クールキャラなんて演じられない!

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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

67話 持ち出し禁止の複製本を読んでみる

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翌日、昨日の今日でオルネッラの事件に関する話がくるものだから、私は内心軽く驚くことになる。

「チアキ」
「トット、どうしたの神妙な顔して」

見ればエステルですら同じ顔だ。
講義が終わり、オリアーナのいる中庭に向かう途中、足取りを止められた。
何事かと思えば、二人の顔。
なんだ、この突然のシリアス感は……今そういう気分じゃない、というか真剣な面持ちの2人が非常にいい。
美しさに拍車がかかってる。

「随分前に話していた持ち出し禁止書籍の複製についてだ」
「……ああ!」

忘れてたよ。
いつも仕事の早いトットとエステルがまたどうしてこんな時間かかったというの。
どうやら幾重にも魔法をかける事で追跡をさせないようにし、かつ人を間に何人も介していた。
その内の何人かは関わった形跡を消されもしていたらしい。
なんだかそれだけきくと王都陰謀に基づくハイサスペンス劇みたいな流れだ、映画で見たい。

「内容は?」
「簡潔に言おう。ガラッシア家専属メディコのクラーレだ」
「クラーレ?」
「複製し、それを所持したのが彼よ」

彼が?
見たところ必要ですらなさそうなのに、何に使おうとしてた?
確かに彼に違和感は残っている。
王室専属メディコへ何も求めず、自身の中だけでオルネッラの治療方法について限界を決めている事。
実際脳へアプローチする魔法については使えないと嘆いていた事。
失敗したというトラウマもあるだろうし、こちらの価値観や概念が王室へ頼るものじゃないのかもしれないけど。

「理由は分からない」
「うん、それはかまわないよ」

直接聞くから。
と言っても、2人はまだ顔を強張らせている。
おかしいな、こういう時はいつも呆れ気味か心配そうな顔をするのに。

「けどチアキ、今回ばかりは危険だわ」
「どうして」
「オリアーナ譲の母君と姉君の件に関わってる可能性が高い」
「ああ」

つまり2人はあの事故は事件で、犯人はクラーレじゃないかと踏んでいるのか。
しかも王都側が動いていないと言う事は、核心的な物証はないと言う事だし、捜査中の可能性が高い。
安易に私に動くなと言いたいのかな。

「私、あの本全部読んでないんだよね…」
「決して人を亡き者にするような魔法はないのよ」
「それでも2人には引っかかるものがあるんでしょ?」
「ええ」

それはヒーローヒロインのスキルですか。
けど、オルネッラの件はだいぶ温めていた。
これ以上引き延ばすのもいかがなものかというところ。

「…物証が得られる可能性あるの?」
「今現在では難しい」

仕事の出来るトットが難しいっていう事は、複製の足取りを掴むのと同等の時間がかかるとみていいだろう。
残念ながら、私そこまで待てるほど気長くないんだよね。
果報は寝て待てと言うけど、訊きに行った方が早いよ。

「複製本を読み切ったら動くよ」
「わかった」
「チアキ、決して無理をしては駄目よ」
「大丈夫だよ、エステル」

なにせ私はまだ重力の影響を受けていないスーパーマン状態。
垂直飛びも順調に記録更新し、数か月前はお隣さんの魔法まで跳ね返したから余裕。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

「さてさてなかなか」
「今更になって何故その本を?」
「オルネッラを眠りから解放する時が来たのだよ」
「何か手掛かりが?」
「確定的なものではないけどね」

さてさて、最初は難しいと読めずにいた複製本も今ではきちんと読めるようになっていた。
この世界で地獄の淑女特訓に並行して魔法の修行もした甲斐があったな。
これも根気強く教え続けてくれたトット達のおかげだよ。
いまだノーコン晒すのは許してほしいところではあるけど。

「オリアーナが使ったのはこれか」
「…はい、そうですね」

魂の入れ替えに関する魔法。
入れ替えだけしか書いてないのに、オリアーナってば術式細かくして死んでいる人と次元が違う人という条件足したな。
やりおる。
やっぱりオリアーナ天才なんじゃないの。

「なかなか熱い魔法ばかりですな」
「燃やす魔法は記してなかったはずですが」
「あ、ちがう。気持ちが昂る的な意味の方」
「そうですか」

いや待って、この本もっと早く読むべきだった。
人同士の魂を入れ変える、魂を別の物へ移動させる、違う次元へ行ける、時間を遡る、人を甦らす……いやもうなにこれ。
熱い、内容が中二すぎて熱いぞ。

「てかもう禁忌じゃん」
「だから市場に出回らないのでは?」
「その通りだね、オリアーナ」

だからこそ熱いんだよ。
禁忌と呼ばれる魔法が存在することが、もはや存在として価値があるんだよ。
その魔法1つで1クールのアニメが出来上がるんだよ。
いいねえ、この世界は私にいつでも癒しをくれるじゃない。

「チアキ、顔が」
「おっと、緩んでいたかな」
「ええ、大変」
「ごめんね、オルネッラの事だからシリアスなところなのに」
「いいえ、かまいません」

慣れました、とオリアーナがさらっと言ってくる。
でもきちんとツッコミ入れてくれるオリアーナ好き。

「よし、じゃあやりますか」
「何を」
「クラーレに直接聞く」
「クラーレに?」

何故、この本を複製したのか。
何故、この本をこの家に置いたままにしたのか。
そして最後、オルネッラの事件にどう関与してるか。
話してくれるかは分からないけど、やるだけやってみよう。
教授の言葉もあるし、あの事故直後に治療に当たった時点で、どうあれ何かしら関わっているのは確定している。
あとはトットとエステルが懸念している事故を起こした犯人であるかどうかってだけだ。

「私も同席しても?」
「いいよー、楽しみにしてて」
「楽しみ…」

おっといけない、さすがに不謹慎か。
私にとって、新しい判断材料を得られれば、オリアーナのせいではないことを確実に証明できると思ってる。
オリアーナのせいでなければ、彼女はいまだ自分を責める事を完全に卒業できるのではないだろうか。
まあ以前言った事もあって、だいぶ改善されてはいるのだけど。

「チャンスは逃さない。トット達には悪いけど、先に進めよう」
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