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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

144話 やっぱりツンデレはこうでないと

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「あら、ここからは馬車通りがよく見えるのですね」
「そうだね」

 ここ最近ここでオリアーナに呼ばれること連日だったな。今になっては乾いた笑いしか出ない。ディエゴの馬車どこかなと探していたんだから。うわあ今自覚すると恥ずかしい。オリアーナに口止めしとこ。

「お姉様?」
「え、あ、何?」
「いえ、少し考えてる様子でしたので」
「あ、ごめんね。感慨深い思いに浸ってた」
「素敵です! 哲学に浸るお姉様!」

 どういう変換なの。
 速さを戻して走り直す。このテンションのまま彼女は走りきったのだから、オタクの力はいつだって規格外だなと思わざるを得ない。

「チアキ」
「何?」

 お着替え中の従妹さんをディエゴと待つ。相変わらず目力は変わらないけど、無表情はなくなったみたいだ。

「今日すまなかった。従妹の相手は疲れただろう」
「ううん、楽しかったよ? おいしい話もきけたし」
「そうか」

 ディエゴは少し周りを見やる。今は夕餉の準備があるから人気はない。つまるとこ玄関前、私と彼だけ。

「会わせなければよかった」
「従妹さんを? そんな気にしなくても」
「君は同性だと割かしガードがゆるくなる」
「え、そう?」

 それはディエゴの親戚だから緩んでただけだと思うんだけど。そう言っても彼はあまり納得していない。

「チアキ」

 するりと片手をとられる。ゆるく、本当にすぐすり抜けられる力の強さで握られる。
 あ、だめだ、完全に平静に戻れていない。まだだめだ、あつい。けど、振り払えない。振り払いたくないと、思ってしまっている。

「……やっぱり駄目だ、会わなすぎた」
「そんなに長かった?」
「長すぎだ」

 見つめる瞳の色が変わる。ついさっきと同じ。その色合いに流されそうになったあの瞬間を思い出して、ぶり返しに慌てる。落ち着け、落ち着いて平静にだ、平静に。

「チアキ」

 耳元に彼の顔が引き寄せられ囁かれる。再びイケボが私のすぐ近くを通って。

「ディエゴ、近っ」
「近くない」

 あ、これ、従妹と同じで盲目モードに入ってる。いや、その前に耳に唇あたってる、あたってるんだって。ここは全年齢だ、それはだめ。というか今の私にもだめだから。

「好きだ」
「っ!」

 ああああだめだよ、今日はだめ!
 ダメージが大きいから。平静を取り戻してからにしてよ。
 耳に触れたままで囁くのとか反則だから。待って私、たえて私。

「忙しさに追われて、少しぐらい会わなくても大丈夫だと思っていたんだ」
「そ、そう」

 すっと触れる手にディエゴの指が這う。まてまて、大事なことだから、もう一度言うよ。ここは全年齢だ。本当その動きはだめでしょ、無駄にえろいぞ。

「ディエゴ、それはだめ」
「嫌だ」
「ああもう! 酒でも飲んだの? 酔ってる?」

 完全に絡み酒でしょ。迷惑なやつ。はたから見る分には楽しいだろうけど。
 
「酔ってるか……そうだな、酔ってるかもしれない」
「いつ飲んだの」
「さあ」

 いまだ離れない。ツンデレのデレはもう充分だというのに。

「君も俺に会えて喜んでくれてると思ってたのに」
「え?」
「!」

 短く息を吐いて、耳元から唇が離れた。素早く離れた彼を見上げると耳が赤い。
 照れている。
 え、ちょっとまって。好きと言うのは大丈夫なのに、今の言葉はだめなの?
 照れる基準わからない。けど、すごくいい。

「照れてる?」
「照れてない!」

 触れてた手をぎゅっと握られる。あ、これは可愛い。ツンデレだ、帰ってきたツンデレ。神よ、ありがとうございます。ツンデレとはこれですよ、これ。

「お兄様?」
「!」

 やっと手が離される。長かったなあ。というか、人前ってやっぱりだめなの。さすがツンデレ。ここからなら死角になってて見えないから大丈夫だと思うけど。

「お姉様に失礼なことしてないでしょうね?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「盛りのつきすぎた犬」

 正解。間違いなく。

「品がないぞ!」
「事実じゃない。お姉様のことになると向こう見ずすぎだし」

 お嬢さん達者だな。しかも割と事実というおかしさ。暴走したディエゴは年齢指定入りだ、気をつけてもらわないと。

「いいからもう帰れ」
「なによ、図星?」
「願いは叶えただろう。御祖母様も認めてくださった。あちらの御両親も心配しているんだ」
「なによ、もう」

 外に連れてぐいぐい馬車に乗らせようとするから、思わず従妹さんにまたいつでもおいでと言ってしまった。
 当然コアなファン典型の彼女は歓喜だ。対してディエゴは非常に残念な顔に変わる。イケメンが台無しだよ。

「是非! 是非是非お願いします!!」
「君、甘やかすな!」
「ええー……」

 そしてまたしてもテンションマックスになった彼女は意気揚々と馬車から大きめの箱を取り出した。

「私の住む地方のワインなんですが、よければお姉様に」
「ワイン! ありがとうございます!!」
「ディ兄様がお姉様がワイン好きってずっと言ってたので」
「余計なことを言うな!」

 私が好きな味だという。てかディエゴそんなことまで話してたの。けどその反応、やっと本来のツンが戻ってきたって感じがする。安心したよ、あのまま存在が年齢指定になっても困るところだったし。

「やっぱりツンデレはこうでないと」
「つんで?」
「チアキ!」
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