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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

65話 タイトスケジュール

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「うーん、結構タイトなスケジュールだな…」
「嬢ちゃん、これこっちでいいか?」
「はい、そこでよしです」
「チアキ、少し休んだ方が…」

隣のオリアーナが心配している。
それもそうだろう。今の私のスケジュールは学園もしくは仕事及び仕事の3点ですなノリだ。
いや、新規事業立ち上げでこの程度ならマシだと思いたい。

「にしても本当に雇いに来るとは思わなかったな」

盛大に笑いながら地盤造成を終え骨組み形成を乗り越え外壁屋根の検査を終え仕上げに勤しんでる屈強な男性陣。
叔父が仕掛けた件のならず者達はまだ国内にいたので、探し出しては片っ端から声をかけた。
一部怯える者もいたけど、今では友好関係を築けている。

もちろん、彼らの雇用も含め叔父にも話を付けに行った。
叔父ときたら私を見て震え上がっていたけど、父親の根気強いアプローチと件の提案が功を奏し、なんとか了承にこぎつけた。

どちらも契約の折、やらかした場合のペナルティが明記してあるから、そこが抑止力にもなるだろう。
そもそも何かあれば私がボコボコにするのだから問題ない。
後は王陛下のお墨付きもあるし、ネウトラーレ候爵夫人の後押しもあるので、商談も早くに決まって行き物事がスムーズだ。
後援が強いと相手側の対応のよさといったら…イージーゲームにも程がある。

「ここで試しに一号店を作って次は王都、郊外にも数店舗で…ええと」
「嬢ちゃん、水場なんだがどうだ?」
「はいはい、大丈夫です。内装ですが、こちらは女性用なので……」

今は領地内に温泉施設付きヨガスタジオの建設に乗り出した。
試しとは言いつつも、学園の生徒用でもある。
ここで安全に建築することを改めて学んでもらい、技術を身につけ、二号店三号店へ展開。

「明日最後の査定ですね」
「てか嬢ちゃん、家造り詳しいな。俺らの中でもその筋に詳しい奴らを集めたんだが」
「建築関係はからきしですよ。エスタジのおかげですね」

実家の建て直しの時のことを考慮したにすぎない。
なにより建築関係はエスタジ嬢の家が担っていた。
本人は無骨な印象からか、あまり大きく出したくないらしいが、今回エスタジ嬢のとこで管轄と研修を行うことでだいぶ変わった。
嫌がるところを何度か現場へ連れてくれば、きちんと家業のことを身につけているのか安全かつ効率のいい建築方法、安価な材料の仕入れ等多方面でお世話になった。
業務提携して彼女の家の名をいれることで、今後はさらにあちらの家の仕事が増えるだろう。

「そうそう、コンパッシーオネ伯爵家や王陛下等関わる全ての人から了承を得たんですが」
「なんだ?」
「これ」
「……おい、待て」

これはと驚きを隠せない旧ならず者、現棟梁は渡した上質な紙の内容を見て驚愕の表情だ。
説明しよう。

「運動用施設とそれに伴うリフレッシュ施設の建築の技術権利と国内外移動できる王族認め手形…これがあれば利権は君の手に!」
「いやどういうことだ」
「うん、真面目な返しですね…」
「チアキの求める返しは難しいかと」

そうだね、オリアーナ。
渡したのは、ようは建築士免許とパスポートだ。
これがあることで、彼らは割と自由に建築に乗り出せる。
今後、さすがに地方まで頻繁に巡回は出来ないから現場に任せるしかない。
そうなると勝手に出来る資格と公認の印が必要だった。
だから免許と手形を持たせることに対して了承を得たというわけで…まあなかなか皆いい顔しなかったけど。
これがあれば、その土地の事前周知から建築まで任せられることに加え、模倣してやらかして利益を得ようとする不届き者への牽制にもなる。

「嬢ちゃんの意向は分かるが、俺らみたいなのにそんな権限与えて、俺らがまた何かしでかしたらとか考えないのかよ」
「やらかせると思ってるんですか?」
「いやそうじゃねえけど」
「…まあ今のは冗談として」
「え、冗談?」

確かに関係者を納得させるのは一苦労だった。
貴族王族の偏見たるや、なかなか払拭できるものじゃない。
けどこれからのことを考えるなら、手に職があった方がいい。
お金を手っ取り早く稼ぎたくて私を捕らえようとしたなら、お金があればそういう手段に及ばないという考えもできる。
できることは今は建築だけ、それでも国内外で同じものを造り続けるとなれば、それなりの年数がかかるし、かなり稼げるのではないだろうか。
その長い年数の間で発展させるか衰退させるかは本人次第だ。
商才があることを祈ろう。

「信頼してるよ」
「そんな簡単に済むことかよ」
「んー、それは貴方が決めることだからね」
「はあ?」

さておき、渡すものを渡し終えれば、見えるところにお隣りのご夫婦が連れ添って歩いていた。
棟梁に一言伝え、その場を離れ夫婦の元へ。
あれから時間をかけて徐々に改善しつつある、二つの病気。

「ああ、ガラッシア公爵令嬢」
「こんにちは、ウォーキングですか?」

頷く二人。
食事改善が効いたのか痛風による痛みは緩和し、外を歩けるに至った。
建物が一棟出来上がるまでに、ここまで回復できるなら上出来だろう。
このウォーキングのおかげか、夫婦できちんと話すようになったのか、最近夫人も顔つきが柔らかくなった。
当然、こちらの領地にゴミ投棄はない。

「もうすぐ出来そうだな」
「そうですね。是非ストレッチしに来て下さい」
「ああ」
「温泉もぜひもどうぞ」
「楽しみにしているよ」

温泉の効能もなかなか侮れないから、ぜひ試してほしい。
運動関係なく温泉施設は常時解放の予定だから気軽に楽しんでもらえるはずだ。
ご主人の容態を軽くききとり、クラーレからの言葉を確認する限り、引き続き生活改善を行いつつ経過観察で問題なさそうだ。

「あの」
「はい?」

去り際、主人を遠くに夫人だけが私の元へ戻ってきた。
殊勝な顔をして、自分が恵まれていることに気づいたけどまだ時間がかかりそうだと訴える。

「向き合えてるなら大丈夫ですよ」
「そう、かしら」
「引き続きやってみてください」

やっと他人に話せるまでになってきたか。
まだまだ先は長そうだけど、地道にやってもらえば投棄なんて行動に出ることもないだろう。

「チアキは本当にすごいですね」
「何が?」
「…ここ最近で私の周囲は変わりました」
「オリアーナの見る視点が変わったんだよ」
「そうでしょうか」
「うん、良い側面を見るようになったよ」

言葉の通りだ。
私にやらかしたことに対して相応を返したこともあったけど、過去受けて今も心内に引っかかってたものについては、オリアーナ自身でどうにかしている。
これは素晴らしい。
後は彼女に生きたいと言ってもらうだけだ。
そして私もイケボで生きろと応えてみせるよ。
顔がどうこう言われそうだけど。
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