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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

163話 早く会いたい

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 何度も名前を呼ばれて、すうっと意識が浮上してくるのが分かった。あ、起きるってこれか。

「チアキ」
「んん?」
「具合が悪いのですか?」
「……あれ?」

 朝、オリアーナが私を見下ろしつつ起こしてくれた。うっわ、美人に起こされるとか朝から役得すぎじゃない?

「今日は止めておきましょうか」
「なにを?」

 ジョギングであることを告げられ、時間を確認したらとっくに走る時間を過ぎていた。まさかの寝坊をしでかすとは。

「いけな、うわ痛っ」

 急いで起き上がると、急な痛みと眩暈が私を襲った。よく知ってるけど、ここ最近はやらかしてなかったのに。

「……飲みすぎましたね」
「そ、そんなことない」

 二日酔いだなんて断じてない。もうお酒に飲まれるのはとっくに卒業している。断じて違う。
 するとオリアーナに溜息を吐かれた。朝から美人に起こされ、朝から美人に溜息を吐かれるとはなかなかどうして贅沢だね。寝坊もたまにはしてみるものだ。

「今日一日休んだらどうです」
「痛みがとれれば問題ないよ」
「では薬を用意させます」

 それまでは寝てるよう、ベッドに戻される。二日酔いで休むというのは私の選択肢ではないのに。クラーレが薬持ってくるとしたら、時間的に始業してしまう。なんてことだ、それは嫌。

「駄目です。許しません」

 オリアーナが過保護!ついでに、めってされた感じがすごくいい!
 ジョギング前に一悶着、登校前にもう一度オリアーナに止められて、私は結局ベッドの中で薬を待つに至った。お酒に飲まれるなんて、父親にもう何も言えなくなってしまう。

「……すっかり忘れてたけど、私返事してない? してないな、うん」

 痛む頭を抱えつつ、昨日の事を思い出した。件の御者と相見えたことで完全にオルネッラの事故の件を弔えたのではと万感の思いでいっぱいになっていた。
 その後の事情聴取でお預けくらったせいで、ご飯とお酒が美味しすぎて、ついつい飲みすぎたのは確か。劇場から出て返事しようなんて思っていた事は、すっかり忘却の彼方だったわけで。決意が鈍る前にさっさと返事がしたいというのが本音ではあるけど。

「早く行きたい」

 私が一人苦しんでいるのを察してか、オリアーナが出てすぐテゾーロが私の隣に寝転がってきた。このわんこは本当お利巧だな。
 よしよしすれば嬉しそうに目を細めてくる。きっとオリアーナが辛い時もこうして寄り添ってあげてたんだろうな、本当いい子。好き。

「オリアーナお嬢様」
「はーい」

 そうこうしている内にやっとクラーレが薬を持ってやって来た。薬を服用すればあっという間に二日酔いが治る。便利すぎる、この世界の薬品。むしろ常備したい。

「ありがとうございます」
「いいえ、お嬢様……しかし」
「はい?」

 クラーレがじっと私を見て、成程とばかりに頷いた後、なんてことない調子で言ってきた。

「顔つきが少し変わりましたか?」
「顔つき?」

 病気というわけではなく、と加えたクラーレは言葉を考え選んで続けた。

「あ、いえ、ソラーレ侯爵令息との件もありますし、当然と言えば当然でしょうか」
「ふむ。顔つき、ね」

 ディエゴとの件と言ったら婚約ぐらいしか思い浮かばない。当然と言えば当然?
 んん?

「私、どんな顔してたんですか」
「え? いえ、そうですね……ただ、とても嬉しそうと言いますか」
「うわ」

 これ以上は結構ですと続きはお断りした。私は顔に出るタイプだったというのか。
 そんな締まりない顔を……あ、割としょっちゅうしてたわ。クールキャラは常時ログアウトだったし。

「はは、気づいてなかったです」
「え?」
「いえ、ありがとうございます」

 よくわかってなさそうなクラーレを見送って、私は学園の制服に袖を通して、いつも通り歩いて学園に向かった。
 自分が傍から見てどんな顔をしているかは、後々オリアーナやエステルにきいてみればいいか。どっちも緩んでるだのなんだの言いそうだなあ。まあそちらよりも、まず最初にやる事は決まっているしね。

「ディエゴ」

 早く会いたいという想いだけが強くなっていった。
 もうこうなってくると、いつもの通学路を歩くなんてできず、軽く走っていた。きっと今の私はゆるゆるの顔をしているんだろう。


* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *


「よし」

 そうして学園に来たら、最初にディエゴに会おうと決めていた。
 迷わず広すぎる裏庭に入って、そう、丁度初めて出会った場所に彼はいた。
 最初の時と同じように、丁度立ち上がって振り向いたところで私とかちりと目が合う。

「チアキ、体調は」
「大丈夫」
「そうか」

 安心したように微笑んだディエゴを見て、言うべき言葉に間違いがない事を確信した。
 眼光の強さは変わらず、その中に私という存在を受け入れた緩さが見え、私はするりと想いを口にすることが出来た。

「好き」
「え?」
「ディエゴが、好き」
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