クールキャラなんて演じられない!

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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

111話 ツンデレ萌えには逆らえない

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「さあキャンプだ!」
「どういうことだ?」

ディエゴだけアウトドア未経験者。野宿の概念がないのかな。荷物はネウトラーレ侯爵夫人任せだからなんともだけど、それにしてもキャンプ道具一式あるなんてこの世界私に優しすぎじゃない。登山ウェアはガラッシア家で作らせてもらったけど、差異は見られるものの確かにキャンプ道具がこの世界にはある。
なにやらネウトラーレ候爵夫人がこういった手引をする過程で元々あった野営道具に改良を加えて今の形になったらしい。え、キャンプ漫画(アニメ可)、やる?やるしかない?

「ではディエゴにはテントの張り方から伝授しよう」

やるしかない。
自分用のを完成させれば作り方は現代日本と同じだった。私も傍で教えつつ、ディエゴは自分のテントを作ってみせる。いや、そもそも魔法でやるんだけどね?そこは御愛嬌、今だけジャンルがキャンプものなので!一切魔法は使いません!

「待て……この中で一晩過ごすのか?」
「うん。勿論寝袋もあるよ?」
「いや、俺はまだしも淑女である夫人とチアキもか?」

お気遣いありがとう。しかしキャンプに男女差はない。むしろそれが醍醐味だ。複数人用テントにして皆で並んで寝るという選択肢もあったけど、夫人はそこ気を使ってくれたらしい。選択肢は完全にソロキャンだ。

「お向かいでテント張ったし、ここに火でも起こそうか」
「チアキ」

薪の選び方から教えてあげたよ!
幸いな事にこの世界に松ぼっくりあったから着火剤いらず。魔法?使いませんよ、キャンプだもの。自分で火を起こすとも!

「貴方手際いいのねえ」
「いえいえ、夫人程では」

夫人も何度も登山してるからか慣れてる様子だった。てか魔法使ってない時点で玄人キャンパーじゃん。
ディエゴだけが置いてけぼりだけど、きちんと私の説明を聞いてる当たり律儀だ。
よしこのまま、アウトドア飯へとうつろうじゃないか。なんだかんだで夫人が食材を用意して従者さんもやる気満々だったけど、全部自分でやってやったわ。魔法で保存した出来立て食事を持ってくることも出来るけど現地で食すの大事。キャンプの醍醐味ですよ、アウトドア飯。

「方向性が違う事だけは俺でもわかるぞ」
「ジャンル違いなのは分かってるけど、今はキャンプタイムだから!」

このあたりを省略して明日にしてもいいけど、それはね。
だってごらんよ。設営してご飯食べてまったりしたらもう夜だよ。夜になったらこんなに星空綺麗だし。そんないい夜空の日にも関わらずディエゴはテントから出ようとしない。

「ディエゴ出てきなって」
「夜間に、しかもこの状況で女性と顔を合わせるのが憚れる」
「お堅い! 大丈夫だから!」
「チアキ一人で楽しんでくれ」
「ふーん……なら用心棒さん達と従者さん達に声かけようかな」
「それはだめだ」

ネウトラーレ侯爵夫人の従者や用心棒たちが男性なのを思い出してか、ディエゴは唸った挙句渋々テントから出てきた。出来立てのお茶を渡して星空観賞会といこうじゃないか。
アウトドアしててテンション上がる。

「ついてくるって言ったのディエゴなのに」
「婚前の男女が宿泊するなんてきいていない」
「表向きは宿泊を伴う事業研修だよ。それに遠いんだから仕方ないじゃん」
「そうじゃない」
「なに? 据え膳食わぬは男の恥って?」
「すえ、え?」

説明しないよ、さすがに。いや私何も誘ってないけど。
けど、なんとなく言いたい事は悟ったみたいで、やれやれと言った具合に肩を落とす。

「チアキは危機感がない」
「キャンプに色事を持ってくる方が無粋」

キャンプとは純粋に自然を味わい、純粋に不便を味わう。そして出来れば贅沢な時間の使い方をするのがベスト。今回はそれがかなわないけど。
そんなキャンプの定義を話してもディエゴはむすっとしていた。

「俺が分別あるからいいものを」
「なら安心ですね、よかったよかった」

その言葉にさらにむっとしてこちらを睨んでくる。眼光強いから睨みもききますね。
むすり顔のままディエゴにカップを渡すよう言われて、黙ってそれに従う。少し話したところに置き、次に私の手を取って引っ張ってきた。
バランスを崩して体勢がよろけると、間近にディエゴの顔が。まだ睨みを利かせた不機嫌顔だった。
額が合わされる。吐息がそのままかかるぐらい近かった。

「俺が君を好きな事を忘れてるな」
「一応、覚えてはいるけど」
「……君が俺を好きだと言ってくれるまでは、君の嫌がる事はしたくない」
「実に素晴らしい考えです」
「でも、そこに甘えないで気を引き締めててくれ」

頼むから、と小さく弱く言われる。
ゆっくり離れて、掴んでいた手元に視線を下ろし、そのまま私の手を掴んだまま自身の口元へ引き寄せた。
指先に感じる感触がこそばゆい。

「好きな人に触れたいと思うのは当然の事だからな」
「おう」

唇を落としたまま、じろりとこちらに睨みを利かせてくる。ここにきてツンしつつも、言う事はデレ告白とかちょっとそれ反則技なんじゃないの。気の利いた返事できない、ツンデレのツンがもっとあるとなおいい。

「……分かってないな」
「そんなことは、」
「その顔をして言うのか」
「ぎく」

緩んでいたらしい。やれやれと言った具合に唇も手も離して、私はやっとこそ解放された。そして脇に寄せていた飲み物返してくれる紳士ぶり。
わざと演じていない天然もののツンは貴重なものなので許してほしい。仕様がなかったんだ、萌えには逆らえない。

「いいさ、君の望み通り星空を眺めよう」
「ありがと」
「ああ」

切り替えの早さと対応は大人だな。感心しつつ、せっかくなので星のことやら色々話しておいた。ディエゴは律儀に聴いてくれる。そこも本当年齢に似合わず大人びているなとしみじみ思った。
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