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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
159話 監視することと呪いを遂行すること
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「しかし、顔が」
「ああ、そこね」
ディエゴがいうのも無理はない。
その容貌は、登山の末たどり着いた最後の祖一族を預かっていた木こりの娘さんによく似ていたから。年齢も同じくらいの見た目、性別は見た感じからは分からない。
「話す気あります?」
「……」
「じゃ、私から話しますので、答え合わせお願いします」
結論を端的に言えば、目の前の人物は、母親とオルネッラを死に追いやり、行方不明とされていた新人御者だ。
母親は新人御者に何か言った後、通常行くはずのない険しい山道に入った。あれは母親が指示した故と思っていたけど、それは逆。死を受け入れた母親に死に場所を提供したのが目の前の人物だ。
それだけじゃない、父と商談に出たとき馬車ごと突っ込んできたのもこの人。商談のくだりは叔父が雇い主で大元だったけど、恐らくあの時馬車を引いていたのはこの人で、叔父はそれも知らない可能性が高い。
ここは確実なところではないけど、叔父が異常なまでオリアーナを含めたガラッシア家を排除しようと思考が偏ったのはこの人が絡んでるのではとも思う。叔父が語らなかったから確実なものではないけど、洗脳に近い何かをされていたかもと考えることも出来る。
「……」
誘拐未遂も祖一族の件で周囲を掻き回したのも恐らく全部この人がしたことだ。騎馬隊にもどこぞの令嬢にも聞き取りして出てこなかった話の大元がここなら割としっくりくる。誘拐未遂の時の御者は自爆したけど身体の一部ですら見つかっていないのだから、逃げおおせ生きていておかしくはない。
そして、そこまでして叶えたい目的は一つ。祖一族の呪いの遂行だ。母親以外に一人、叔父の分の命を落とさないといけないということ。
「で、どうでしょ?」
「……」
「何も言わないってことは当たりですかね?」
「そうだしても若すぎるぞ」
木こりの娘さんと同じぐらいの年齢だ。無理もない。十年前、十代で新人御者をしていたなら、今は私達より年上でもおかしくない。見た目私達より年下というのはおかしい話だ。
「んー、そこはやりようがいくらでもあるんだよ。魔法で性別年齢含めた見た目を変えたか、もしくは今呪いの遂行をする世代が引き継がれて子供世代がやってるとか」
「……前者です」
「あ、そうですか」
やっと話す気になってくれた様子。よかった。
無表情すぎてその気になった感が全然しないけど、口を割っただけ行幸だ。
「貴方も祖一族に関係してますね?」
「……」
「血は引いてないけど、祖一族と深い人的な?」
「……私は大婆様に従うのみ」
監視することと呪いを遂行することが使命だと自ら話し始めた。
離反した祖一族が呪いをかぶり命を落とすことを監視する人物。元々一族の侍従として仕えていた者達が、一族が山間に逃れた時に侍従から監視者に役割を変えたとか。
「呪いは実際ないものだったのか?」
「うんと、たぶんね、呪いはあるんだよ」
「え?」
ディエゴが言いたいことはわかる。
この御者の言い方だと、呪いはパフォーマンス、実際その類の魔法はなく、実行犯は木こり一族と受け取れるけど、半分当たりで半分ハズレのはずだ。
「あのおばあちゃんが一族の中で割と強い力を持ってたとしても、呪いをかけられる側も祖一族でしょ。呪いを跳ね返すことも解消することもできたんだよ」
「何故、そこまでして」
「呪いというパワーワードを作るためだね。得体の知れない逃れらないものがある、だから死ぬしかない運命だと残りの一族面々に先入観と偏見を植付けるためかな」
すべての根源は外に一族をださないため。外に出る事が死であると思わせるため。
木こり一族はそんなおばあちゃんの元で粛々と人を殺めていたのだろう。本当は呪いを克服し、生きていけるはずだった人たちを。
「オルネッラの記憶で、母親は死を受け入れていました。未来を変えられなかったからと。その未来ですら、貴方が作り変えたものを見せてきた可能性もあるかなって思ったんですよね」
他にもいくつか候補はある。自ら死を与えに来たとき、洗脳の類で逃げられなくしたとか。弱りきっていった母親のことをクラーレからきいた限り、平常時の判断ができたか疑問でもある。
母親は死がある未来しか見えない思考だったからこそ、御者の意のままに死にに行く行動をとった。本当の気持ちとは逆なのに、死なないといけないと思っていた。となれば、事故の日、馬車に乗る事を譲るはずもない。
さて、どうですかと相手に応え合わせを振ると、俯き気味に静かに応えた。
「呪いは絶対、それを覆すものはいらない」
多くの呪いを解いた者達も含めたうえで、母親のことを語り出した。叔父の呪いを取り払った。その分をどうにかしなければいけなかったと。
「叔父の呪いは跳ね返ったとかうつったとかじゃなくて、実際綺麗に消えてたんじゃないんですか?」
「え?」
「……」
「オリアーナかオルネッラのどちらかがかならず死ななければならないっておかしいと思わない? 跳ね返ってるならとうにどちらが死ぬか決まってたっていいんだから」
「黙りなさい」
どうやらこれも当たりだ。
「ああ、そこね」
ディエゴがいうのも無理はない。
その容貌は、登山の末たどり着いた最後の祖一族を預かっていた木こりの娘さんによく似ていたから。年齢も同じくらいの見た目、性別は見た感じからは分からない。
「話す気あります?」
「……」
「じゃ、私から話しますので、答え合わせお願いします」
結論を端的に言えば、目の前の人物は、母親とオルネッラを死に追いやり、行方不明とされていた新人御者だ。
母親は新人御者に何か言った後、通常行くはずのない険しい山道に入った。あれは母親が指示した故と思っていたけど、それは逆。死を受け入れた母親に死に場所を提供したのが目の前の人物だ。
それだけじゃない、父と商談に出たとき馬車ごと突っ込んできたのもこの人。商談のくだりは叔父が雇い主で大元だったけど、恐らくあの時馬車を引いていたのはこの人で、叔父はそれも知らない可能性が高い。
ここは確実なところではないけど、叔父が異常なまでオリアーナを含めたガラッシア家を排除しようと思考が偏ったのはこの人が絡んでるのではとも思う。叔父が語らなかったから確実なものではないけど、洗脳に近い何かをされていたかもと考えることも出来る。
「……」
誘拐未遂も祖一族の件で周囲を掻き回したのも恐らく全部この人がしたことだ。騎馬隊にもどこぞの令嬢にも聞き取りして出てこなかった話の大元がここなら割としっくりくる。誘拐未遂の時の御者は自爆したけど身体の一部ですら見つかっていないのだから、逃げおおせ生きていておかしくはない。
そして、そこまでして叶えたい目的は一つ。祖一族の呪いの遂行だ。母親以外に一人、叔父の分の命を落とさないといけないということ。
「で、どうでしょ?」
「……」
「何も言わないってことは当たりですかね?」
「そうだしても若すぎるぞ」
木こりの娘さんと同じぐらいの年齢だ。無理もない。十年前、十代で新人御者をしていたなら、今は私達より年上でもおかしくない。見た目私達より年下というのはおかしい話だ。
「んー、そこはやりようがいくらでもあるんだよ。魔法で性別年齢含めた見た目を変えたか、もしくは今呪いの遂行をする世代が引き継がれて子供世代がやってるとか」
「……前者です」
「あ、そうですか」
やっと話す気になってくれた様子。よかった。
無表情すぎてその気になった感が全然しないけど、口を割っただけ行幸だ。
「貴方も祖一族に関係してますね?」
「……」
「血は引いてないけど、祖一族と深い人的な?」
「……私は大婆様に従うのみ」
監視することと呪いを遂行することが使命だと自ら話し始めた。
離反した祖一族が呪いをかぶり命を落とすことを監視する人物。元々一族の侍従として仕えていた者達が、一族が山間に逃れた時に侍従から監視者に役割を変えたとか。
「呪いは実際ないものだったのか?」
「うんと、たぶんね、呪いはあるんだよ」
「え?」
ディエゴが言いたいことはわかる。
この御者の言い方だと、呪いはパフォーマンス、実際その類の魔法はなく、実行犯は木こり一族と受け取れるけど、半分当たりで半分ハズレのはずだ。
「あのおばあちゃんが一族の中で割と強い力を持ってたとしても、呪いをかけられる側も祖一族でしょ。呪いを跳ね返すことも解消することもできたんだよ」
「何故、そこまでして」
「呪いというパワーワードを作るためだね。得体の知れない逃れらないものがある、だから死ぬしかない運命だと残りの一族面々に先入観と偏見を植付けるためかな」
すべての根源は外に一族をださないため。外に出る事が死であると思わせるため。
木こり一族はそんなおばあちゃんの元で粛々と人を殺めていたのだろう。本当は呪いを克服し、生きていけるはずだった人たちを。
「オルネッラの記憶で、母親は死を受け入れていました。未来を変えられなかったからと。その未来ですら、貴方が作り変えたものを見せてきた可能性もあるかなって思ったんですよね」
他にもいくつか候補はある。自ら死を与えに来たとき、洗脳の類で逃げられなくしたとか。弱りきっていった母親のことをクラーレからきいた限り、平常時の判断ができたか疑問でもある。
母親は死がある未来しか見えない思考だったからこそ、御者の意のままに死にに行く行動をとった。本当の気持ちとは逆なのに、死なないといけないと思っていた。となれば、事故の日、馬車に乗る事を譲るはずもない。
さて、どうですかと相手に応え合わせを振ると、俯き気味に静かに応えた。
「呪いは絶対、それを覆すものはいらない」
多くの呪いを解いた者達も含めたうえで、母親のことを語り出した。叔父の呪いを取り払った。その分をどうにかしなければいけなかったと。
「叔父の呪いは跳ね返ったとかうつったとかじゃなくて、実際綺麗に消えてたんじゃないんですか?」
「え?」
「……」
「オリアーナかオルネッラのどちらかがかならず死ななければならないっておかしいと思わない? 跳ね返ってるならとうにどちらが死ぬか決まってたっていいんだから」
「黙りなさい」
どうやらこれも当たりだ。
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