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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

36話 商談の妨害 ときめかない相手を吹っ飛ばす

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「オリアーナ」
「はい」

休日、ついに父親と商談にいくことになった。
身体の調子はともかく内面の調子は聞き取りの範囲内では行ってもいいだろうという個人的な判断だ。

馬車には私と父親とオリアーナ。
犬を連れるということで珍しがっていたが、オリアーナが幼少期から可愛がっていた犬というだけあり了承をもらえた。
この父親のこういうところは大歓迎だ。

「これが王都…」
「タヴォラロトンダです」

意外と近かったな。
王都エリア内に入る関所は、ほぼないと言っても過言ではないぐらい緩く顔パスに近かった。
これがガラッシア家の力。
広い領地を持ってるだけじゃない。

「お父様」
「どうした」
「少し街を歩きたいのですが」
「ああ、時間もあるようだし構わないぞ」

父に了承をもらい共に馬車を下りる。
馬車は先に卸し先に向かわせ、私達は卸し先へ向かう道中を歩くことにした。

「おお…」
「お前も年頃だ。欲しいものがあれば買うといい」
「はい、お父様」

海外とファンタジーが融合している。
ゲーム背景そのままの世界が広がっていた。
小さな店が並ぶ商店通りにおりたからか、人通りも多く活気がある。

「市場調査といくか」
「そのために馬車をおりたのですか?」
「違うけど、流行りは把握しとくに限るね」

単純に街並みを楽しみたいだけという理由でおりたけど、ここは多方面から楽しむとしようじゃないか。

「ガラッシア公爵!お久しぶりです!」
「ああ」

街を歩き出した途端、父親に多くの人が話しかけてくる。
10年程も外に出てなかったのを考えれば、珍しがられるのも当然だが、その人々の様子を見る限り、純粋にこの父親が支持されているようにも感じた。
明らかな営業というよりも友人のように親しいような。

「しばらく顔を出せなくてすまなかったな」
「いいえ、滅相もない!おかげさまでこの通りは随分活気づきました」
「安定したようでよかった」
「ええ、ありがとうございます!」

この通りに対して、なにがしかの援助でもしたのだろうか。
元々流通を主として事業を展開しているなら、自身の契約先以外にも手広くやっている可能性もあるだろう。

「私も詳しくは知りませんが、この通りが活気ある商店通りになったのは父の力があったからだと」
「ふむ」
「私が事業に従事するようになった時は通りとして始まったばかりでした」

10年かけて人が通るようになったのか。
なかなか腕がいいな、この父親。

「おや」

一人一人対応する父親の様子を眺めながら進むと人通りも増していく。

「ん?」
「チアキ?」

急に手を引かれる。
父親ではない。父親はどんどん離れていく。
そして混雑の中では私の手を引く人の姿が見えない。

「んんー?」
「チアキ、どうかしました?!」

引き離され、通りの隙間にある細い道へ連れられ路地裏へ連れていかれた。
手を引くのは小さな子供。
もちろん面識のない子供だ。

「チアキ!?」

あいてる手をあげてオリアーナに伝える。
路地裏の先に集まる小汚い集団を見てなんとなく悟った。

「……つれてきたよ」
「ああ、よくやった」

子供の手が離れ、集団のリーダー格の男が子供に何かを渡した。
同時男たちの中からさらに小さな子供が顔を出す。
手を取り合い安心したようにこの場を足早に去っていった。

「ううむ、いかにもありきたりすぎ」
「チアキ…そんな悠長な事を言ってる場合ではないでしょう」
「なんだ、思ったより落ち着いてんな」

一昔前の少年誌じゃない…いやこの場合一昔前のヒストリカル系かな?
ロマンス小説にもありそうだ。

「嬢ちゃんには悪いが、しばらく俺達といてもらう」
「今日は商談があるので無理ですね」
「残念だが、これも俺達の仕事だ」

見た目がこの国の人とは異なり、言葉に独特の訛が見受けられるところを考えると国外の人間かな。
そもそも王都に死角になるような場所があるっていうのもどうなのか。
これは1つトットに進言しておこう。

「子供を使ってするのが仕事ねえ」
「使えるものを使って何が悪いんだ」
「もの扱いするのもいかがなものですよ。ロリとショタの扱いがそもそも間違ってるし。子供は宝であり癒し、犯罪に加担させるのではなく、存在してるだけで癒されるという見せ方が鉄板でしょうが。それに手前で受けた仕事なら手前で全てこなしてみせたらどうなの」
「…なんだ、話と違って随分元気じゃないか」

言ってる事はよく分からないがと付け加えられる。
ロリとショタについては、この人たちとは分かりあえないらしい。
ゆらりと立ち上がり、数人の内1人が前に出て私に近づいてきた。
イケメンじゃないと、なんでこんなにも心が潤わないのか。
がっかりだ。

「チアキ、早くこの場から離れないと」
「いいや、オリアーナ。この人たちは私に用があるんだから、離れようとしたところで手荒になるだけだよ」
「何をブツブツ言ってる?」
「私ですか?それとも父ですか?」

その言葉だけで相手に伝わるあたり、私の予想通り過ぎて笑えてくる。

「分かってるのか」
「そのままお返ししますよ」

私の薄ら笑いが目の前の相手にとって些か癪に障ったらしい。

「お前自分の立場わかってんのか?」
「商談を破綻させたいから、父と私をその場に行かせたくない。ので、まずは引き離すところから、ではなく?」
「なら、その態度は何なんだよ?!」
「煽りです」
「は?!」
「煽っているだけです」

私の名を呼ぶオリアーナの声がした。
相手が掴みかかってこようと片手が伸びてくる。
確実に動きが見えるということは重力差はまだ健在だな。
片手で相手の手の軌道をずらして懐に入る。
後ろ数人には見えていない。
よし。

「きゃー!やめてください!」

なかなかの演技ではなかろうか。
そしてそのままただ思いきり胸を押すだけ。
そう押すだけだ。

「え?」

何もときめかない相手は素晴らしい速さで吹っ飛んで、廃材置き場と思わしき場所につっこんでいった。

「な、んだ?」
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