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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

47話 2度目の社交界、やっぱり我慢出来ない

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捻られた身体の向きを整えて、体は階段下へ向かい合う形に持ってこれた。
左足だけ先行して着地するけど、踏ん張って留まれない。
しょうがない。
さらに踏み込んで飛んだ。

「よっと」

おお、この前の垂直飛びを超えたぽいぞ。
すごい跳躍だ。
あれだ、所属から独立した監督の最初の作品のキャラがこんな風に飛んでたな。

「…チアキ!」

エステルの声遠く。
幸い階段を登る人は数えるだけ。
その人たちの頭上を余裕で飛び越える。
そのまま一回転して軽やかな着地。

「10.0とれるわ」

新基準はよくわからないから、旧式満点点数で。

「チアキ!」

焦り階段をおりてくるエステル、心配顔可愛い。
ざわつく会場内だけど、人が少ないのが幸いした。
この事故に巻き込まれた者はいない。

「エステル、私は無事」
「よかった…!今サルヴァトーレが」
「ああ、もう済んだ」
「早っ」

トットが余裕の体で現れる。

「ありがとう、トット」
「爵位のない者がふりをして紛れ込んだらしい。警備を強化する指示を出した」
「おお」

今日は重役が来るという点で爵位のあること、王室関係の役職があるのが参加の条件。
よってそれ以外の市民の皆さんは参加できない。

「焦ってるねえ」
「チアキ?」
「トット」
「わかっている。依頼主がわかり次第情報がくる予定だ」
「さすが」

さて序盤から飛ばしてくれる。

「行こうか」
「え、ええ」
「念のため離れないように」
「OK」

私に仕掛けるなら、それ相応で返してくれるわ。

「チアキ、抑えてね」
「ハハ、ガンバリマース!」
「棒読みだな」

二人して溜息お疲れ様です。

* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

会場内は程なくして人で溢れ、先程の珍事はなかったことにされた。
トットの対応も早かった。
そして出入口付近の警備の強化具合ときたら…庭に出れる窓付近にも増えている。
さすがに二度も見知らぬ人物を使わないだろう。
そしてあっさり誰の依頼か暴露してくれたおかげで、私の脳内はどうせめていくかで一杯だ。

「ステッラベッラ!サルヴァトーレ!」
「総司令殿」
「ご無沙汰しております」

先日の社交界と違いトットとエステルへ話しかける人たちがフランクだ。
その割に役職がえぐい。
総司令がいきなり登場なの。

「して、君は…」
「お初にお目にかかります、総司令殿。私、オリアーナ・テゾーロ・ガラッシアと申します」
「ああ、ガラッシア公爵家のお嬢さんか!父上には昔世話になってな」
「あら、そうでしたか。父が…」

ここの偉い人たちはオリアーナのことを穿った目で見てこない。
噂は耳にしてるはずだ。
それなのにここまで丁寧に対応してくれていること、そして私の一挙一動言葉一つをよく見て聴いている様子から察するに、自分の目と耳を信じるタイプが多いとみた。
総司令の次は海上保安の副司令までやって来た。

「おお、あのオリアーナ嬢が今やこのように美しくなられているとは!覚えているか?私がまだまだ下っ端の頃にガラッシア公爵家の流通ルートを担当したのが始まりだったんだが、」
「あらあらそれはそれは」

要人が次から次へとやってくる。
トットとエステルの人脈が中央にあるからこそ集まって来るのだろうけど、ガラッシア家が意外と絡んでいて面白い。
そういえば懇意にしてる人たちリストの終わり際に、かつて関わりのあった人たちリストに国境警備総司令も海上保安副司令も名があったはず。
後日オリアーナと父親に詳しいエピソード聴いておいた方がいいな。

「ん?」

またしても腕を掴まれ後ろに引かれる。
後ろどころか力付くで連れていかれた。

「…またか」
「チアキ…?」

仕方ない、あえて連れていかれようじゃないか。
二人から離され、人が多いのもあって二人がすぐに見えなくなった。

「強引ではありませんか?」

顔を向けその人物に声をかける。

「何故お前が総司令殿と…」

険しい顔つきの叔父が私の腕を離さない。
熱狂的ですこと。

「叔父様、離して頂けます?」
「総司令に取り入ってどういうつもりだ」
「昔、父に世話になったそうです」

そんなわけあるかと言って掴む力が強くなる。

「どういうことかときいている」
「痛いですわ、叔父様」

本当は痛くないけどね、力が強いことはわかる。
いくら重力差があるとはいえ、痛覚まで鈍るのだろうか。
身体はオリアーナだし、影響が心配だな。

「私を貶めようとしているな?」
「は?」
「また私を騙し陥れようとしているな」
「誤解です。騙すなどあり得ません」

叔父は何を焦っているのか、怒り心頭といった具合に顔をやや赤くしている。

「嘘を吐くな!」
「嘘など、」
「何が望みだ?!こちらの財産か?海上を掌握し流通権を奪う事か?!」
「そんなこと、考えた事もありませんよ」
「私から利を奪おうとしている癖に何を言っている!」
「はあ?」

被害妄想も大概にしてほしい。
もちろん周囲に聞かせたいのもあっての言葉でもあるだろうが、いつオリアーナがこいつの資産を奪おうとしたというのか。
そして今回の会話については、さして周りは聞いていない。
人が多い場所を離れたのもあるかもしれないが。

「私から何もかも奪う気か!」
「そんなことは、」
「お前が表に出てくるようになってから、こっちは不幸続きだ!」
「はい?」

この叔父、奪われるという意識に捕らわれすぎている事を考えると、やや心が疲弊しているのかもしれないが、さすがにこの言い様ではこちらも苛立ってくる。
我慢…我慢できる、の?ちょっときつい。

「自分の利ばかり求めて、そのうち身を滅ぼすぞ」
「滅ぼす、ねえ」
「いい加減ふざけるなよ、この犯罪者め」
「それはこっちの台詞だ、大馬鹿者」
「え」

やっぱり無理。
掴みかかられていた手を力付くで離して、叔父の腕を背負う形で掴み抱えあげ、自分の足に魔法をかけた。
人に見えない速さで合間を縫って会場を走り抜け、三段跳びで2階のバルコニーへ到着、その勢いのまま一本背負いだ。
もう私は今日のうちで二つぐらい金メダルとれてる。
まさに1本。

「っ!」

受け身も取れずに背負い投げをくらったのだから痛いだろう。
けど女性に力づくで掴みかかるのは頂けない。
そして今このバルコニーには私と叔父しかいないと。

「―」
「!」
「大丈夫ですよ、一時いっときだけ魔法を使えなくしただけですから」
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