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2章 神よ、感謝します。けど、ちょっと違う叶ったけどちょっと違うんです。

95話 壁ドゥンは体験型じゃなく鑑賞型でお願いしたい

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「逃げるなよ……」
「壁ドゥン!」

違う、そうじゃない。
神よ、確かに私は壁ドンについて正しく語った。

「壁ドンとは暴力の為にあるものじゃない。ときめきと癒しの為にあるものだと」
「どうした、いきなり」

確かに愛のある壁ドンを見たいとは思ってた。
エステルとトットに頼んでやってもらって、それを眺めようと思ってすっかり忘れてしまっていたけど、その夢はまだ有効だったとは。

「確かに愛のあることに間違いはない。だけど、こうじゃない」
「だから何を言っている」

全部揃っている。
唯一違うこうじゃないというところは私が体験していること、ただ一つ。第三者目線をください。

「チアキ」
「ああおしい、おしいんだよ。壁ドンは横から見る方が断然にいいんだって!」
「だから、それは何だと」
「ええいほっといて!」
「え?!」

ぐいっと両手で襟元掴んで距離を詰め、それに驚いて力を抜けたとこを体重移動で反転してディエゴを壁に押さえつけた。
くしくも自棄になって起こしたことは逆ドン……前はお説教の為だったけど、今回のは不可抗力です。けど今の私は自棄っぱちだ。体験型じゃなく鑑賞型でお願いしたい!

「これが逆ドンだ!」
「は!?」

もうこの際だ、ディエゴで壁ドンを充分楽しむこととしよう。
顔を近づけると、思っていた以上に戸惑いが見られた。やはり壁ドンは驚かせることにも長けているから、こうして相手の動揺も誘えるわけだね。

「折角だから、顎クイでもしようか……あ」
「どうした」
「なんてこと」
「?」
「身長が足りない」

くいって上向かせるには、私が彼より背が高くないと出来ないじゃないか。逆ドンは成し得ても顎クイが難しいとは……肩ズンも高さが微妙。
成程、壁ドンを楽しむには条件が色々揃わないと駄目な事が良く分かった。少女漫画が凄いことも良く分かった。

「君は何がしたいんだ?」
「壁ドンって言ったら、ドンした後しおらしくなった相手を口説き落とすのがセオリーだよ。けど、ここにきて顎クイも肩ズンも出来ないんじゃ、何も意味がない。私では力不足だったとは……」
「そ、そこまで落ち込む事か?」
「私が出来る事と言えば、逆ドンに加えて足ドンでも追加するぐらいしか」

足上げてがっつん壁を蹴ってみたら、ディエゴがぎょっとした顔をした。大丈夫、オリアーナの美しい生足は晒していない。なのにディエゴったら急に怒り始めた。

「スカートで足を上げるな!」
「足ドンぐらいでしか役に立てないんだからいいじゃん!」
「そういう問題じゃない! はしたないだろう!」

お姑さん、こんにちは。
私の足を下げたいディエゴと足ドンで出来なかった動作の補填をしたい私とで絶妙な戦いを繰り広げる。スカート越しに掴まれ戻されそうになるのをこらえると、ディエゴが唸った。

「戻すんだ!」
「もう少々足ドンを御堪能下さい」
「何故そこにこだわる!」

ディエゴの事だから淑女に触れるの云々で安定の照れを見せていた。結構顔赤くなりやすいのが、私にとっては大変いいご褒美で、今日もうっすら赤くなっている。実にいい。

「ああくそ!」

ディエゴの手が足から離れる。
同時、私の両肩を掴んで、また反転。壁に背中を預ける形になった。
だから私は壁ドンを体験したいんじゃない。体験するならせめて、される側ではなくする側だ。

「大人しくしててくれ」
「無理なお願いですねえ」
「しおらしくならないのか」
「それとこれとは別」

私の言う事よく覚えてるし、よく理解してるな。私は壁ドンに驚きはするけど、ベクトルが全く違う。今の私では純粋に壁ドンされて、トゥンクなときめきは得られないだろう。癒しはあるとは思うけど。

「ディエゴが口説いてくれるの?」
「え?!」
「ふむ」

いい反応!
ありがとう、今まで散々告白してきた割に、身構えて何かするってなると急に尻込みしてしまうとか、どれだけテンプレートなの。そしてイレギュラーに弱いから、普段のクールさで隠す事も出来ないとは、なかなかどうしておいしいな。

「それ、は……」
「どやどや」
「…………君が好きだ」
「うむ!」
「これ以上は、そのうまい言葉を言えないというか、その」

可愛いなあ。ぐいぐい行けてたのはもはや勢いだったのか。口説くという形に変わった途端、どうしたらいいかわからなくなる感じがたまらんよ。

「前の方がきちんと口説けてたね」
「え?」
「社交界の時の私がどうとか、身内に甘いとかそんなことを語っていた時期がディエゴにもありました」
「それは、」

確かにそうなんだが、と言いつつも頑張って口説こうとはしているようで、少し待て喋るなと言われる。そもそも口説くというのは、というところから話した方がいいのか。

「……あれ」

ふと舞い降りたのは、好きな人が出来たら口説くんだよと、そう言った記憶だった。誰にだ。いや、待てさすがに私もここまでくれば分かって来る。

「ディエゴ」
「どうした」
「昔、オルネッラが好きな人出来たら口説くんだよって話、ディエゴにしてない?」

その言葉に彼は予想通り驚いてみせた。瞠目し、言葉を失う程度に。

「大きくなったら口説きにおいでって」
「口説くことの意味を知らなかった俺は、そのことをまま訊いて教えてもらったんだ」
「頑張るって返した?」
「ああ……」

ここまで来たら確定と言ってもいいだろう。今まで散々違う可能性を見てきたけど。
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