなると思ったんだけどなあ」
「気に入られてますかね?」

 嫌われてはいないと思うけど、好かれてる感はない。全部が全部ツンツンしてるわけじゃないけど、色々注意されてばかりな気もする。

「クラスはのんびりしてるから、サクも放っておけないのかもね」

 六歳に心配される十六歳とは。
 確かに昨日の夜も怒られた。淑女として夜気軽に自分の部屋を開けるものではないことは充分理解している。ドラゴンとフェンリルがいるから大丈夫だよねと油断してる部分はあったから、サクはそこに怒ったんだろうな。怒ってても心配してくれてるのが分かるから癒されるんだけどね。

「サク可愛いからなあ」
「可愛い?」
「はい。侍女にも人気ですよ」

 見た目可愛いし、ツンなところも一部の侍女にはツボらしい。未だ私以外とはあまり話さないのに、あの愛想のなさで人気を得ているのが不思議なぐらいだ。

「はは……こっちとは大違いだ」

 シレが疲れている。大人顔負けの知識があるし、渡り合える話す力もあるから、会合では全く違う顔をしているんだろうな。

「もう少しレックス兄上との関係が良くなればね……ヴォックス兄上はじっと見ているだけだし」

 ヴォックスは私が教えてと言ったから隅々まで見て覚えようとしてるんだと思うよ、とは言えなかった。 

「殿下」
「ああ、もうそんな時間?」

 どうやらシレには仕事がまだあるらしい。

「あまり根を詰めないでくださいね?」
「ああ」

 もうあんな目には遭いたくないからねと笑う。側付きの侍女がさせませんと静かに主張して、その言葉にシレが苦い顔をした。微笑ましい二人に癒されつつシレの元を去る。

「あら」
「!」

 今日はタイミングが良くなかった。
 この区域に留まることはリスクがあると分かっていたけど運悪く巡りあってしまう。

「こんなところに来るなんて場違いも甚だしいわね?」

 第一皇太子妃フィクタがいつも通り護衛をつけて口角を上げて道を塞ぐ。皇太子は不在だった。

「お前のような身分のない卑しい人間が歩いていい場所ではないわよ?」
「……」
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