身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

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50話 二人きりになりたいな?

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「!」
「え?」

 上機嫌に笑っていたドラゴンの空気が急に変わった。あまりの気迫に緊張が走る。
 なに、この威圧感。本気出すとこうなるわけ?

「侵入者だ」
「ヴェルディスとかテュラじゃないんですか?」
「違うな」

 侵入者はすぐに誰か分かった。

「ディーナ様!」
「ヴォルム」

 迷わず私の元へ来てそのまま抱きしめられた。一度許したら結構気軽に抱きしめられるようになった気がする。
 でも待とう。ドラゴン見てるから。

「侵入者か」
「え、待ってドラゴン、ヴォルムは違う」

 びりびり感じるのは殺気だ。ドラゴンてば縄張り意識強すぎ。

「待てドラゴン」

 背後から声がしたと思ったら私とヴォルムの頭上を抜け、大きな獣が間に着地する。

「フェンリル、どうした」

 また伝説の魔物出てきちゃった。さすが魔物の島。

「これは俺の子孫だ」
「なんだと?」

 じっとドラゴンがヴォルムを見つめる。
 ヴォルムは私の前に立ち、庇う様にドラゴンに相対した。いや、大丈夫だよ?

「考えてもみろ。ヴェルディスが送って来る人間なんて俺の子孫ぐらいしかいない」
「マジだな……お前の子孫最近分かりにくいんだが?」
「それはそっちもだろう」
「いいや。我が子を見てみろ。分かりやすいだろう」
「瞳だけじゃないか。それもたまたま隔世で出ただけだろう。そもそも魔力が乏しい」

 さりげなくディスられた。
 ネカルタス基準なんじゃないの?

「お前の血筋で少しばかり魔力持ちがいるからと言って調子に乗るなよ? どっちにしろ全盛期と比べれば総じて魔力は持っていないだろう」
「血が薄くなるのは致し方ないことだからな」

 この二人仲がいい。というか今魔物二人の子孫が揃っているなんてテュラじゃないけど笑えるわね。
 私はドラゴン、ヴォルムはフェンリル。しかもご先祖様目の前ってことだ。

「待て。お前の子が迎えに来たということは私とお前は姻戚関係になるのか?」
「そういえば、この長い時間の中で初めてかもしれないな」

 ちょっと待って。
 迎えに来ただけでどうして私とヴォルムの関係が結婚する体になっているの。
 ヴォルムもドヤ顔してる場合じゃない。
 あ、でも二人は膨大な魔力を持つ伝説の魔物なのだからヴェルディスみたく未来をみて言ってる可能性もある、って待って待って。
 結婚するの?
 そりゃ告白の返事受けたけど、いや、まだ、そういう心の準備は、えっと。

「結婚式はどこであげましょうか」
「ヴォルム!」

 嬉しそうに笑って!
 完全にからかっているわね。
 しかも私の考えていること読んだっぽい。意地悪なエスパーめ。

「迎えが来たということは時間切れか」
「そうだな」
「じゃあ戻ってもいいぞ」
「軽っ」

 でもヴォルムは今すぐにでも帰りたそうだし。
 見守っているけど、そわそわしているのが目に見えて分かる。

「でもまあそうですね。用が済んだなら戻ります」
「大袈裟にやったが、これも余談のようなものだからな」

 送ろう、とドラゴンが言うと同時に足元が光る。さすが伝説の魔物、転移もお手の物なのね。

「ドラゴン、ありがとうございます」
「なに、責任を果たしただけだ」
「いいえ」

 因果どうこう言ってるけど、たぶん答えはこれだ。シンプルに。

「ルーラと話す時間をくれてありがとうございます」
「ああ」
「あちらでヴェルディスが全て把握している。戻ったらうまく纏めなさい」
「はい、フェンリル」

 再度お礼を言って私とヴォルムはその場から去った。


* * *


「おーす。早かったな」
「ヴェルディス」

 戻った場所はドゥエツ王国の海岸沿い、私が戦っていた場所だった。

「戦況は?」
「あれから覆ることなく細かい残党処理をこなしたぜー。当然俺達の勝ちだ」

 よかった。
 不在にしていた時間はそんな長くなかったらしい。

「ディーナ様」
「ヴォルム、お迎えありがわぷっ」

 ヴォルムが問答無用で抱きしめてきた。
 ちょっと待ってよ、ここ公衆の面前! さっきのドラゴンとフェンリルの前と比べて人多いんだから!

「ヴォルム離して」
「嫌です」

 気が気じゃなかったと耳元で囁かれる。
 まあ急にいなくなったら心配にもなるか。でもそれヴェルディス一枚噛んでるって言ったら怒るかな?
 あの場所に寄越したのは明らかにヴェルディスの介入があったとしか思えない。

「ヴェルディスもテュラも一度殴りました」
「行動早っ」

 ヴォルムったら分かってたの。
 でも、それにしたってやっぱり場所がだめだ。セモツに勝ったからと言ってやることはまだある。
 どうしたら離してくれるかしら?

「んー、ヴォルム。場所変えよう」
「場所」
「二人きりになりたいな?」

 びくっとヴォルムの身体が震えた。そしてゆるゆると離れてくれる。

「言いましたね」

 うん、ちょっと選択肢誤ったかもしれない。眼、眼が!

「まーまー。ヴォルムも時間やっから先に対外的なとこ終わらせよーぜ?」
「ヴェルディス、俺はまだお前を許してない」
「ウケる」
「テュラ、お前もだ」
「ひでえ」

 私が許してるからいいじゃないと言っても駄目だった。目据わってるけど?

「余裕ねえなあ」

 魔法使いたちも笑っているけど、他の騎士の皆様は生温かいまなざしだ。

「ヴォルム、仕事さっさと終わらせるから片付くまで我慢して」
「……分かりました」

 なんとか飲み込んでくれた。もうどこにもいかないから大丈夫でしょうに。

「じゃ、祝杯だな!」
「パーっといこうぜ!」

 ヴォルムが舌打ちをしたけど、もうツッコむのをやめた。不機嫌さんは後でどうにかするしかない。
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