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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。
102話 逆行、時を遡ってやり直す
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「おや?」
「どうしたの、チアキ」
妙に左手が温かいが特段魔法の副作用が起きてる様子でもないようだ。よしとして先に進むとしよう。
「ううん、大丈夫」
「そう」
「お姉様」
幼いオリアーナが母親と一緒に馬車に乗り込んでいく。早く来てねお姉様と言って名残惜しそうに馬車の窓からいつまでも顔を出して。
そんな顔も可愛いなんていうのは今になっては不謹慎な思いだろう。
「これが1番最初」
「オルネッラは?」
「私は父と共に商談があったから、後から行くつもりだったのよ」
屋敷で帳簿を確認してる時、メイド長さんが血相を変えて部屋に入ってきた。
その言葉に私も父親も言葉を失い、手にしていた書類を落とした。そのまま爵位のある者としては有り得ない所作の悪さで走り出す。
「そんな……」
客室用の部屋のベッドにそれぞれ二人が並んで横たわっていた。
顔色は白く、母は首元から胸元にかけて黒く染まっている。オリアーナは頭に包帯を巻かれ、それは黒くにじんでいた。
手遅れなのは目に見えてわかった。
「襲われたの?」
「そう。この辺は治安も良くて賊が出るなんて話はなかったのだけど」
道中賊に襲われ、そのまま馬車は渓谷へ転落。賊は二人を殺めただけで、二人の貞操とその時持参していた貴金属等には手だしされていなかった。
場所はオルネッラが死んだ場所とは違う。別荘へ行くいつもの道の途中の短い時間通る渓谷でそれが起きていた。
「チアキはわかってるわね?」
「うん」
「私はどうしても納得できなかった。母と妹を一度に失うなんて耐えられなかったのよ」
オルネッラだって当時は十代、一度に家族二人を失うことは相当なショックだろう。それでも悲観で終わらないのがさすがというところか。
「だから戻ったの?」
わかっているのね、と応えるオルネッラに、私は静かに頷いた。
ずっと考えていた。オルネッラが事故で死ぬにしてはあまりにも周到すぎた。しかも自分が死ぬことに対してはさして準備があったようには思えない、あくまでオリアーナを馬車に乗せないというところしか周到ではなかった。
想像できるのは、オルネッラがオリアーナが事故に遭う事を知っていたのではということ。それ故にオリアーナを事故に遭わせないようにしていたのではという考えに至った。最初は予知の類でもあったのかと思っていたけど、それは違う。
「そうよ。私はやり直しをしたの。三ヶ月前に逆行して、二人の死を回避するために」
「逆行ね……」
出来るなら楽しい逆行がよかったのにね。
「1番最初はだいぶ後手で見苦しいわよ」
「それでもその時の最善だったでしょ」
「勿論」
二人の死を目の当たりしてすぐ、恐るべき速さで行動にうつした。
父は嘆いて酒に浸っている。とても相談できる様子ではなった。
私とて散々泣いた。
納得できないこの事実をひっくり返すために、私は王都管理の図書館へ赴いた。なにかやれないかと。遺体は明日葬られる。その前にどうにかしないとと思っていた。
「そこで運よく見つけたのよ」
持ちだし禁止の書棚から、時を遡る魔法を。
そこにたどり着くまでに、異常ともとれる書籍の量を荒らし、治療という観点からでは難しいと判断、すぐに魂の再生といった分野へシフト。人自身の蘇生も考えたが、それは魂が肉体から離れる前の話だ。さすがに魂が見える魔法を使って確認しても、時間が経っているから可能性が低い。なら、この状況を引っ繰り返すものを探すしかなかった。
この取捨選択を続ける状況から、逆行魔法へ行き着くのはとても困難を極めたけれど、たどり着くのは自明の理とも言えたかもしれない。
「最初はどうやって持ち出したの?」
「強行突破したわ」
窓破って本を抱えて飛び出していった。なかなかのアクション劇で笑える。最終的に魔法まで飛び交って、見てるもののジャンルがもはや違う。
そうして逃亡の末、路地裏で彼女は逆行魔法を行使した。持ち出し禁止の上級魔法でも、それは適正に行使され、無事に三ヶ月前に戻る事となる。
「それからはただの繰り返し」
「セオリーだね」
「ええ、幾度の逆行に耐えられるなんて、逆行ものの主人公本当凄すぎよ」
「やっぱりそうだよね。リアルで逆行はきついよね」
「精神的にね。言葉に出来ないわ」
2回目、事故が避けられなかったから、あらかじめクラーレに頼み込んで複製してもらった件の本の人の蘇生を試みたけれど、これは何も起きなかった。事故が起きてガラッシア家に着くまでの時間ですでに手遅れで、蘇生魔法を行使しても意味がない。
すぐに時を遡った。
それでも、何度戻ってもオリアーナも母も死んでしまう。何度も好きな人たちの死を見届けるのは、そう耐えられるものではない。
「最初は二人を引き離せばいいかと思ってたのよ」
商談を母親の同席が必要なものに変更してみたり、オリアーナと王都へ買い物へ出掛けたり。
それも商談が早く終わるだのして母親とオリアーナが合流してしまうことが多かった。その末に二人が馬車に乗るとどこであろうと事故が起こる。オルネッラだけ助かるなんていうこともざらだった。
「何度も繰り返して、念入りに計画して、その内に二人を引き離すことはうまくいくようになったわ」
時には王陛下にお願いまでして長時間母親を王城へ父とともにその場へつなぎ止めたりし、オリアーナは自分の手元に目を離さず留め、二人を引き離してみたけど、一緒でなくても時間差はあれど二人は死ぬことになる。
「どうしたの、チアキ」
妙に左手が温かいが特段魔法の副作用が起きてる様子でもないようだ。よしとして先に進むとしよう。
「ううん、大丈夫」
「そう」
「お姉様」
幼いオリアーナが母親と一緒に馬車に乗り込んでいく。早く来てねお姉様と言って名残惜しそうに馬車の窓からいつまでも顔を出して。
そんな顔も可愛いなんていうのは今になっては不謹慎な思いだろう。
「これが1番最初」
「オルネッラは?」
「私は父と共に商談があったから、後から行くつもりだったのよ」
屋敷で帳簿を確認してる時、メイド長さんが血相を変えて部屋に入ってきた。
その言葉に私も父親も言葉を失い、手にしていた書類を落とした。そのまま爵位のある者としては有り得ない所作の悪さで走り出す。
「そんな……」
客室用の部屋のベッドにそれぞれ二人が並んで横たわっていた。
顔色は白く、母は首元から胸元にかけて黒く染まっている。オリアーナは頭に包帯を巻かれ、それは黒くにじんでいた。
手遅れなのは目に見えてわかった。
「襲われたの?」
「そう。この辺は治安も良くて賊が出るなんて話はなかったのだけど」
道中賊に襲われ、そのまま馬車は渓谷へ転落。賊は二人を殺めただけで、二人の貞操とその時持参していた貴金属等には手だしされていなかった。
場所はオルネッラが死んだ場所とは違う。別荘へ行くいつもの道の途中の短い時間通る渓谷でそれが起きていた。
「チアキはわかってるわね?」
「うん」
「私はどうしても納得できなかった。母と妹を一度に失うなんて耐えられなかったのよ」
オルネッラだって当時は十代、一度に家族二人を失うことは相当なショックだろう。それでも悲観で終わらないのがさすがというところか。
「だから戻ったの?」
わかっているのね、と応えるオルネッラに、私は静かに頷いた。
ずっと考えていた。オルネッラが事故で死ぬにしてはあまりにも周到すぎた。しかも自分が死ぬことに対してはさして準備があったようには思えない、あくまでオリアーナを馬車に乗せないというところしか周到ではなかった。
想像できるのは、オルネッラがオリアーナが事故に遭う事を知っていたのではということ。それ故にオリアーナを事故に遭わせないようにしていたのではという考えに至った。最初は予知の類でもあったのかと思っていたけど、それは違う。
「そうよ。私はやり直しをしたの。三ヶ月前に逆行して、二人の死を回避するために」
「逆行ね……」
出来るなら楽しい逆行がよかったのにね。
「1番最初はだいぶ後手で見苦しいわよ」
「それでもその時の最善だったでしょ」
「勿論」
二人の死を目の当たりしてすぐ、恐るべき速さで行動にうつした。
父は嘆いて酒に浸っている。とても相談できる様子ではなった。
私とて散々泣いた。
納得できないこの事実をひっくり返すために、私は王都管理の図書館へ赴いた。なにかやれないかと。遺体は明日葬られる。その前にどうにかしないとと思っていた。
「そこで運よく見つけたのよ」
持ちだし禁止の書棚から、時を遡る魔法を。
そこにたどり着くまでに、異常ともとれる書籍の量を荒らし、治療という観点からでは難しいと判断、すぐに魂の再生といった分野へシフト。人自身の蘇生も考えたが、それは魂が肉体から離れる前の話だ。さすがに魂が見える魔法を使って確認しても、時間が経っているから可能性が低い。なら、この状況を引っ繰り返すものを探すしかなかった。
この取捨選択を続ける状況から、逆行魔法へ行き着くのはとても困難を極めたけれど、たどり着くのは自明の理とも言えたかもしれない。
「最初はどうやって持ち出したの?」
「強行突破したわ」
窓破って本を抱えて飛び出していった。なかなかのアクション劇で笑える。最終的に魔法まで飛び交って、見てるもののジャンルがもはや違う。
そうして逃亡の末、路地裏で彼女は逆行魔法を行使した。持ち出し禁止の上級魔法でも、それは適正に行使され、無事に三ヶ月前に戻る事となる。
「それからはただの繰り返し」
「セオリーだね」
「ええ、幾度の逆行に耐えられるなんて、逆行ものの主人公本当凄すぎよ」
「やっぱりそうだよね。リアルで逆行はきついよね」
「精神的にね。言葉に出来ないわ」
2回目、事故が避けられなかったから、あらかじめクラーレに頼み込んで複製してもらった件の本の人の蘇生を試みたけれど、これは何も起きなかった。事故が起きてガラッシア家に着くまでの時間ですでに手遅れで、蘇生魔法を行使しても意味がない。
すぐに時を遡った。
それでも、何度戻ってもオリアーナも母も死んでしまう。何度も好きな人たちの死を見届けるのは、そう耐えられるものではない。
「最初は二人を引き離せばいいかと思ってたのよ」
商談を母親の同席が必要なものに変更してみたり、オリアーナと王都へ買い物へ出掛けたり。
それも商談が早く終わるだのして母親とオリアーナが合流してしまうことが多かった。その末に二人が馬車に乗るとどこであろうと事故が起こる。オルネッラだけ助かるなんていうこともざらだった。
「何度も繰り返して、念入りに計画して、その内に二人を引き離すことはうまくいくようになったわ」
時には王陛下にお願いまでして長時間母親を王城へ父とともにその場へつなぎ止めたりし、オリアーナは自分の手元に目を離さず留め、二人を引き離してみたけど、一緒でなくても時間差はあれど二人は死ぬことになる。
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