クールキャラなんて演じられない!

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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

150話 御者服コスプレが活かせない

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 それでもオリアーナとエステルは断固として許さない。ディエゴ一緒でもさすがにと渋る始末だ。
 私は特段一人でもいいから突っ込みたい。突撃したい。

「チアキ」
「何、ディエゴ」
「君の侍従の振りをして行くならどうだ」
「なん、だと……」

 ちょっとまってよ、なにそのおいしい提案。普段公爵令息として高級な衣装に身を包んだディエゴがきちんとしたものであるとはいえ、侍従の衣装を身に纏うと?
 そんなフラグどこにもなかったじゃない、なにそれちょっと追いつかない。想像だけでもいける。リアルで見たら倒れるんじゃないの。心落ち着かせる時間を下さい、いや時間ないんだった。

「では、こちらが選んだ騎馬隊と警備隊をつける。それならどうだ」
「サルヴァトーレ……」

 トットも提案してきた。一部の騎馬隊は相手側のフリをして同行、他はばれないようかなり距離を離した上で尾行する形だ。
 トットとしても安全なはずの学園でこんな事態になった挙げ句、王都管理の騎馬隊の一部がこんな形で動いてしまっていることに強い懸念を抱いているらしい。それもそうだ、自分の婚約者にまで手だされてるわけだし。二大武力である騎馬隊一部の叛逆は、場合によっては王都を揺るがす火種になりかねない。統制をとるなら早い方がいいに決まっている。

「エステル」
「…………わかったわ」

 渋々感が半端ないけど、なんだかんだ許してくれるから好き。

「オリアーナも?」
「ディエゴを共にするなら構いません」
「あ、それまだ有効なのね」

 エステルより深刻感がないということは、これは無事に終わるタイプのやつか。つまるとこ脅威にならず、たいしたことなくやり過ごせるもの。オリアーナの見えてる基準、今後も助けになりそう。

「ディエゴいいの?」
「愚問だな」

 チアキの傍にいると決めたから付いていく。と、真っ直ぐ私を見て言われ、むず痒い嬉しさがちらついたけど、今はそれどころじゃない。初動はなるたけ早くだ。

「行こう」
「ああ」

 そうして私は馬車、ディエゴは御者の横に座り、監視しつつもフリをしている。
 馬車周りに警備隊三名を配備、馬車の小窓をから御者とディエゴの後姿を見つつ、どこへ向かうか確かめる。

「ディエゴ、御者さんが変なことしたら、ボコボコにしていいからね」
「わかっている」
「……」

 この御者曰く自分はただの雇われで指定の場所に連れていくだけが仕事だという。それ以外は知らないの一点張り。
 帽子を目深に被り、表情はいまひとつ見えにくい。背丈や声音だけで判断しても性別すら曖昧、しいて言うなら、見た目年齢が若いということぐらいしか分からない。
 この御者は抵抗もなく、こちらの要望に従うようだったから、そのまま採用。これが罠だとしてもそうでなくても、私とディエゴの危険の度合いはそう変わりはないだろう。

「ふふふ。いいねえ、御者服」
「相変わらず緊張感がないな」
「御者服着ることなんてないでしょ」
「そうだな」 

 神はこんな緊迫した中でも私に癒しを下さる。素晴らしいたまらん。ありがとうございます。

「お嬢様って呼んで」
「嫌だ」
「そんな」

 自分から御者に変装して一緒に行くとか言ったくせに。そこは最後までノリよくいこうよ。

「そしたら、ご主人様とも呼んでくれない?」
「当たり前だろう」

 そんなことの為に変装してるわけじゃないとはっきり言われる。
 なんてことだ。私への供給は?尊さは?萌えは?癒しは?

「なんで着たの」
「共に行く事を許してもらう為だ」

 チアキは一人で行きたがるから、と呆れた様子で言ってくる。一緒に行く為に衣装は着られるけど、台詞は言いませんよとか、そっちの方がおかしい。御者服着るって言った時点でなりきるまでがフラグ回収なんだから。

「ディエゴのけち」
「何故そこまでこだわるんだ」
「そこに萌えがあるから」
「変わらないな」
「勿論」

 僅かにディエゴが笑う。
 緊張感とも縁がないと付け加えられ、どうしてそこまでディスられなきゃいけないのと内心ツッコミ放題だ。緊張感ないのはディエゴも同じ。この道中笑っていられる方が余程変わり者だと思うけど。

「お嬢様、本日の紅茶はアッサムでございます、ぐらい言って」
「喉が渇いたのか?」
「全然違う」

 むしろ今の台詞は執事かな。

「お嬢様、王都までは一時間程かかります、とか」
「王都には向かっていない」
「マジレスはいらないよ」

 ノリが悪い。何が何でもお嬢様と呼びたくないの。

「お嬢様、お慕いしておりますぐらい言って」
「告白なら、普通にする」
「そういうことじゃないんだって」

 駄目だ、どうしてもお嬢様に辿り着けない。馬車の小窓からギリギリしていると、本物の御者さんが遠慮がちに声をかけてくれた。

「もうすぐ着きますが……」
「あ、はいはい」

 御者さん側の小窓を閉めて座り直す。さあ演技タイムだ。クールキャラで、そして拉致られことへの悲壮感を出そう。そこから相手をうまく自分のペースに持ってく。できるだけ穏便に進める事が大事。
 やれる、私は演じられる。
 そうして、馬車の扉が静かに開かれた。
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