144 / 164
2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
144話 やっぱりツンデレはこうでないと
しおりを挟む
「あら、ここからは馬車通りがよく見えるのですね」
「そうだね」
ここ最近ここでオリアーナに呼ばれること連日だったな。今になっては乾いた笑いしか出ない。ディエゴの馬車どこかなと探していたんだから。うわあ今自覚すると恥ずかしい。オリアーナに口止めしとこ。
「お姉様?」
「え、あ、何?」
「いえ、少し考えてる様子でしたので」
「あ、ごめんね。感慨深い思いに浸ってた」
「素敵です! 哲学に浸るお姉様!」
どういう変換なの。
速さを戻して走り直す。このテンションのまま彼女は走りきったのだから、オタクの力はいつだって規格外だなと思わざるを得ない。
「チアキ」
「何?」
お着替え中の従妹さんをディエゴと待つ。相変わらず目力は変わらないけど、無表情はなくなったみたいだ。
「今日すまなかった。従妹の相手は疲れただろう」
「ううん、楽しかったよ? おいしい話もきけたし」
「そうか」
ディエゴは少し周りを見やる。今は夕餉の準備があるから人気はない。つまるとこ玄関前、私と彼だけ。
「会わせなければよかった」
「従妹さんを? そんな気にしなくても」
「君は同性だと割かしガードがゆるくなる」
「え、そう?」
それはディエゴの親戚だから緩んでただけだと思うんだけど。そう言っても彼はあまり納得していない。
「チアキ」
するりと片手をとられる。ゆるく、本当にすぐすり抜けられる力の強さで握られる。
あ、だめだ、完全に平静に戻れていない。まだだめだ、あつい。けど、振り払えない。振り払いたくないと、思ってしまっている。
「……やっぱり駄目だ、会わなすぎた」
「そんなに長かった?」
「長すぎだ」
見つめる瞳の色が変わる。ついさっきと同じ。その色合いに流されそうになったあの瞬間を思い出して、ぶり返しに慌てる。落ち着け、落ち着いて平静にだ、平静に。
「チアキ」
耳元に彼の顔が引き寄せられ囁かれる。再びイケボが私のすぐ近くを通って。
「ディエゴ、近っ」
「近くない」
あ、これ、従妹と同じで盲目モードに入ってる。いや、その前に耳に唇あたってる、あたってるんだって。ここは全年齢だ、それはだめ。というか今の私にもだめだから。
「好きだ」
「っ!」
ああああだめだよ、今日はだめ!
ダメージが大きいから。平静を取り戻してからにしてよ。
耳に触れたままで囁くのとか反則だから。待って私、たえて私。
「忙しさに追われて、少しぐらい会わなくても大丈夫だと思っていたんだ」
「そ、そう」
すっと触れる手にディエゴの指が這う。まてまて、大事なことだから、もう一度言うよ。ここは全年齢だ。本当その動きはだめでしょ、無駄にえろいぞ。
「ディエゴ、それはだめ」
「嫌だ」
「ああもう! 酒でも飲んだの? 酔ってる?」
完全に絡み酒でしょ。迷惑なやつ。はたから見る分には楽しいだろうけど。
「酔ってるか……そうだな、酔ってるかもしれない」
「いつ飲んだの」
「さあ」
いまだ離れない。ツンデレのデレはもう充分だというのに。
「君も俺に会えて喜んでくれてると思ってたのに」
「え?」
「!」
短く息を吐いて、耳元から唇が離れた。素早く離れた彼を見上げると耳が赤い。
照れている。
え、ちょっとまって。好きと言うのは大丈夫なのに、今の言葉はだめなの?
照れる基準わからない。けど、すごくいい。
「照れてる?」
「照れてない!」
触れてた手をぎゅっと握られる。あ、これは可愛い。ツンデレだ、帰ってきたツンデレ。神よ、ありがとうございます。ツンデレとはこれですよ、これ。
「お兄様?」
「!」
やっと手が離される。長かったなあ。というか、人前ってやっぱりだめなの。さすがツンデレ。ここからなら死角になってて見えないから大丈夫だと思うけど。
「お姉様に失礼なことしてないでしょうね?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「盛りのつきすぎた犬」
正解。間違いなく。
「品がないぞ!」
「事実じゃない。お姉様のことになると向こう見ずすぎだし」
お嬢さん達者だな。しかも割と事実というおかしさ。暴走したディエゴは年齢指定入りだ、気をつけてもらわないと。
「いいからもう帰れ」
「なによ、図星?」
「願いは叶えただろう。御祖母様も認めてくださった。あちらの御両親も心配しているんだ」
「なによ、もう」
外に連れてぐいぐい馬車に乗らせようとするから、思わず従妹さんにまたいつでもおいでと言ってしまった。
当然コアなファン典型の彼女は歓喜だ。対してディエゴは非常に残念な顔に変わる。イケメンが台無しだよ。
「是非! 是非是非お願いします!!」
「君、甘やかすな!」
「ええー……」
そしてまたしてもテンションマックスになった彼女は意気揚々と馬車から大きめの箱を取り出した。
「私の住む地方のワインなんですが、よければお姉様に」
「ワイン! ありがとうございます!!」
「ディ兄様がお姉様がワイン好きってずっと言ってたので」
「余計なことを言うな!」
私が好きな味だという。てかディエゴそんなことまで話してたの。けどその反応、やっと本来のツンが戻ってきたって感じがする。安心したよ、あのまま存在が年齢指定になっても困るところだったし。
「やっぱりツンデレはこうでないと」
「つんで?」
「チアキ!」
「そうだね」
ここ最近ここでオリアーナに呼ばれること連日だったな。今になっては乾いた笑いしか出ない。ディエゴの馬車どこかなと探していたんだから。うわあ今自覚すると恥ずかしい。オリアーナに口止めしとこ。
「お姉様?」
「え、あ、何?」
「いえ、少し考えてる様子でしたので」
「あ、ごめんね。感慨深い思いに浸ってた」
「素敵です! 哲学に浸るお姉様!」
どういう変換なの。
速さを戻して走り直す。このテンションのまま彼女は走りきったのだから、オタクの力はいつだって規格外だなと思わざるを得ない。
「チアキ」
「何?」
お着替え中の従妹さんをディエゴと待つ。相変わらず目力は変わらないけど、無表情はなくなったみたいだ。
「今日すまなかった。従妹の相手は疲れただろう」
「ううん、楽しかったよ? おいしい話もきけたし」
「そうか」
ディエゴは少し周りを見やる。今は夕餉の準備があるから人気はない。つまるとこ玄関前、私と彼だけ。
「会わせなければよかった」
「従妹さんを? そんな気にしなくても」
「君は同性だと割かしガードがゆるくなる」
「え、そう?」
それはディエゴの親戚だから緩んでただけだと思うんだけど。そう言っても彼はあまり納得していない。
「チアキ」
するりと片手をとられる。ゆるく、本当にすぐすり抜けられる力の強さで握られる。
あ、だめだ、完全に平静に戻れていない。まだだめだ、あつい。けど、振り払えない。振り払いたくないと、思ってしまっている。
「……やっぱり駄目だ、会わなすぎた」
「そんなに長かった?」
「長すぎだ」
見つめる瞳の色が変わる。ついさっきと同じ。その色合いに流されそうになったあの瞬間を思い出して、ぶり返しに慌てる。落ち着け、落ち着いて平静にだ、平静に。
「チアキ」
耳元に彼の顔が引き寄せられ囁かれる。再びイケボが私のすぐ近くを通って。
「ディエゴ、近っ」
「近くない」
あ、これ、従妹と同じで盲目モードに入ってる。いや、その前に耳に唇あたってる、あたってるんだって。ここは全年齢だ、それはだめ。というか今の私にもだめだから。
「好きだ」
「っ!」
ああああだめだよ、今日はだめ!
ダメージが大きいから。平静を取り戻してからにしてよ。
耳に触れたままで囁くのとか反則だから。待って私、たえて私。
「忙しさに追われて、少しぐらい会わなくても大丈夫だと思っていたんだ」
「そ、そう」
すっと触れる手にディエゴの指が這う。まてまて、大事なことだから、もう一度言うよ。ここは全年齢だ。本当その動きはだめでしょ、無駄にえろいぞ。
「ディエゴ、それはだめ」
「嫌だ」
「ああもう! 酒でも飲んだの? 酔ってる?」
完全に絡み酒でしょ。迷惑なやつ。はたから見る分には楽しいだろうけど。
「酔ってるか……そうだな、酔ってるかもしれない」
「いつ飲んだの」
「さあ」
いまだ離れない。ツンデレのデレはもう充分だというのに。
「君も俺に会えて喜んでくれてると思ってたのに」
「え?」
「!」
短く息を吐いて、耳元から唇が離れた。素早く離れた彼を見上げると耳が赤い。
照れている。
え、ちょっとまって。好きと言うのは大丈夫なのに、今の言葉はだめなの?
照れる基準わからない。けど、すごくいい。
「照れてる?」
「照れてない!」
触れてた手をぎゅっと握られる。あ、これは可愛い。ツンデレだ、帰ってきたツンデレ。神よ、ありがとうございます。ツンデレとはこれですよ、これ。
「お兄様?」
「!」
やっと手が離される。長かったなあ。というか、人前ってやっぱりだめなの。さすがツンデレ。ここからなら死角になってて見えないから大丈夫だと思うけど。
「お姉様に失礼なことしてないでしょうね?」
「俺をなんだと思ってるんだ」
「盛りのつきすぎた犬」
正解。間違いなく。
「品がないぞ!」
「事実じゃない。お姉様のことになると向こう見ずすぎだし」
お嬢さん達者だな。しかも割と事実というおかしさ。暴走したディエゴは年齢指定入りだ、気をつけてもらわないと。
「いいからもう帰れ」
「なによ、図星?」
「願いは叶えただろう。御祖母様も認めてくださった。あちらの御両親も心配しているんだ」
「なによ、もう」
外に連れてぐいぐい馬車に乗らせようとするから、思わず従妹さんにまたいつでもおいでと言ってしまった。
当然コアなファン典型の彼女は歓喜だ。対してディエゴは非常に残念な顔に変わる。イケメンが台無しだよ。
「是非! 是非是非お願いします!!」
「君、甘やかすな!」
「ええー……」
そしてまたしてもテンションマックスになった彼女は意気揚々と馬車から大きめの箱を取り出した。
「私の住む地方のワインなんですが、よければお姉様に」
「ワイン! ありがとうございます!!」
「ディ兄様がお姉様がワイン好きってずっと言ってたので」
「余計なことを言うな!」
私が好きな味だという。てかディエゴそんなことまで話してたの。けどその反応、やっと本来のツンが戻ってきたって感じがする。安心したよ、あのまま存在が年齢指定になっても困るところだったし。
「やっぱりツンデレはこうでないと」
「つんで?」
「チアキ!」
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる