クールキャラなんて演じられない!

文字の大きさ
上 下
33 / 164
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

33話 クールキャラを演じられるようになるまで、まだ先は長い

しおりを挟む
「ガラッシア公爵令嬢」
「ああ、教授」

以前絡んできた嫌み教授に声をかけられる。
相変わらず私に絡むのが好きらしい。
次はなんですか…あれか、もしかしてこの人、クールツンなの?
オリアーナのこと好きなの?好きな人にはついツンしちゃう的な?

「貴方が図々しくも社交の場に顔を出した挙げ句、またしても品位に欠ける行為をしたと学園で話が広まっていますが」
「確かに社交の場には行きました」
「何故」
「社交の場には誰でも出られるのでは?」

招待制の限定的なものではなく、広く誰でも来られるものだったから、そこに顔を出したのだが、それすらもこの教授からしたら快いものではないらしい。
品位にはかけていたとしても、参加の有無を制限される覚えはない。

「貴方は自身にその資格があるとお思いで?」
「はい」
「最近の貴方は本当に立場をわきまえていないようですね」

なんだろう、この人もエスタジ嬢共々絡んでくるな…しかもこちらの場合、明らかにオリアーナを下に見ている。
教授と生徒という立場であっても、そこは人としてどうかと思う。

「貴方はオリアーナは社交の場に出るべきでもなく、大人しく黙っていろと仰ってるわけで?」
「以前のようにきちんと自らを振り返り、自身を戒めるべきではあるでしょう」

オリアーナ何をしたのと思った時もあったけど今は違う。
私の知る限り彼女は何もしていないし、何かをするような人物ではない。

「何故でしょう?オリアーナは何か罪を?」
「自身の母と姉の事を鑑みれば当然ではありませんか」
「オリアーナは母を殺したわけでもないし、故意に姉を眠らせ続けてるわけでもないのですが」
「似たようなものです」

何故あの事故をオリアーナのせいにするのか。
この世界の人々はあの事故をオリアーナのせいにしようとしている。
周りから言われ続ければ真面目なオリアーナのこと、自分のせいだと思い込むだろう。
事実彼女は自分を責めているところが見受けられる。
それに論点の根本を追求するなら、他人にそこまで責められるいわれはない。

「教授。お言葉ですが、オリアーナ嬢のご家族の件は不幸な事故であったはずでは」

トットが加勢してくれた。
イケメン格好いい…こんなタイミングで助けられたらそのへんの女性陣は沈むよ、君というときめきの沼に。
彼に続いてエステルも言葉を続けてくれた。

「その通りです、教授。何故オリアーナに罪が?」
「……どうしたのです。貴方方は今までガラッシア公爵令嬢と縁がなかったはずでは」

話を逸らしたということは事実は事故であるということか。
何をもってオリアーナのせいにしたいのか。

「今までオリアーナ嬢とは関わる機会がありませんでしたが、ここ最近きっかけがありまして」
「しかし、貴方方の身分でこのような者と関わるなど、貴方方の立場にも影響します。若いからという理由でおさまることではありません」
「教授、それは」
「二人とも大丈夫」

二人を制す。
そして教授を見上げた。
端々に見える気まずい様子は嘘がばれるかと怯えているからか。
オリアーナのせいにして、オリアーナが一人抱え込めば安全地帯にいられる何かが、あの事故にあるのだろう。

「教授、貴方にとってオリアーナはただの生徒でどうなろうとかまわない存在ですか」
「何を急に」
「オリアーナにとって貴方は教授の内の一人ではないんですよ。少なくとも影響を受ける程度の存在ではあるんです」
「え?」
「学生にとって学園は生活のほとんどを占める重要な場所、そこにいる教授の影響力を考えたことがありますか?」
「……それは」
「簡単に言いましょう。オリアーナは使い捨ての生徒じゃない。見下すのも押し付けるのも大概にしなさい」
「……」

顔色を変えたということは分かってて今までやっていたか。
まったく、ちょっとした反論で顔色を変えるなんて、叔父といい小物が多いな。
まあ人目もあるし、今日はこのぐらいにしておこう。
今後の出方次第だ。

行こうと二人を連れ添いその場を去る。
と、そこには顔色を悪くしたエドアルドがいた。
おっふ、まずいところを見られた。

「お、オリアーナ…?」
「エドアルド…」

小さな囁きでオリアーナじゃないと聞こえたけど、そこはもう無視するしかない。
話題を変えるか、言い訳をするか。
そう、ハニーフェイスは顔色変えても可愛いなとか思ってる場合じゃないんだ。
エドアルドは一際、オリアーナと私の違いに敏感なようだから殊更気を付けなきゃいけない相手なのに、どうにもこうにも彼の新しい表情に対する新鮮さの方が勝ってしまう…可愛いはどこまでも可愛い。
気合を見せるところだ。
煩悩を制御する術は淑女教育で多少なりとも身に付いて来ているはず、頑張れ私。

「エドアルド、その」
「事故の事を話していたの?」
「え、ええ」

彼が次に口を開く前に私は大丈夫ですよと早口に伝え、さっさと去ることにした。
最初の言葉が事故の事についての振りでよかった…オリアーナじゃないという手の話はオリアーナのためにも広がらない方がいい。

「あ、危なかった…」
「いえ、手遅れに近いのでは?」
「言わないでエステル」
「言葉遣いはまだまともだったが」
「フォローありがとう、トット…」

クールキャラを演じられるようになるまで、まだ先は長い。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜

梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。 そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。 実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。 悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。 しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。 そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...