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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

152話 余裕でクリアと思いきや

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 久しぶりに思い切り魔法を解放すると小屋ごと綺麗に吹き飛んだ。いやあ見てて、気持ちのいいぐらいの吹っ飛び具合。コント劇の屋台崩しみたいな感じで、実に爽快。床だけ綺麗に残るとか面白すぎでしょ。
 外にいた騎馬隊の皆さんは威力が想像以上だったのか、驚いているけど怪我はないようだ。さすが反応が早い。ディエゴにいたっては予想してたのか、きちんと自分の身を守っている。まあ、吹っ飛ぶだけで怪我はしない仕様でしてるつもりだしね。

「くそ……」

 飛ばされた山賊達が戻って来る。
 調整した通り、遥か彼方に飛んで行く事もなく、気を失う事もなく戻って来られる範囲内。私だいぶ魔法の力の調整うまくなった。呆れられてたのが嘘のような成長ぶり。

「初動を見誤りましたねえ」
「くそ」

 ここでボコボコにしても解決にならないしな。この人たちがエステル達を襲ったわけじゃない。あくまで私が連れて来られたら殺すだけが仕事だ。まだ未遂だし、大元の情報さえあればそれでよかったのだけど。

「嬢ちゃん」
「うん?」

 聞いたことのある声に顔を向ければ、予想しない人物がこちらに近づいてきた。

「お頭」
「元だぞ、おい」

 目の前の賊に苦々しい顔をして応えている。山登りからしばらく、王都から離れていたはずの人物。

「今、南方の施設建築で遠征中のはずでは」
「さすがに自分とこの問題だから戻ってきたわ」

 工期は守ると念を押された。そこは大事、チームの半数以上を現場に残して、精鋭だけ連れてきたらしい。これでスケジュールがずれこんだら、それ相応の対応なり代替案なり提示してもらうことになるだろうしね。

「嬢ちゃんに怒られる前にさっさと終わらすわ」
「別に工期さえ守られれば問題ないですが」
「どっちにしたって、こいつら統制とれなかったのは、当時の頭だった俺だからな。部下の責任は長の責任だろ」
「あ、確かに」

 つまり目の前の賊十数人は、この元山賊現建築士の元同僚というか部下だったということ。けど強さの度合いは、現建築士が連れてきた精鋭の方が上だったようだ。いくらかの小競り合いと、騎馬隊の応援で短時間で全捕獲という結果に相成った。
 そしてドラマの主人公みたいなこと言うの、何気なくいい。責任は俺がとる的な。その後に、お前たちを信じるから好きにしろぐらいあるとなおいい。

「この情報いつから知ってたんです?」
「あーそれな……」

 元部下の動向はずっと調べ続けてきたようだった。騎馬隊の一部や学生と通じ合っているところを確認後、社交界の件があり戻る事を決めた後、この誘拐未遂事件に至ったと。
 そして王都側に話を持ち込み、警備隊に同行、知られないよう近づき、タイミングのいい今出てきて大成功と。うん、こうなってくると、私がこうしてフリして来る必要あった?
 場所もすぐ特定しそうだし、全任せでもよかったのかもしれない。そんなことを考えていたら、またしても来るはずのない人物から声がかかる。

「チアキ」
「トット、来ちゃったの」

 王族までお越し頂きましたよ。驚いてる間に落し前もついちゃってたし、私一人で乗り込んで、大元確保の予定が大幅にずれ込んだ。というか、大元について何も知り得なかったから、私は収穫ゼロという悲しさ。

「すまない、囮に」
「いいよ、そのぐらい」

 申し訳なさそうに言うけれど、トットは最善の判断をしたから何も悪くない。私を囮に一挙に検挙取り押さえが出来れば好都合だろうし。エステルの渋々感も少しはよくなるだろうし。

「チアキ、社交界の二人が話をし始めた」
「あ、本当? なんて?」

 騎士とお姫様(仮)もやはり姿を現さない声を変えた人物から話を聞いたところから始まっていた。
 私の悪事を働く様を見て、それは確信に変わったとか。その悪事内容が殺人から詐欺まで幅広く数も多い。いや、してないし。誤解だったとして、精々ボコボコタイムぐらいだよ、やらかしたの。人殺してないし。

「事実無根……」
「それは証明できている。恐らく幻覚や催眠の類だと」
「そうなの」

 分かっていても、最初の出所が掴めない。困ったものだ。元々、ガラッシア家が悪と言うベースがあったからこその結果が、マイノリティが行動を起こした社交界の事件だった。
 オリアーナが苦しめられた噂の出所は叔父で、これは解決済みだし。もう今回の大元、向こうから来てくれないかな、その方が手っ取り早い。

「慣れているな。本来はもっと秘密裏に出来る者とみている」
「何か焦ってるのかな?」
「可能性が高い」

 普段周到に静かに事を成せるタイプのやることが雑になって大きく形に出る場合、その人物に何かしらの揺さぶりやら決められた時間内にやり遂げないといけない何かがあるとみていいだろう。あとは段階的に私に知られていくのを恐れているのか。でも始まりは社交界だ。あんなに分かりやすく仕掛けてくるなら、短時間で何かを成し得えないと困る要因があるとみていいと思うけど。まあ殺人ていうのが頂けないから完全にアウトね。

「王太子殿下!」

 私とトットが話しているところに切迫した声がかかる。
 連れて来られた馬車から走り離れる騎馬隊と警備隊の面々。まさか。

「離れて下さい!」

 瞬間、馬車は炎を上げて爆発した。
 同時、私の視界は塞がれ何も見えなくなった。
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