身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

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29話 ヴォルムから魔力をもらう

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「何やってるんですか!」
「バーツ、お疲れ様」

 帰って早々領主に怒られた。こういう時、気兼ねなく言ってくれるの好き。

「貴方、自分の立場分かってます?!」

 海賊殲滅する立場じゃないんだから無茶すんなしとお咎めもらった。

「海賊殲滅できたからよしだよ~!」
「もう……領主に指名された時も驚きましたけど、今回も相当ですよ」

 笑って誤魔化す。バーツとは希少な伝統工芸品に関わる人材保護で出会ったけど、そのまま兼任諸島領主に推薦したのは私だ。私の見立て通り優秀に諸島をおさめてくれてる。どの国にも実効支配されてないがその証拠。

「そうだ。王太子付使者はまだいる?」
「いえ、帰られています」

 埒があかないから本土持ち帰りで対応を考えるようだ。うーん、確かめたかったけど無理か。

「そう……体調不良者は?」
「増えてませんが治っていません」
「なら治すわ」
「ディーナ様、治癒魔法ならテュラを呼ぶべきです」

 魔法大国ネカルタスの人間ならもれなく治癒魔法が使える。けどテュラには魔法薬と魔法陣の解読をお願いしてるから、そっちで時間を取られている。加えて海賊の動きが活発化して、原因不明の体調不良も広がっている今、ドゥエツ王国本土からテュラを出す選択を王陛下がとるとは思えない。

「戦力が戻らないと次に海賊が来た時に対応できないでしょ」
「ですが」
「現状を考えるとテュラはこっちに来ない。けど悠長に見守っている時間だってないわ」
「ですが」
「テュラはこの体調不良を本人の魔力暴走だと言っていたわね」
「……はい」

 病気でも怪我でもない。体内の魔力が暴走しているだけで、本来の身体は健康なわけだ。

「なら、治すんじゃなくて整えればいいんじゃない? それなら私でもできると思う」

 けど相手の魔力を調整するということは、相手に対して身体強化の魔法を使っているのと同義だから、調整する私自身の魔力は消費されるだろう。

「ディーナ様、本気ですか?」
「うん。身体の中をいじるし、初めてやるから成功する保証がないけど、やれることはやっておきたい」

 バーツに視線を戻すとしっかり頷き、領主として了承をしてくれた。
 心配するヴォルムを宥めながら、バーツに案内してもらい、ベッドに横たわる患者一人一人に魔力調整を施した。勿論、当人に説明し了承してくれた騎士のみだ。戦わない民や頷かない者は当然しない。
 結果としては、身体の中の魔力の流れを整えることは私でもできて、概ね症状は落ち着き、少しすれば動ける状態になった。まあ人数が多くて少し大変だったけど。

「まさか本当に治癒されるとは……」
「やるって言ったらやる派なんで」
「ディーナ様」

 ヴォルムが私の腰に手を添えた。立つのがちょっとしんどいって分かってるのね。

「ティルボーロン卿、本日ここで宿泊をしたいのですが、部屋をお貸し頂けませんか」
「ええ。いつもの部屋を用意しています」
「ありがとうございます」

 何度も訪問してるから使う部屋はいつも同じだった。なんとか歩いて部屋に入ると膝の力が抜ける。膝をつく前にヴォルムが抱えあげた。

「今回ばかりは助かるわ」
「相変わらず無茶を」
「へへへ」

 ベッドに優しく横たわらせ、私の左手を手に取った。

「俺の魔力を」
「ありがと」

 ヴォルムも私と同程度魔法が使えるけど、滅多なことでは使わない。詳しくは聞いてなかったな。家のことと自分の意志だったはず。前にも経験あるのだけど、こうして魔力を分けてもらうのはかなり内密なことだった。

「魔石とかあれば楽に魔力回復できるんだけどね」

 魔石とは魔法が使えない人間が魔法を使えるようになるアイテムで、魔法大国ネカルタスがその全てを管理している。

「ネカルタスは魔石を譲りませんよ」
「だよね」
「俺の魔力程度ならいくらでも使って下さい」
「うん」

 結局、他人の魔力調整は人数の多さもあって、かなりの魔力を消費した。今こうしてヴォルムの魔力を譲ってもらえなかったら私は数日動けなかったかもしれない。魔法大国ネカルタスへ行くのに無茶したわ。

「ヴォルムが近い」
「え?」
 
 ヴォルムの魔力が身体を流れるだけで、とても近くに感じる。左手があたたかい。心地よい魔力だ。

「ヴォルムの魔力って落ち着くよねえ」
「え?」
「癒されるみたいな? あったかいし気持ちいい」
「……」

 ぐっと息を詰めた。あいてる手で口元を抑えてそっぽ向いたわ。
 褒めたのに。

「違いますよ」
「え?」

 察しました、と。相変わらず有能なエスパー能力ね。

「嫌だとかそういう意味での反応ではありません。あと、今の発言は俺以外ではやめて下さい」
「魔力もらうなんてヴォルムだけだよ」
「ぐっ……だとしても、人の魔力が気持ちいいと言われたら、男は自分への告白と勘違いします。俺はディーナ様の事をよく知っているので問題ないですが……いや正直嬉しすぎてどうにかなりそうで、このまま襲っても俺は悪くないよなとも思いましたけど、ともかく駄目なものは駄目です」
「すごい喋るね」

 力なく笑うと眉をハの字して困った顔をされた。

「俺以外から魔力もらうのもやめて下さい」
「ヴォルム以外にもらおうって思わないよ」
「念の為です」
「それならヴォルムも他の女性に魔力あげないでね」

 なんて。魔力枯渇するほど無理する人間、そういないと思う。

「……」
「その代わり、私もヴォルムが大変な時は私の魔力をあげるわ」
「……」
「勿論ヴォルムだけ。どう?」
「……」

 これぞウィンウィンの関係だ。ヴォルムの魔法を使ってしまったことを内密にできるし、特別感があっていい感じ。その特別感がくすぐったくて嬉しいのは私だけかな?
 ヴォルムを独占してるみたいで満足してる私をよそにヴォルムは固まって無言だった。え、これ大丈夫なの?

「ヴォルム? 苦しいならやめても」
「違います」

 今度は空いた片手で目を覆って天井を見上げた。なんかぶつぶつ言ってるけど大丈夫なの。

「そうだ。一緒に寝る?」
「は?!」

 びくりと肩を鳴らした。
 時間がかかるとヴォルムの睡眠時間が削られると思っての提案だったけど駄目らしい。

「寝ながら手を繋いで回復をはかると効率いいかなって」
「この会話の流れで何を言ってるんですか……」
「明日はネカルタス王国に入るからお互い万全の方がいいかなって」
「効率を考えればディーナ様の仰る通りですが駄目です。結婚してからにしましょう」
「結婚」

 ヴォルムの望む感情を向けて一緒にいるにはまだまだな気がした。
 少しずつ分かってきてるような気もするけど、これだって確証がない。

「ディーナ様、魔力を分けたら勝手に終わりますので先に寝て頂いて結構ですよ」
「ん……そうする。ありがと」

 心地いい温かさに勝てない。本当ヴォルムの魔力すごいな。
 うとうとし始めた私を見てヴォルムがフッと笑った。
 空いた片手で前髪を払われる。

「世話焼かせるわね」
「ディーナ様の無防備な姿が見られるので役得です」

 なのでお任せ下さい、と。
 本当何物にも代え難いと思いながら意識を手放した。
 それが明日には底っていうぐらいの不機嫌を出すんだから人の感情なんてよく分からないものね。
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