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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
104話 逆行最後の日
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最後の逆行、私がこの世界に戻る事になったルートだ。
「エドアルドにいつもの道が使えないことを言われて最初の渓谷での死を逃れて少し嬉しかったわね。あの子はそれを意図してなかったけど」
「ふわあハニーフェイス天使ィ」
「それも同意」
おっとさっきからシリアスな話のところ度々少し脱線してる。いけないいけない。
「お母様、お伺いしたいことが」
思いきって話してみようと思った。今まで数えきれないほど、やり直しても話さなかったこと。
「私はお母様とオリアーナが死なない未来のために戻ってきました」
「……戻って?」
「時を遡ったのです」
「ああ、それでオリアーナが来なかったの」
全く驚く様子がなかった。挙げ句オリアーナが一緒に来るという未来を知っていた。
「お母様、予知の力が?」
「あら、オルネッラにそんな話をしたかしら?」
まあいいわ、と投げやりに言葉を発し、馬車の窓から遠くを見つめる母には、覇気が感じられなかった。
「ええ、でも少しだけね。私は私の死の瞬間しか見えないのよ」
「そこにオリアーナが?」
「そうよ、私はオリアーナと一緒に死ぬ。二人分の死が必要だから」
「二人?」
そこにきて馬車が止まった。見れば、違う馬車が立ち往生している。
エスタジだった。きいた話通り、具合が悪くなった御者の代わりにガラッシア家の熟練御者を貸し進めた。
母が新人の御者に声をかけ、そして遠回りの道を進んでいく。
「お母様、お話をさらに伺っても?」
「もう話したと思うけれど」
「いいえ。私は二人が死なない道を探したいのです」
「俄然無理な話ね。精々オリアーナの代わりを貴方が努める程度よ」
つまり私に死ねというのか。
自分の子供に?
母は私達を愛してくれていると思っていた。こんな簡単に死を背負わせるようなことを言わないぐらいには、愛があったと思っていたけど、それも勘違いだったというの。
「私や、オリアーナが、死んでも、いいと?」
「当然死んでほしくないわ。今私がそう言っても信じてもらえないかもしれないけれど」
「……」
「けれど、これしか方法がないのよ……私が二人分賄えればいいのだけど、それも難しかったから」
「二人分、というのは」
「私とコラッジョ」
「叔父様が……」
叔父であるならば、血のつながりがある。呪われた血というのは、母方の血筋。ディエゴのおばあちゃんも話していたけど、例の魔法使いの祖伝説がここにくるの。
「私もどうにか見える未来が変わらないか試したのよ? でも私1人だけが死ぬ未来はなかった。コラッジョは魔法を取り除いたのもあって影響は受けないけど、かわりに私に近い人間にその反発が現れる未来になってしまったの。それがオリアーナの死よ」
「そんな……」
「オリアーナが私と共に死ぬ未来が見えた時、私は自分に降りかかっている呪いをどうにかするのを止めたわ。取り除けたとしても私の周囲に呪いが及ぶ可能性があったから」
「オリアーナ、は」
母は首を横に振った。
諦めの表情から、それがかなわないことも知った。
「直接呪いが降りかかってないにしろ、私の次に死ぬ候補はオリアーナ。次点でオルネッラ、貴方なのよ。それは変わらない」
「どうしてオリアーナなのです! 直接呪われていないのに!」
「そうね」
駄目だ、母はここからどうにかしようと考えていない。
呪いの優先順位がオリアーナなのは、当時叔父の呪いを取り除いた時にお腹にいたから、反発を受けやすくなったと母は言うけれど、直接呪いを受けてないなら、ああも何度もオリアーナが死ぬ必要なかったはずだ。
オルネッラがオリアーナの前に出てかばっても、オリアーナは死ぬ事が度々あった。その説明がなされていない。けど、母はこれ以上話そうとはしなかった。溜息と共に吐き捨てるように呟かれるのは、諦めと謝罪だけ。
「貴方は私に似て育ったわね。何度ももがいて」
「あ、当たり前よ! 生きていてほしいもの! 目の前で死なれるのはもうたくさん!」
「ごめんなさい」
「お母様!」
諦めている。そして死を受け入れている。どうしても救えないというの。
考え直してと訴えようと身を乗り出した時、がくんと身体が揺れた。違う、馬車ごと傾いている。
「私が見たオリアーナの死ぬ未来、貴方が代わりに受けてくれる?」
「オリアーナは、死なせない…!」
「そう、なら一緒に逝きましょうか」
目の前で笑う母の身体が抉れる。落下の際に貫いてきた木々が母を襲ったからだ。
私も貫かれるのかと思った時、壊れていく馬車の車輪が私の目の前に飛び出して襲う枝から守ってくれた。
「オリアーナ……」
けれど落下の衝撃は凄惨なものだった。私はそこで意識を手放し、次に気づいた時はガラッシア家の客間だった。
「え?」
天井から見下ろす形で存在していると言う事は、私は死んだと言う事なの。混乱し泣き叫ぶクラーレと、黒く身体が染まった白い顔の母、そして大きな外傷が見られない私がいる。
死んだのかと思ったところで強い力に引っ張られて、私の視界はめまぐるしく変化した。落ち着いた先は見た事ない風景の街だった。
その中で光が見えた。
「こっちの世界?」
「そう、チアキの世界に転移してたわ。その時、ちょうど命の芽生えが見えたの。私はその光に吸い寄せられて、そのまま」
「で、私に変質したと」
「これが事の顛末。なんてことないでしょ」
「エドアルドにいつもの道が使えないことを言われて最初の渓谷での死を逃れて少し嬉しかったわね。あの子はそれを意図してなかったけど」
「ふわあハニーフェイス天使ィ」
「それも同意」
おっとさっきからシリアスな話のところ度々少し脱線してる。いけないいけない。
「お母様、お伺いしたいことが」
思いきって話してみようと思った。今まで数えきれないほど、やり直しても話さなかったこと。
「私はお母様とオリアーナが死なない未来のために戻ってきました」
「……戻って?」
「時を遡ったのです」
「ああ、それでオリアーナが来なかったの」
全く驚く様子がなかった。挙げ句オリアーナが一緒に来るという未来を知っていた。
「お母様、予知の力が?」
「あら、オルネッラにそんな話をしたかしら?」
まあいいわ、と投げやりに言葉を発し、馬車の窓から遠くを見つめる母には、覇気が感じられなかった。
「ええ、でも少しだけね。私は私の死の瞬間しか見えないのよ」
「そこにオリアーナが?」
「そうよ、私はオリアーナと一緒に死ぬ。二人分の死が必要だから」
「二人?」
そこにきて馬車が止まった。見れば、違う馬車が立ち往生している。
エスタジだった。きいた話通り、具合が悪くなった御者の代わりにガラッシア家の熟練御者を貸し進めた。
母が新人の御者に声をかけ、そして遠回りの道を進んでいく。
「お母様、お話をさらに伺っても?」
「もう話したと思うけれど」
「いいえ。私は二人が死なない道を探したいのです」
「俄然無理な話ね。精々オリアーナの代わりを貴方が努める程度よ」
つまり私に死ねというのか。
自分の子供に?
母は私達を愛してくれていると思っていた。こんな簡単に死を背負わせるようなことを言わないぐらいには、愛があったと思っていたけど、それも勘違いだったというの。
「私や、オリアーナが、死んでも、いいと?」
「当然死んでほしくないわ。今私がそう言っても信じてもらえないかもしれないけれど」
「……」
「けれど、これしか方法がないのよ……私が二人分賄えればいいのだけど、それも難しかったから」
「二人分、というのは」
「私とコラッジョ」
「叔父様が……」
叔父であるならば、血のつながりがある。呪われた血というのは、母方の血筋。ディエゴのおばあちゃんも話していたけど、例の魔法使いの祖伝説がここにくるの。
「私もどうにか見える未来が変わらないか試したのよ? でも私1人だけが死ぬ未来はなかった。コラッジョは魔法を取り除いたのもあって影響は受けないけど、かわりに私に近い人間にその反発が現れる未来になってしまったの。それがオリアーナの死よ」
「そんな……」
「オリアーナが私と共に死ぬ未来が見えた時、私は自分に降りかかっている呪いをどうにかするのを止めたわ。取り除けたとしても私の周囲に呪いが及ぶ可能性があったから」
「オリアーナ、は」
母は首を横に振った。
諦めの表情から、それがかなわないことも知った。
「直接呪いが降りかかってないにしろ、私の次に死ぬ候補はオリアーナ。次点でオルネッラ、貴方なのよ。それは変わらない」
「どうしてオリアーナなのです! 直接呪われていないのに!」
「そうね」
駄目だ、母はここからどうにかしようと考えていない。
呪いの優先順位がオリアーナなのは、当時叔父の呪いを取り除いた時にお腹にいたから、反発を受けやすくなったと母は言うけれど、直接呪いを受けてないなら、ああも何度もオリアーナが死ぬ必要なかったはずだ。
オルネッラがオリアーナの前に出てかばっても、オリアーナは死ぬ事が度々あった。その説明がなされていない。けど、母はこれ以上話そうとはしなかった。溜息と共に吐き捨てるように呟かれるのは、諦めと謝罪だけ。
「貴方は私に似て育ったわね。何度ももがいて」
「あ、当たり前よ! 生きていてほしいもの! 目の前で死なれるのはもうたくさん!」
「ごめんなさい」
「お母様!」
諦めている。そして死を受け入れている。どうしても救えないというの。
考え直してと訴えようと身を乗り出した時、がくんと身体が揺れた。違う、馬車ごと傾いている。
「私が見たオリアーナの死ぬ未来、貴方が代わりに受けてくれる?」
「オリアーナは、死なせない…!」
「そう、なら一緒に逝きましょうか」
目の前で笑う母の身体が抉れる。落下の際に貫いてきた木々が母を襲ったからだ。
私も貫かれるのかと思った時、壊れていく馬車の車輪が私の目の前に飛び出して襲う枝から守ってくれた。
「オリアーナ……」
けれど落下の衝撃は凄惨なものだった。私はそこで意識を手放し、次に気づいた時はガラッシア家の客間だった。
「え?」
天井から見下ろす形で存在していると言う事は、私は死んだと言う事なの。混乱し泣き叫ぶクラーレと、黒く身体が染まった白い顔の母、そして大きな外傷が見られない私がいる。
死んだのかと思ったところで強い力に引っ張られて、私の視界はめまぐるしく変化した。落ち着いた先は見た事ない風景の街だった。
その中で光が見えた。
「こっちの世界?」
「そう、チアキの世界に転移してたわ。その時、ちょうど命の芽生えが見えたの。私はその光に吸い寄せられて、そのまま」
「で、私に変質したと」
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