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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

125話 年齢指定でお馴染みの触手きたわー!

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ぬるりとした感触が掌を触った。
湖面を見る。透明度の高いこの湖だと底までよく見えるわけで、私の手に絡みつくものも当然綺麗に姿かたちが分かった。
ぬめりのある感触が這い上がって巻き付いてきたので、そのまま勢いよく持ち上げた。
生物の大きさに湖面が大きく揺れて、水しぶきがあがる。

「年齢指定でお馴染みの触手きたわー!」
「は!?」

ディエゴが目を丸くしている。
蠢く触手は私の右腕を捕らえたままだ。そのまま引きずり上げてみせよう。

「待て、危険だ!」
「大丈夫、生け捕りにしよう!」
「馬鹿言うな!」

左腕をディエゴにとられ、そのまま引き寄せられる。ぐらつくこの足場では私の身体は簡単に傾いて彼の腕の中におさまった。ぐっと右腕で腰を抱かれて動けなくなる。
同時、ディエゴは魔法を放ち、そのまま触手が引きちぎられる。

「そんな!」
「あれは危険指定生物だぞ!」

いくらここが全年齢でも生け捕りぐらいは許されるはず。陸地に引き上げて、魔法かけて捕らえておけば、そのまま王都へ引き渡しも可能だというのに。勿体無い、触手の使い方をわかっていないぞ!

「お?」
「しまっ、」

触手が慌てて逃げだした反動で湖面がさらに揺れた。ぐらぐらと激しく揺れて、私はディエゴに抱きしめられたまま湖へ放り出された。
船が転覆したのかと理解したのは、湖の中に身体が完全に沈んでからだった。

「……」

水中、触手はどこにもいなかった。完全に逃げ切ったのか、残念。他に何かいないか見るも、淡水魚がいくらか見えただけで大したことはなかった。
そもそも、ディエゴに拘束されて動けない。濡れるぐらいならいっそ深く潜るダイビングをしてもいいかと思ったけど、それは彼が許さなかった。すぐに魔法を使って近い陸地に移動したから。

「……触手」
「まだ言うか!」

岸辺で水浸しになって座り込んだ私は遠くにある転覆した船を眺めて遠い目だ。貴重なイベントを逃した感が半端ない。というより、年齢指定じゃない場合の触手はどう活躍すべきか。ぎりぎりラインを狙うか、正当なバトルへ持って行くか、他のときめく役割はないか思考を張り巡らせていた。

「まったく何を考えてるんだ」
「触手に想いを馳せてる」
「……ぶれないな」
「ありがと」

呆れて溜息をついてるディエゴは、すぐに大人の対応で、服を乾かしてくれた。ほら、これだけ魔法が便利に使える世界なんだから、水中で触手とバトルしてもよかったんじゃん。でもそれ言ったら怒られそうだから言わないけど。お礼だけ伝えよう。

「ありがとう」
「冷えただろう。まだ水は冷たい時期だ」

彼の使っていた上着をかけられる。

「そんな寒くないよ?」
「いいから着ておけ」
「ではお言葉に甘えて」

ちょうどこの後にきちんとお茶を飲むプランだったから、タイミングも丁度良く、持って来ていた紅茶をいれて二人で飲むことにした。
淹れたての紅茶がしみるわと思った時点で、多少なりとも身体が冷えたのかもしれない。

「チアキは見てて危なっかしい」
「褒め言葉かな」
「人より先に行動する君は好きだが心配になる」

それは私の性質だからな。
スーパーマンな時点で何やっても大丈夫という自信までついてるし。因果の力をなめるなよ、祖一族のおばあちゃんみたくチートではないにしろ、なかなかの規格外でこの世界に存在していると自負してるし。

「心配しなくても、私スーパーマンだから大丈夫だよ」
「そうだとしても、好きな人が危険な目に遭っていたら助けたくなるだろう」
「そう?」
「そうだ」

そんなディエゴは少し恥ずかしがってか、誤魔化すように紅茶を飲んだ。その横顔を眺めれば、耳は赤い。
けどその可愛さに癒される以前に、顔色があまり良くないことが気になった。いつもより白くない?
気になって、するりと彼の頬に手を当てると、案の定冷えきっていた。

「!」
「やっぱり」

ディエゴが顔を離す。それを追いかけて今度は両手で両頬をホールドした。

「すごく冷たくなってる。寒いんじゃないの?」
「そ、んなことは」
「上着返すよ」
「いや、いい! それよりも早く離してくれ」

相変わらず貞淑のお手本のようですね。頬に触れるのすら駄目なの。でも全力で手を振り払わないあたり、触ってほしいという気持ちも少なからずあると見た。
いやもうツンデレってば、実に素晴らしい。
でも体調も心配なのは事実。焚火でもすればいいか、いやアウトドア回は終了しているから、ここは解散がいい選択だろう。

「そしたら帰ろう」
「え?」
「ディエゴの身体がこれ以上冷えても困る」
「嫌だ」
「ええ……」

私の両手をとって自分の頬から離すディエゴは私から視線を逸らさなかった。
その手が案の定冷え切っていて、これはいけないと増々あたたかいところへ避難する事を進めると、今度は小さく唸った。相当嫌らしい。

「ディエゴ、もう充分デートしたでしょ。風邪ひいたら大変だし」
「嫌だ」

両手を解放したと思ったら、今度はそのまま引き寄せられ、またしても彼の腕の中へおさまってしまう。そのまま背中にまわされ完全に囲い込まれた。
拗ねるにしたって、抱きしめてくるとは。

「散々触るなって言ってこれとは」
「言うな」

声が近い。
気まずそうなディエゴの唸り声がおりてきて、咄嗟というか苦肉の策だったのがわかる。

「君の、」
「ん?」
「こう、してれば、あたたかい」

駄々をこねた結果が今の状況らしい。言葉の調子からだいぶテンパってる感じはするけど。
そして敢えて言わないけど、寒いところをあたためるのは年齢指定の裸で抱き合うイベントを推す。
けどまあ、こうなってしまうともうどうしようもなさそうだ。意固地で頑固は早々動かせない。

「仕様がないな」
「……」 

寛大に装って言ったものの、私だって乙女心は残っている。前も彼には直接言ったけど。
イケメンに抱きしめられて、いい匂いを堪能して、イケボを耳元で聴いてテンパらないわけがない。当の本人は気づいてないけど、私も私で結構心臓に困る状態なんだけど。
それこそ胸の鼓動が鳴り止まないのを今すぐ証明してみせようか。でもそれは相変わらず駄目だと言われそうだな。
そんなことをぐるぐる考えながら、私はしばらくディエゴに抱きしめられる事を選んだ。
だいぶほだされてきてる気がしたけど無視だ、無視。今は正直に彼の現状を教えてくれる鼓動を聴きながら無になろう。
おいしいものを目の前にしていれば癒しが得られる。どんな時でも逃すわけにはいかない。もったいないから。
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