156 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
156話 もう、誤魔化しがきかない
しおりを挟む
勢いがついてしまい、私を抱えたまま座席に埋まり直す。ぼふっとクッションの音がして座席が軋む。
待って待って近い近い。抱きしめられてる。ディエゴの胸に綺麗におさまっているのが分かると、かっと体温があがるのを感じた。
「ごめ、」
「待て、チアキ」
離れようと身体を起こすと中途半端なところで止められた。そのせいで私は完全にディエゴの膝に乗る形になった。肩に手を置いて距離をとりつつも向かい合う形になる。
「!」
「暴れるな」
危ないだろうと言われる。
あ、だめ。さっきよりだめ。
ディエゴの言いたいことはわかる。いくらボックス席とはいっても限度がある。身を乗り出してた挙げ句暴れたら落ちるのではと心配になったんだと思うんだけど、本当だめ、これ近いから。
「どうした?」
「あ、いや、離して」
暴れないからと加えて言うけど、ディエゴは私を囲う腕の力をゆるめるどころか力を入れてきた。腰を浮かしかけた私は膝立ちになり、その体勢のままディエゴとさらに距離が縮まってしまって心臓が跳ねる。さっきから近すぎていい匂いすごいし、そもそも場所が場所だから囁き声で、色々きつい、というか暴力、五感の暴力すぎ。
「ちょっと、もう」
「……」
黙ったままじっと見つめてくるだけ。ううん、こそばゆい。
やっぱりあの時、墓穴掘ったし地雷踏んだ。ああもう。
「離してくれないなら」
「ん?」
「ええい」
肩に置いていた手を離して、彼の頭を包むように回す。ディエゴの頭部を抱きしめる、すなわち私の胸の鼓動を今度こそ確かめてもらう事にした。
「チア、キ!」
さっきまで静かだったディエゴもさすがに慌てた様子で、ボリュームは落としたまま声を荒げた。駄目だとか、腕を解けとかもぞもぞ私の胸の中で囁くものだから、そのこそばゆさに身を捩る。するとディエゴが唸った。
「あ、やめて」
「?!」
「喋るとくすぐったい」
「っう!」
場所が場所なだけあって声にならない悲鳴のようなものをあげているけど、解放される気配はなかった。そっちがその気なら、こっちも離してやるものか。
「そういえば」
「……」
最近触れられるだけで体温あがって困るところではあったけど、今はそうでもないかも。慣れた?いや、落ち着いた?
熱くなるのとは全く違う感覚は先日落ちてきたものだ。勘違いだと思っていたけど、今もきちんと私の中で落ちてきたところにいて僅かに傾いて主張した。単純な事に、喜んでいる。
「そっか」
「……」
「ディエゴ触るの気持ちいいんだ」
「!!」
というか、心地良いかな?似たようなものか。
そしてここにきて、ディエゴはようやく私を拘束する腕を緩めた。やっとか、と、ほっと撫でおろして私も同じように緩めると、彼の手は何故か私の腰を掴んだ。
驚いてびくりと全身震えるが、声を上げなかったことは本当えらいと思う。危うく変な声出るところだったんだけど。
「ディ、エ、ゴ」
「……」
すいっと持ち上げられ、そのまま隣の席に座らされた。無表情のまま彼は自席に座り直す。あれ、反応が何もないとか。それ以前に女性一人を軽々と持ち上げる筋力なんなの。ディエゴも実はスーパーマンだったの。オリアーナは確かに細身で体重軽めだけど、だからといって軽々しく持ち上げられるようなものじゃない。
「ディエゴ」
「……」
彼の名を囁いてみたけど、特段反応を示さず舞台を見つめている。その耳が赤いのを見て、やっぱりディエゴだと分かって少し安心してしまった。
私も舞台に視線を戻す。そうだ、当初の目的は舞台鑑賞だ。初志貫徹しよう。
「……」
しばらくしてから、今更自分何をしでかしたのと自身の行動の恥ずかしさがぶり返して、恥ずかしさに顔を覆いたくなった。こんなところで何をしているの、私。
純粋に舞台を楽しみに見に来てる人にもチケットとれなかった人にも役者にもスタッフにも以下略申し訳ないことを……心の中で土下座しよう、申し訳御座いません。
「ふう」
一息ついて自分を落ち着かせて、舞台に集中してみる。舞台はシナリオ構成も演出も好みのもので、物語に入りやすい作品。ふとした恋愛シーンにトットとエステルを見てるようで尊大な癒しにニヤニヤしながら、同時に頭の片隅にやってくる実感に顔を覆って唸りたくなる。今更ということと、舞台に集中して自分というツッコミしかない。
「……」
そうこうしている内に、第一幕が終了する。明るくなる場内に拍手が響く。目の前は眼福なのに、脳内も幸せなのに、それと同時並行で訪れた応えがじわじわ沁みる。
「どうだ?」
「控えめに言って最高」
「そうか」
ディエゴの嬉しそうな様子に、この間落ちてきたものが嬉しそうにコロコロ転がっている。さっき喜んでいるとまで自覚してしまった。
うん。やっぱりだめ。もう否定できる理由も言葉も思い浮かばない。
でもチアキも彼が好きでしょう?というオリアーナの言葉がまた頭をよぎった。
ああそうなの?やっぱりそうなの?
「観念する?」
「何をだ」
「こちらの話です」
ディエゴが好き。
もう、誤魔化しがきかない。
待って待って近い近い。抱きしめられてる。ディエゴの胸に綺麗におさまっているのが分かると、かっと体温があがるのを感じた。
「ごめ、」
「待て、チアキ」
離れようと身体を起こすと中途半端なところで止められた。そのせいで私は完全にディエゴの膝に乗る形になった。肩に手を置いて距離をとりつつも向かい合う形になる。
「!」
「暴れるな」
危ないだろうと言われる。
あ、だめ。さっきよりだめ。
ディエゴの言いたいことはわかる。いくらボックス席とはいっても限度がある。身を乗り出してた挙げ句暴れたら落ちるのではと心配になったんだと思うんだけど、本当だめ、これ近いから。
「どうした?」
「あ、いや、離して」
暴れないからと加えて言うけど、ディエゴは私を囲う腕の力をゆるめるどころか力を入れてきた。腰を浮かしかけた私は膝立ちになり、その体勢のままディエゴとさらに距離が縮まってしまって心臓が跳ねる。さっきから近すぎていい匂いすごいし、そもそも場所が場所だから囁き声で、色々きつい、というか暴力、五感の暴力すぎ。
「ちょっと、もう」
「……」
黙ったままじっと見つめてくるだけ。ううん、こそばゆい。
やっぱりあの時、墓穴掘ったし地雷踏んだ。ああもう。
「離してくれないなら」
「ん?」
「ええい」
肩に置いていた手を離して、彼の頭を包むように回す。ディエゴの頭部を抱きしめる、すなわち私の胸の鼓動を今度こそ確かめてもらう事にした。
「チア、キ!」
さっきまで静かだったディエゴもさすがに慌てた様子で、ボリュームは落としたまま声を荒げた。駄目だとか、腕を解けとかもぞもぞ私の胸の中で囁くものだから、そのこそばゆさに身を捩る。するとディエゴが唸った。
「あ、やめて」
「?!」
「喋るとくすぐったい」
「っう!」
場所が場所なだけあって声にならない悲鳴のようなものをあげているけど、解放される気配はなかった。そっちがその気なら、こっちも離してやるものか。
「そういえば」
「……」
最近触れられるだけで体温あがって困るところではあったけど、今はそうでもないかも。慣れた?いや、落ち着いた?
熱くなるのとは全く違う感覚は先日落ちてきたものだ。勘違いだと思っていたけど、今もきちんと私の中で落ちてきたところにいて僅かに傾いて主張した。単純な事に、喜んでいる。
「そっか」
「……」
「ディエゴ触るの気持ちいいんだ」
「!!」
というか、心地良いかな?似たようなものか。
そしてここにきて、ディエゴはようやく私を拘束する腕を緩めた。やっとか、と、ほっと撫でおろして私も同じように緩めると、彼の手は何故か私の腰を掴んだ。
驚いてびくりと全身震えるが、声を上げなかったことは本当えらいと思う。危うく変な声出るところだったんだけど。
「ディ、エ、ゴ」
「……」
すいっと持ち上げられ、そのまま隣の席に座らされた。無表情のまま彼は自席に座り直す。あれ、反応が何もないとか。それ以前に女性一人を軽々と持ち上げる筋力なんなの。ディエゴも実はスーパーマンだったの。オリアーナは確かに細身で体重軽めだけど、だからといって軽々しく持ち上げられるようなものじゃない。
「ディエゴ」
「……」
彼の名を囁いてみたけど、特段反応を示さず舞台を見つめている。その耳が赤いのを見て、やっぱりディエゴだと分かって少し安心してしまった。
私も舞台に視線を戻す。そうだ、当初の目的は舞台鑑賞だ。初志貫徹しよう。
「……」
しばらくしてから、今更自分何をしでかしたのと自身の行動の恥ずかしさがぶり返して、恥ずかしさに顔を覆いたくなった。こんなところで何をしているの、私。
純粋に舞台を楽しみに見に来てる人にもチケットとれなかった人にも役者にもスタッフにも以下略申し訳ないことを……心の中で土下座しよう、申し訳御座いません。
「ふう」
一息ついて自分を落ち着かせて、舞台に集中してみる。舞台はシナリオ構成も演出も好みのもので、物語に入りやすい作品。ふとした恋愛シーンにトットとエステルを見てるようで尊大な癒しにニヤニヤしながら、同時に頭の片隅にやってくる実感に顔を覆って唸りたくなる。今更ということと、舞台に集中して自分というツッコミしかない。
「……」
そうこうしている内に、第一幕が終了する。明るくなる場内に拍手が響く。目の前は眼福なのに、脳内も幸せなのに、それと同時並行で訪れた応えがじわじわ沁みる。
「どうだ?」
「控えめに言って最高」
「そうか」
ディエゴの嬉しそうな様子に、この間落ちてきたものが嬉しそうにコロコロ転がっている。さっき喜んでいるとまで自覚してしまった。
うん。やっぱりだめ。もう否定できる理由も言葉も思い浮かばない。
でもチアキも彼が好きでしょう?というオリアーナの言葉がまた頭をよぎった。
ああそうなの?やっぱりそうなの?
「観念する?」
「何をだ」
「こちらの話です」
ディエゴが好き。
もう、誤魔化しがきかない。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる