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23話 南端遠征へ、キルカス王国での出会い
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「武人様だ!」
「武人様!」
「お会いしたかっです武人様!」
「武人さまあ!」
「武人じゃないです」
挨拶ということで王城直轄の騎士団に顔を出したら周囲がわいた。筋肉一筋・肉体派のキルカスでは私の拳は人気らしい。魔法で強化してても拳が強ければなんでもいいの? 純粋な拳なら騎士の方々の方が強い気がする。
「手合わせお願いします!」
「自分も!」
「指導を!」
「お願いします!」
こちらは南端ラヤラに向かうにあたって魔法大国ネカルタスの王女誘拐監禁事件の話を聞きにきた。騎士の皆さんに歓待されるのは嬉しいけど、先に用事を済ませたい。
「ループト公爵令嬢、リーデンスカップ伯爵令息」
「ヴィエレラシ騎士団長」
事情が分かる人きたわ!
オレン・アイナ・ヴィエレラシ騎士団長。キルカス王国全ての騎士の頂点に立つ男性……つまるとこ強い。年は少し上だったかな?
「話は伺っています。ラヤラの件ですね」
「はい」
案内される私に騎士の面々が残念がる。
「すみません」
「いいえ、これだけ歓待されると嬉しいです」
後で時間とって来ると伝えると喜ばれた。そんなに殴り合いたいの。
騎士団長の部屋に案内されると同じ年頃の女性が資料を沢山抱えてやって来た。
「団長、こちらで全てです」
「ありがとう」
と、ばちりと目があい、思わず笑顔で返した。すると彼女は両手を口元に当て目を開いて驚く。
「なんて美しい筋肉っ!」
「ん?」
武人呼ばわりされなかったけど似たような反応かな? 頬を上気して目がきらきらしている。
「ヘイアストイン女史、やめなさい」
「団長すごいです! 内の内に筋肉が密集しているのでこのように細い! のに! 常人の誰よりも筋肉がある! 内包された筋肉のしなやかなこと! すごいです!」
服の上から分かるの? 確かに細身とは言われる方だけど。
「はああん……見たいです……こんな筋肉の方見たことない……」
「やめなさい!」
あれ、この子の眼……なんか違う。妙な感覚に力をいれると同時にヴォルムが私の前に出た。
「ふわああ! 護衛の方も良い筋肉っ!」
見境ないな。
「同じ内包するタイプなのに、鍛えていらっしゃるから表にもきちんと筋肉がっ! え? これだと内包筋肉と合わせた倍の力が出せるのでしょうか?! あ、でも強さは」
「ヘイアストイン女史!」
団長が女性と私たちの間に入った。
「お二方はドゥエツ王国の要人だ!」
「ということは……外交特使のループト公爵令嬢?!」
団長の脇からチラ見され手を振ると再び目が煌めく。
「だから控えなさい!」
「はいっ」
服の上からで我慢します、と中々際どいことを言ってきた。面白い子だ。
彼女は自身を落ち着かせるためお茶を淹れに席を立った。
「うちの秘書が申し訳ありません」
彼女はミナ・シルミッサシ・ヘイアストイン女史。秘書としてはかなり優秀らしい。
「可愛い方ですね」
「こと筋肉に関しては見境がなく……後で言い聞かせます」
「はは、お気になさらず」
「ありがとうございます。では話を進めます」
話は南端ラヤラの件に戻り、資料にシャーリーの義妹ルーラの情報は僅かだった。騎士団長も存在の認知はしていたけど、ラヤラの件との関連付けができなかったから、どうしてもいたかいなかったかぐらいしか記録に残らない。
「ネカルタス王国からの反応はありましたか?」
「いえ全く。ソレペナ王国とはまだ交渉中です」
さすが引きこもり魔法大国ネカルタス様様ね。
「団長大変です!」
ヘイアストイン女史が顔色悪く現れた。お茶を用意をするには妙に焦っている。察した団長が先を促す。
「ソレペナ王国の軍勢が南端ラヤラに近づいています! 上陸の見込みです!」
ふー! ひりひりするね!
「ヴィエレラシ騎士団長、南端ラヤラに向かいますね?」
「はい」
キルカス王国内の防衛に関してはヴィエレラシ騎士団長を筆頭にほぼ全ての騎士で対応する。要所要所に騎士を配置していても、基本は王都に集まっているから、こういう時は一気に動くわけだ。
丁度いい。私も南端ラヤラに用がある。
「私も参ります」
「他国の外交特使をお連れする事は出来ません!」
その場で戦争が起きるかもしれない。当然ここは王城に留まるかドゥエツ王国に戻るかを促すだろう。
それじゃあ勿体無いよね。これはチャンスだもの。
「では私とヴォルムはキルカス王国騎士団に入ります」
「そんな事は」
「私がいれば戦場を交渉の場にすることが可能です」
ソレペナ王国とて馬鹿ではない。交渉中にわざわざ動くのには理由があるだろうし、王女が輿入れしたばかりなのだから無闇に争わないはずだ。私の想像より簡単に物事が進む可能性がある。
「……分かりました」
ここで「キルカス王国の王陛下の許可が必要です」と言わないのはさすがと言うべきか。強き者に従う精神のキルカス王陛下は、私がこの国の騎士団に入ると言ったら、どんなにシリアスな状況であっても喜ぶだろう。当然南端ラヤラに行くのもオッケー、快諾以外の選択肢はない。それを理解しているヴィエレラシ騎士団長は本当仕事できる人ね。純粋な騎士としての腕もいいし。
「ディーナ様、無茶はお止め下さい」
「分かってる」
耳元でヴォルムが囁く。本当過保護ね。でも私がしようと思っていることを理解しているからこその発言だ。なんだかんだ言って、どう転んでも私に付き合ってくれるだろう。
「甘々ね」
「ディーナ様?」
「ううん、なんでもないわ。準備しましょ」
「はい」
「武人様!」
「お会いしたかっです武人様!」
「武人さまあ!」
「武人じゃないです」
挨拶ということで王城直轄の騎士団に顔を出したら周囲がわいた。筋肉一筋・肉体派のキルカスでは私の拳は人気らしい。魔法で強化してても拳が強ければなんでもいいの? 純粋な拳なら騎士の方々の方が強い気がする。
「手合わせお願いします!」
「自分も!」
「指導を!」
「お願いします!」
こちらは南端ラヤラに向かうにあたって魔法大国ネカルタスの王女誘拐監禁事件の話を聞きにきた。騎士の皆さんに歓待されるのは嬉しいけど、先に用事を済ませたい。
「ループト公爵令嬢、リーデンスカップ伯爵令息」
「ヴィエレラシ騎士団長」
事情が分かる人きたわ!
オレン・アイナ・ヴィエレラシ騎士団長。キルカス王国全ての騎士の頂点に立つ男性……つまるとこ強い。年は少し上だったかな?
「話は伺っています。ラヤラの件ですね」
「はい」
案内される私に騎士の面々が残念がる。
「すみません」
「いいえ、これだけ歓待されると嬉しいです」
後で時間とって来ると伝えると喜ばれた。そんなに殴り合いたいの。
騎士団長の部屋に案内されると同じ年頃の女性が資料を沢山抱えてやって来た。
「団長、こちらで全てです」
「ありがとう」
と、ばちりと目があい、思わず笑顔で返した。すると彼女は両手を口元に当て目を開いて驚く。
「なんて美しい筋肉っ!」
「ん?」
武人呼ばわりされなかったけど似たような反応かな? 頬を上気して目がきらきらしている。
「ヘイアストイン女史、やめなさい」
「団長すごいです! 内の内に筋肉が密集しているのでこのように細い! のに! 常人の誰よりも筋肉がある! 内包された筋肉のしなやかなこと! すごいです!」
服の上から分かるの? 確かに細身とは言われる方だけど。
「はああん……見たいです……こんな筋肉の方見たことない……」
「やめなさい!」
あれ、この子の眼……なんか違う。妙な感覚に力をいれると同時にヴォルムが私の前に出た。
「ふわああ! 護衛の方も良い筋肉っ!」
見境ないな。
「同じ内包するタイプなのに、鍛えていらっしゃるから表にもきちんと筋肉がっ! え? これだと内包筋肉と合わせた倍の力が出せるのでしょうか?! あ、でも強さは」
「ヘイアストイン女史!」
団長が女性と私たちの間に入った。
「お二方はドゥエツ王国の要人だ!」
「ということは……外交特使のループト公爵令嬢?!」
団長の脇からチラ見され手を振ると再び目が煌めく。
「だから控えなさい!」
「はいっ」
服の上からで我慢します、と中々際どいことを言ってきた。面白い子だ。
彼女は自身を落ち着かせるためお茶を淹れに席を立った。
「うちの秘書が申し訳ありません」
彼女はミナ・シルミッサシ・ヘイアストイン女史。秘書としてはかなり優秀らしい。
「可愛い方ですね」
「こと筋肉に関しては見境がなく……後で言い聞かせます」
「はは、お気になさらず」
「ありがとうございます。では話を進めます」
話は南端ラヤラの件に戻り、資料にシャーリーの義妹ルーラの情報は僅かだった。騎士団長も存在の認知はしていたけど、ラヤラの件との関連付けができなかったから、どうしてもいたかいなかったかぐらいしか記録に残らない。
「ネカルタス王国からの反応はありましたか?」
「いえ全く。ソレペナ王国とはまだ交渉中です」
さすが引きこもり魔法大国ネカルタス様様ね。
「団長大変です!」
ヘイアストイン女史が顔色悪く現れた。お茶を用意をするには妙に焦っている。察した団長が先を促す。
「ソレペナ王国の軍勢が南端ラヤラに近づいています! 上陸の見込みです!」
ふー! ひりひりするね!
「ヴィエレラシ騎士団長、南端ラヤラに向かいますね?」
「はい」
キルカス王国内の防衛に関してはヴィエレラシ騎士団長を筆頭にほぼ全ての騎士で対応する。要所要所に騎士を配置していても、基本は王都に集まっているから、こういう時は一気に動くわけだ。
丁度いい。私も南端ラヤラに用がある。
「私も参ります」
「他国の外交特使をお連れする事は出来ません!」
その場で戦争が起きるかもしれない。当然ここは王城に留まるかドゥエツ王国に戻るかを促すだろう。
それじゃあ勿体無いよね。これはチャンスだもの。
「では私とヴォルムはキルカス王国騎士団に入ります」
「そんな事は」
「私がいれば戦場を交渉の場にすることが可能です」
ソレペナ王国とて馬鹿ではない。交渉中にわざわざ動くのには理由があるだろうし、王女が輿入れしたばかりなのだから無闇に争わないはずだ。私の想像より簡単に物事が進む可能性がある。
「……分かりました」
ここで「キルカス王国の王陛下の許可が必要です」と言わないのはさすがと言うべきか。強き者に従う精神のキルカス王陛下は、私がこの国の騎士団に入ると言ったら、どんなにシリアスな状況であっても喜ぶだろう。当然南端ラヤラに行くのもオッケー、快諾以外の選択肢はない。それを理解しているヴィエレラシ騎士団長は本当仕事できる人ね。純粋な騎士としての腕もいいし。
「ディーナ様、無茶はお止め下さい」
「分かってる」
耳元でヴォルムが囁く。本当過保護ね。でも私がしようと思っていることを理解しているからこその発言だ。なんだかんだ言って、どう転んでも私に付き合ってくれるだろう。
「甘々ね」
「ディーナ様?」
「ううん、なんでもないわ。準備しましょ」
「はい」
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