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9話 湖畔デート
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「告られた」
「予想通り過ぎてウケる」
テュラが笑っている。
殿下への謁見は前と同じ仲間内での談話だった。
ヴォルムが許したので婚約の話をしたらテュラは相変わらず面白がった。
「言ったろ? 面白いことするって」
「まあなりふり構わずって言ってたしね」
「周囲だって想定通り静かなもんだろ?」
「うん。うまくいってる」
プランのおかげで、市井には私という婚約者の存在は誤解であったことが広まっている。そろそろいい加減納得してもらうために要所に私が出向かないとね。
「ディーナが下げ渡しなしで特定の相手を作らないって言ってたのに、よく申し込んだな」
「ディーナ様には改めて独り身になると聞きました。俺を相手にすればいいとも」
笑いつつもテュラが「まあそれなら割とうまくいくからな」と言う。王太子殿下も概ね同意のようだ。私ですら国の安定にはいい選択と思ってしまったのだから二人だってそう思うだろう。
「ディーナ、領地候補は打診していいのかい?」
「勿論です」
ぐぐっとヴォルムが唸った。余程自分のとこに来て欲しいのね。
「分かった。各派閥からの婚姻の打診は止めておいたよ」
「ありがとうございます」
「なんでヴォルムが言うの」
「俺にとって願ったり叶ったりですので」
貴族界隈は自身の利益を優先する傾向があるから、こうした殿下の発言があっても許される部分があった。へたな争いに巻き込まれたくないのも本音だろう。市井よりちょろい。
「ディーナ、今日はこれを」
「領地候補……ありがとうございます」
「ああ、仕事もこれから休みをきちんととるようにしてくれ」
僕もいるから、と殿下。今まで殿下の分も担ってきたので殿下の仕事を手放せてだいぶ余裕がある。
「ディーナ様」
「ん?」
「俺とデートしてくれませんか?」
「ブフォ」
テュラが最速で吹いた。
「なんで今?」
「休みを多くとられるという話がありましたので」
「構わないけどいつ?」
「明日にでも」
再びテュラが吹いた。
「ウケる……必死すぎ」
「殿下、よろしいですよね?」
「なんでヴォルムがきくの」
殿下は少しあきれ気味に「本気なんだな」と囁き、それにヴォルムが「はい」と応える。
「ディーナ、明日は休みでいいよ。僕から伝えておく」
「王太子命令で?」
「それで丸くおさまるなら、そうしようか」
* * *
休みになった。
「街に出るのだめとか」
「仕事されるでしょう?」
「そうだね」
市井デートは却下され、湖畔でお忍びデートみたくなった。ここは領地回りで気に入っていた場所だ。
まさか覚えているのだろうか。
「お気に召しませんでした?」
「のんびりしたかったし丁度いいよ」
事実、自然の中でのんびりできる時間が好きで領地を賜る気でいるのだから、純粋にこういうとこの方が好きだ。
「私の好きな紅茶もスコーンも用意して完璧だよ」
「嬉しいです」
ディーナ様のことはよく見てきたので、と微笑む。
ヴォルムは六年、私の護衛を勤めてきた。食事の好みも場所の好みもよく知っている。にしたって、このスコーン本当どこで売ってるんだろ。
「てかデートまで敬語じゃなくてもいいのに」
「ああ……中々抜けなくて」
そのへんは好きにしていいよと伝えた。
護衛の仕事も続けるから難しいのかな?
「少し歩きませんか?」
「いいよ」
では、と手が差し出される。
「ふーん……」
「ディーナ様?」
「折角だから腕組む?」
「え?」
あ、でも私がその気でもないのにそういうことするのは失礼か。
「いえ、お願いします」
「あ、声に出てた?」
「察しました」
すごい、ヴォルム。エスパーじゃん。
「どうぞ」
彼の腕に自分の腕を絡めてみる。距離が近い。
思えばいつも少し後ろにいたから、並んで歩くことなんてあまりなかった。社交界で殿下の代わりにダンスをお願いする時ぐらいだろうか。
「どんな事でも俺は利用しますので」
「これも?」
「はい。ディーナ様に触れたい俺の欲求が満たされます」
「触れたいかあ」
そういうの考えたこともなかったな。
そう思えるのが恋なのだろうか。
「ディーナ様が俺に抱き締めたりキスしたりしたくなるよう頑張ります」
「文面が痴女じゃ?」
「ディーナ様ならなんでも歓迎ですね」
「いっそ清々しいね」
そこで互いに笑う。久しぶりに穏やかな時間だ。
もうすぐこうした静かな時間を過ごすことになる。あ、今の時点だと一人じゃなくてヴォルムが一緒なのか。全然違和感がなくて不思議ね。ただ、私が今抱いていない想いを持って二人でいるわけだから、どう変わるのか何とも言えない。ん? 私、ヴォルムと当たり前のように一緒にいる気でいる? 二度目の婚約破棄だってありえるのに? 一人でスローライフが前提なんだから、こんな考えおかしいわね?
「ふっ」
「また察したの?」
「百面相してましたので」
言葉に出さずとも顔が語っていた。いつになく頭を使うような展開だから仕方ない。
「あれ、ソフィー?」
少し歩いて戻ると気まずそうに立つソフィーがいた。
「どうしたの?」
「いえ、お帰りの時で結構です」
「こちらで今、話して下さい」
ヴォルムが許可し私も促すとソフィーが苦々しく伝えた。
「エネフィ公爵令嬢がディーナお嬢様にお会いしたいそうです」
「うへえ」
クライマックスだぜ! キャットファイト的な!
「予想通り過ぎてウケる」
テュラが笑っている。
殿下への謁見は前と同じ仲間内での談話だった。
ヴォルムが許したので婚約の話をしたらテュラは相変わらず面白がった。
「言ったろ? 面白いことするって」
「まあなりふり構わずって言ってたしね」
「周囲だって想定通り静かなもんだろ?」
「うん。うまくいってる」
プランのおかげで、市井には私という婚約者の存在は誤解であったことが広まっている。そろそろいい加減納得してもらうために要所に私が出向かないとね。
「ディーナが下げ渡しなしで特定の相手を作らないって言ってたのに、よく申し込んだな」
「ディーナ様には改めて独り身になると聞きました。俺を相手にすればいいとも」
笑いつつもテュラが「まあそれなら割とうまくいくからな」と言う。王太子殿下も概ね同意のようだ。私ですら国の安定にはいい選択と思ってしまったのだから二人だってそう思うだろう。
「ディーナ、領地候補は打診していいのかい?」
「勿論です」
ぐぐっとヴォルムが唸った。余程自分のとこに来て欲しいのね。
「分かった。各派閥からの婚姻の打診は止めておいたよ」
「ありがとうございます」
「なんでヴォルムが言うの」
「俺にとって願ったり叶ったりですので」
貴族界隈は自身の利益を優先する傾向があるから、こうした殿下の発言があっても許される部分があった。へたな争いに巻き込まれたくないのも本音だろう。市井よりちょろい。
「ディーナ、今日はこれを」
「領地候補……ありがとうございます」
「ああ、仕事もこれから休みをきちんととるようにしてくれ」
僕もいるから、と殿下。今まで殿下の分も担ってきたので殿下の仕事を手放せてだいぶ余裕がある。
「ディーナ様」
「ん?」
「俺とデートしてくれませんか?」
「ブフォ」
テュラが最速で吹いた。
「なんで今?」
「休みを多くとられるという話がありましたので」
「構わないけどいつ?」
「明日にでも」
再びテュラが吹いた。
「ウケる……必死すぎ」
「殿下、よろしいですよね?」
「なんでヴォルムがきくの」
殿下は少しあきれ気味に「本気なんだな」と囁き、それにヴォルムが「はい」と応える。
「ディーナ、明日は休みでいいよ。僕から伝えておく」
「王太子命令で?」
「それで丸くおさまるなら、そうしようか」
* * *
休みになった。
「街に出るのだめとか」
「仕事されるでしょう?」
「そうだね」
市井デートは却下され、湖畔でお忍びデートみたくなった。ここは領地回りで気に入っていた場所だ。
まさか覚えているのだろうか。
「お気に召しませんでした?」
「のんびりしたかったし丁度いいよ」
事実、自然の中でのんびりできる時間が好きで領地を賜る気でいるのだから、純粋にこういうとこの方が好きだ。
「私の好きな紅茶もスコーンも用意して完璧だよ」
「嬉しいです」
ディーナ様のことはよく見てきたので、と微笑む。
ヴォルムは六年、私の護衛を勤めてきた。食事の好みも場所の好みもよく知っている。にしたって、このスコーン本当どこで売ってるんだろ。
「てかデートまで敬語じゃなくてもいいのに」
「ああ……中々抜けなくて」
そのへんは好きにしていいよと伝えた。
護衛の仕事も続けるから難しいのかな?
「少し歩きませんか?」
「いいよ」
では、と手が差し出される。
「ふーん……」
「ディーナ様?」
「折角だから腕組む?」
「え?」
あ、でも私がその気でもないのにそういうことするのは失礼か。
「いえ、お願いします」
「あ、声に出てた?」
「察しました」
すごい、ヴォルム。エスパーじゃん。
「どうぞ」
彼の腕に自分の腕を絡めてみる。距離が近い。
思えばいつも少し後ろにいたから、並んで歩くことなんてあまりなかった。社交界で殿下の代わりにダンスをお願いする時ぐらいだろうか。
「どんな事でも俺は利用しますので」
「これも?」
「はい。ディーナ様に触れたい俺の欲求が満たされます」
「触れたいかあ」
そういうの考えたこともなかったな。
そう思えるのが恋なのだろうか。
「ディーナ様が俺に抱き締めたりキスしたりしたくなるよう頑張ります」
「文面が痴女じゃ?」
「ディーナ様ならなんでも歓迎ですね」
「いっそ清々しいね」
そこで互いに笑う。久しぶりに穏やかな時間だ。
もうすぐこうした静かな時間を過ごすことになる。あ、今の時点だと一人じゃなくてヴォルムが一緒なのか。全然違和感がなくて不思議ね。ただ、私が今抱いていない想いを持って二人でいるわけだから、どう変わるのか何とも言えない。ん? 私、ヴォルムと当たり前のように一緒にいる気でいる? 二度目の婚約破棄だってありえるのに? 一人でスローライフが前提なんだから、こんな考えおかしいわね?
「ふっ」
「また察したの?」
「百面相してましたので」
言葉に出さずとも顔が語っていた。いつになく頭を使うような展開だから仕方ない。
「あれ、ソフィー?」
少し歩いて戻ると気まずそうに立つソフィーがいた。
「どうしたの?」
「いえ、お帰りの時で結構です」
「こちらで今、話して下さい」
ヴォルムが許可し私も促すとソフィーが苦々しく伝えた。
「エネフィ公爵令嬢がディーナお嬢様にお会いしたいそうです」
「うへえ」
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