身体強化魔法で拳交える外交令嬢の拗らせ恋愛 ~隣国の悪役令嬢を妻にと連れてきた王子に本来の婚約者がいないとでも?~

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2話 婚約破棄を受け入れる

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「今を考えるとプランBで……プランDも少し取り入れて」
「ディーナ様?」
「あ、ごめんごめん。皆、集まってくれてありがと」

 翌日改めて関わりのある者に声をかけ来てもらった。若干空気の重さはあるけど仕方ない。

「仕事の大まかな引き継ぎをしたくて。後でうまい具合に振り分けてもらえればいいから」

 一緒に仕事をする皆は私のことを名前で呼ぶ。私も許しているし、そう呼ぶようお願いした。公的な場では畏まった呼び方をしているから問題ないでしょってことでね。

「ディーナ様。何故、婚約破棄を受けたか伺っても?」

 うまく皆に察してもらう時が来たわね。

「私と殿下は元々そういう関係ではなかった、ということよ」
「え?」
「婚約の事実はなく、私は政務の仕事を担ってきただけの文官の一人。そんなとこで」

 これからはきちんとタウンハウスの公爵邸から通うよ~と言うと周囲は一瞬息を飲んだ。
 私と彼らの間でシリアスの温度差がすごい。全然違う。

「殿下に瑕疵はなく、決まったお相手はいなかった、と?」
「そうそれ! 話早くて助かる~! ようはこう……長年婚約者すらいなかったのはお相手のいる隣国のエネフィ公爵令嬢のことを秘かに想っていたからだった。今回エネフィ公爵令嬢の正式な婚約破棄があり、すぐさま婚姻の申し出をし、彼女の命を救い守るため自国へ連れてきた、っていうラブロマンスストーリーなわけ」

 このラブロマンスストーリーを元にプランBは進み、貴族界隈と市井に広める。

「長い片想いの成就っていう少女漫画的な展開に持っていくわ」
「しょうじょまんが?」
「ちなみにプランAからEまであって展開は様々よ」

 私の存在は市井に知られているから、一番はここをどうにかしないといけない。
 貴族たちは陛下の一言でどうにでもなるし、エネフィ公爵令嬢が高位貴族な分、そこまで荒れはしないだろう。市井では私との付き合いが長く信頼関係もきちんと築けている手前、殿下に対しての風当たりが強くなる可能性が高い。
 私と殿下の婚約に関して否定をしてこなかったから尚更だろう。これは仕方ない。フリーだと殿下に縁談の話が山程くるから婚約者(わたし)という盾が必要だった。

「国民に対して嘘を吐けと仰るのですか?」
「大丈夫、絶妙に真実が入ってるから」

 グッドポーズをしても誰も笑ってくれなかった。

「皆に嘘を吐かせるのは申し訳ないんだけどお願いします」

 婚約破棄という手続きはどうしても付き纏う。分かっていた展開には必要な要素だった。

「ええ……ディーナ様が望まれるのなら」
「けれどディーナ様、私達はディーナ様がこんな目に遭う事に納得できていません」
「あまりにひどすぎます。お辛くないのですか?」
「いや、悲しくも悔しくもないんだけどね」

 それでもです、と言う。優しい人たちと一緒だったのね。もうすぐ終わるかと思うと淋しくなるわ。
 頭では理解しているようだから、後は感情面だけそれぞれどうにかしてもらうしかない。そればかりは私がどうにかできることじゃないから。

「具体的な話に入ろっか」

 仕事の面では引き継ぐところは多くあった。
 海上で猛威を振るう海賊の対策、ここ一年市井でも貴族のも間で起きている原因不明の体調不良、大陸と我が国を挟む海上の間に存在する諸島管理、両陛下衣装・宝飾品管理、財政・立法・市井経済の把握と犯罪の防止、衛生管理・医療補助、芸術文化保護など多岐に渡る。
 最たる外交部分に関してもだ。

「隣国や懇意にしてる国には私から手紙を書くよ。今後は殿下とエネフィ公爵令嬢がやってくからよろしく」

 元々彼女はソッケ国の王子の婚約者として敏腕をふるっていたから問題なくこなせるだろう。

「アンネ、引継ぎとは別で頼みたい事があるんだけどいい?」
「はい」

 王室、対外国のあらゆる書面を管理する文書総監のアンネはクールな女性だ。けど唇が少し震えている。彼女も彼女で私と殿下の婚約破棄に驚ているのかな。

「書面の請求をソッケ王国にお願いしたいの。エネフィ公爵令嬢に関することね」
「エネフィ公爵令嬢の婚約破棄後の情報を全て請求にかけましょう。本日中には届くかと」
「ありがと」

 話が早くて助かる。私と仕事してくれる人たちは大概察してくれるのよね。
 だって公的な書面が今日中に届くはずないでしょ。伝手を使うか、私と殿下の婚約破棄を知ってすぐに請求かけたかどちらかだろう。
 私も手伝いましょうと他の総監も助け舟を出してくれていた。私がいなくてもやっていけそうね。

「引き継ぎは大体三ヶ月を見積もってる」

 やること多いから大変だけど、婚約破棄と国外追放の後の悪役令嬢が幸せになるまでなテンプレストーリーをやり遂げると決めたのは私だ。その後の自由があるんだからご褒美のために頑張れるってもんよ。

「あとルーレ、オリゲ、フォルスク、ヴォルム」

 呼ばれた者達がこちらを向く。

「貴方たちは元々殿下付きだったから、今日をもって私付きの任を解くってことで」

 ソフィーだけは公爵邸から連れてきた私付きの侍女だ。それ以外の侍女侍従と護衛のヴォルムは元々殿下の元にいた。

「ディーナ様」
「仕事の件で話があれば呼ぶわ。でもこれからは殿下の元に戻らないとおかしいでしょ? 示しがつかない」
「ディーナ様……」

 小さく私の名を呼ぶ背の高い男性と向き合う。私の側で護衛として立ってくれた。
 私が王太子殿下の婚約者となってから六年、ずっと一緒だったから分かれるなんて不思議な感じがする。

「今までありがと。これからも頑張ってね」
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