クールキャラなんて演じられない!

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1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。

28話 ツンデレの告白イベント(練習) 1

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「お嬢様…お客様が」
「ん?今日お約束がなかったはず、ですが」
「ディエゴ・ルチェ・ソラーレ様でございます」
「ディエゴかーい」

社交界の翌日、学園は休みだ。
朝のジョギングを済ませて、事業の収支やら進捗状況の細かいチェックを行う。
最近は父も参加するようになり、よりこの家の事業について知る事が増えてきた。
父は相変わらず鈍足ではあるが、食事改善や運動療法に慣れつつある…いい傾向だ。
そんな祝日朝のルーチンをこなし、やっと一息、紅茶を飲みつつまったりしてるところに現れた訪問者がディエゴとは。

「チアキ、私も一緒に」
「OK」

事情は前に話して了承は得ているけど、やはり自分を嫌っている人物を大切な姉に会わせるのは心配かな。
オリアーナからすれば、疑わしい人物を家に入れた事になるし。

支度をささっとすませて、階下へ迎えに行くと、ディエゴが社交界程ではないにしろ、フォーマルな服装で待ち構えていた。
花束手にもってるものだから、なんだこれはイベントがきたのか?という見た目だ…ごちそうさまです。

「ディエゴ」
「…急に…すまない」

いきなりデレ?!デレなの?!
口元を抑えて緩む顔を直す。
雰囲気を察してか少しむっとして、それでも私の後ろにメイドのアンナさんが控えてるのを見て咳ばらいを一つ。
すっとツン状態から冷静さを取り戻した彼は平坦に用件を述べた。

「貴方の姉、オルネッラ嬢への面会を許可してほしい」
「…っ…どうぞ…」

喜んでー!
見た目オリアーナじゃなきゃそう叫んでいたわ。
ディエゴは私の応えに少し驚いてるようだったけど…そもそも私が誘い勧めてきた事だから歓迎するのは当然で驚かれることでもない。

アンナさんには私が案内することを伝え下がらせる。
二人屋敷内を歩きながら、私の中ではフィーバータイムがやってきた。

「…ふふ」

告白イベントが目の前で見られる…!
イケメンのツンデレが、眠ってるとはいえ美しい金髪の女性に告白だ。
見た目お伽話なのでは?想像しただけでもう最高。
これは録画だ動画録画。
機械ないから私の脳内保管だけど。

「チアキ、顔が緩んでいます」
「…っ」

おっと、いけない。
私の思考がオリアーナに筒抜けになってる。
呆れたような視線をよこして私の隣を歩くオリアーナに、後ろを見やればアンナさんがいなくなりいつも通りのツンデレに戻るディエゴ。
家の前でもじもじしたこともあったけど、なんだかんだ来る勇気がある人物で良かった。

「やっと来たね」
「……気が向いただけだ」
「…っ」

典型的な回答をありがとう。
出来れば、会いに来たんじゃないんだからねっと言ってほしいが、これでも充分いいツンだ。
目線を逸らしてぶっきらぼうに…お手本のよう。
さすが古きよき乙女ゲーム、古典的なツンデレに慣れている。

「有言実行出来るのって凄い事だよ」
「ゆう?」
「言葉にしたことをきちんとやるって意味」
「そうか………最近は本当おかしな言動が多いな」
「え、そ、そう?そんなこと、ないかと、」

うっかり軽い調子で話していた挙句、こちらの言葉が出てしまっていた…いけないけない。
気を引き締めてオルネッラの部屋に入り、花束をもらって花瓶にいける。
さすがいいとこの坊ちゃんはきちんと花束持ってきてえらいな。
しかも女子受けしそうな可愛い花々、色が統一されてるのを見ると、これがオルネッラの好きな色なのだろうか。
部屋の中がシンプルすぎて彼女の嗜好する色がわかりにくいな…答えは後でオリアーナにでもきこう。

「…変わらない」
「?」

考えてると、オルネッラを見下ろしながら、今まで見た事ない瞳をしてぽつりと彼が呟いた。
これだ、これ。
相手を想ってちょっと感傷的になってる感じ。
素晴らしい。

「最後に会ってから変わらない姿だと思ってな…」

彼の言葉に私も視線をさげる。
前は見ることがかなわなかったオルネッラの顔立ちをここにきてよく見ることができた。

この2ヶ月、魔法のコントロール力を鑑みてオルネッラにかける魔法をメディコのクラーレにお願いしていた。
その時も立ち会いはしたけど、近くに行かなかったのもあり、私にとってこれが事実上、はっきり初めてのお目通りということになる。

「チアキ、姉にかけている治癒の魔法には肉体の時を止める効果も付随しています」
「!?」

なんだその複雑そうなのは。
待て、時を止めているということは、10年老いていない…今のオリアーナと同じ年齢ということ?
確かに目が覚めれば10年前のオルネッラなのだから、肉体だけ時が進んでいても、中身と外見が相違する。
加え、そのまま時を止めているなら、筋肉が衰えて目覚めた後リハビリが必要になる事もなくなるのでは…後で複製本をよく読んでみよう。

「お花ありがとうございます」
「いや」

花瓶に活けた花をオルネッラの枕元のサイドテーブルに置く。
ひらりと花びらが1つ落ちてオルネッラの頬にとまった。
うわ、花びら添えるだけで美人度増すわ。
花びらを回収しようと手を伸ばし、ほんの少し指先が彼女に触れた。
その時。

「………っ」
「?」

真っ暗だ真っ暗。停電か何かで?

「……?……!」
「?」

音が遠い。暗い中、視界がぼんやりしている。

「………い、」
「?」
「…おい!どうした!?」
「……わあイケメェン」

急なブラックアウト。
そんなの初めての経験だったし、イケメンがこんな至近距離にあるのも初めての経験だった。
もうどっちに驚けばいいのやら。
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