クールキャラなんて演じられない!

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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

133話 胸の鼓動が鳴り止まないのを確かめている的な

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「オリアーナ」
「はい、司令」
「君が私の部下に暴力を振るわれたのは事実だ。部隊を統べるものとして謝罪したい。すまなかった」
「いいえ、司令が悪いわけではないですよ。あの騎士さんにとって、私が悪なのは彼の中で真実になってますし」

 自己暗示にしては強すぎるレベルの思い込みだけどね。
 司令はトットと共に、連れてきた騎馬部隊と警備隊に再度配置の指示をし、司令と共に階下へ降りて行った。エステルがトットと残り、相変わらずの顔をして溜息を一つ。

「チアキったら」
「えへへ、我慢出来なくて」
「早くに解決できたのは有り難かったが、さすがに相手は騎士だ。一人で向かうのはどうかと思うぞ」
「トットまでそう言うってことは、今日は結構いけないレベルでしたか」
「自覚あるでしょう」

 覚悟もある。自分のやらかしたことに責任をとる程度には。なんて格好よく言ってみたと言っても、トットもエステルもいい顔はしないだろうな。そしたら最後まできちんとやりきるとしようか。格好はつけないまでも。 

「責任とるよ」
「ええ」
「任せた」
「チアキ?」

 エステルとトットは分かっていた。だから、ディエゴをすり抜け、エステルトットも通り過ぎて、階下へ向かった。
 するとディエゴが焦ってこちらに駆けよってくるので、手で制して彼を止めた。行き場のない手をおろして、困ったようにこちらを見てくる。

「チアキ!」
「ディエゴ、大丈夫。一人で行くよ」
「しかし」
「やることあるから」
「何を」
「胸を張って会場に戻るの」

 ディエゴが肩を鳴らした。動きが止まったこの一瞬で私は踵を返して、大きく階下へ下る。

「ガラッシア公爵令嬢」
「はい」
「何があったか説明して頂けますか」
「はい」

 ネウトラーレ侯爵夫人が手助けして声をかけてくれた。話すきっかけをくれるなんて有り難い気づかいだ。
 私はありのまま起きた事を話した。今日の噂の大元が連れていかれた二人である事、その二人に襲われた事、争いの末、うっかり剣が落ちてきた事。さすがに真剣白刃取りのことは伏せたけど。

「それは、本当に真実なのですか?」

 当然そういった声が上がるのは分かっていた。なにせ疑われているのは私という魔法使いの祖の血を継ぐ者達なのだから。
 しかしここでもまた助け船がやってくる。司令だった。

「私からも話そう」

 今現在の犯人二人の状況と証言。本来ならそういった話は気軽にしていいものではないけど、場を鎮める為に敢えて話していた。
 司令の言葉は理知的で説得力がある。大方納得した様子を見せた。

「ガラッシア公爵令嬢も先程言っていた通り、他者を謀り貶め、社交界を牛耳るつもりはないのだろう」
「ええ、司令。仰る通りです」

 周りを見やる。好奇の視線にはなれたものだ。

「私は自身が潔白であると主張させて頂きます。以前より私はガラッシア家の事業を立て直すばかりでなく、得ている知識を外へ提供し続けていますし、それをやめることは致しません」
「……」
「行動と結果で示しましょう。どうぞこれからも私達ガラッシア家の成すことをご覧になってください」

 こんなものかな。当然その中には納得いかない者もいるだろうが、それがまた向かって来たら受けて立つだけ。簡単な事だ。
 まあスーパーマンな私に勝てるものならだけど。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「そうして無事解決に至るのでした~」
「呑気に言ってる場合ではないぞ」
「ディエゴと離れた事は申し訳ないと思ってるよ」
「まったく」

 そろそろ終わりを見せる本日、私はディエゴとバルコニー族をしている。やっと落ち着いてワインを飲めている至福タイムだ。階下の人々はエステルトットという主役に集まっていて、もう無駄に話しかけられると言う事もない。まったりする時間があってよかった。

「俺は君を追いかけてばかりだ」
「そう?」

 ワイングラスをバルコニーの縁に置いて、こちらに身体を向ける。目元が少し赤かった。

「思い出したんだ」
「何を?」
「俺が君を好きになった時のこと」
「ん?」

 風が僅かに吹いて心地がいい。私もディエゴと同じようにグラスを縁に置いて向き直った。

「君が堂々と階下へ戻っていく姿を見て、好きになったんだ」

 叔父の時だ。
 そういえば、あの時と同じでディエゴは動きを止めていた。そして私はスムーズに階下へ降りた。
 ディエゴの心が動いた時ねえ。
 いいなあ、それ最高に癒しじゃない。本人にしか分からないものだから、私が見ようにもいや聴こうにも出来ない貴重な瞬間だよ。反応じゃない、感覚の話。考えるだけで尊い。

「あー、恋に落ちる音が聴きたい」
「え?」

 その瞬間は当人にしか分からないなら、想像力働かせてうはうはするか。うん、すごくおいしい。

「チアキ」
「な、に」

 後頭部と背中に腕を回され、そのまま引き寄せられた。
 私の顔を横向きにして、自身の胸に押し付ける。

「聞こえるか?」
「うん」

 随分と早鐘を打っているのがわかった。

「胸の鼓動が鳴り止まないのを確かめている的な」
「君が、音を聴きたいと言うから」
「確かによく聞こえる」

 少し不機嫌に言う様はまさにツンデレのお手本のようですね。今は彼の表情を見ることが出来ないのが残念な限り。きっといいツン顔してるに違いない。

「こういうことじゃないのか?」
「そうだね、そういうことだよ」

 しかしまあ、そのフラグは本来逆に回収すべきだったんだよ、ディエゴ。こんな形で回収するのでよかったのでしょうか、神よ。

「出来れば女の子の柔らかい胸がよかった」
「チアキ!」
「怒らないでよ」
「雰囲気を察してくれ!」

 充分察した結果、抵抗なく抱きしめられたんだけど、それは黙っておくことにした。
 今日一日、一番気が気じゃなくて大変だったのはディエゴのはずだ。私は私自身の行動を止める事はしないから、その後の彼の疲労を鑑み、私を追いかけて付き添ってくれた感謝の気持ちの表し方をこうして示しているというのに。

「最近触れるの大丈夫になったんじゃない?」
「ち、ちが」
「自分から抱きしめる分には平気というのは何度も見た。もうそこは飽きた表現だよ」
「ぐ……」

 唸ったディエゴは一つ息を吐いて、それでも動揺したまま言葉を続けた。

「き、君は」
「ん?」
「こうでもしないと、またなにかやらかすだろう」
「……ふふ」
「……」
「ツンデレ、おいしい!」

 ぐぐうとディエゴが唸った。
 相変わらずツンデレは健在。さすがわかってるね、天然ものは。
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