20 / 164
1章 推しがデレを見せるまで。もしくは、推しが生きようと思えるまで。
20話 アル中の父親にジャージをプレゼント
しおりを挟む
さて。
食後の紅茶として早速頂いてるわけですが、あの酔っ払い父親が来ることはなかった。
「お嬢様、旦那様は…」
気まずそうに伝えてくる執事長さんに、大丈夫ですと軽く伝える。
そんなすぐには来ないだろう。
颯爽と自分アル中治します!と言ってやって来たら、そもそも10年も酒浸りするはずがない。
ここは忍耐。時間をかけるに限る。
「明日もこちらで食事をとります」
「畏まりました」
「今日も美味しかったです」
オリアーナと共に部屋を出ようとすると声がかかった。
メイド長さんだ。
躊躇った後、父親の容体について話してくれた。
曰く、私の平手打ちが効いたのか落ち込み方が少し違うと。
自棄にはなっていない、どうしたらいいかわからないけれど、私の言う通りだと思うところもあると感じているらしい。
長年の付き合いからか、メイド長さんには心内を伝えられるよう。
「それなら父に伝えて下さい。オリアーナは待っていると。どうしたらいいかは皆で考えればよいと」
「…畏まりました」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
そこから3日。
ひっそり淑女マナーやら魔法の基礎やらを学園でエステルたちから学び、授業はノーコンを晒しエドアルドに心配されつつディエゴに睨まれつつ、ジョギングをオリアーナとともに習慣づけて、帳簿10年分を制覇し、夕餉で酔っ払いを待ち続けてのこの3日。
父親が夕餉の時間に現れた。
早い、すごい成果だ。
きっとメイド長さんやら執事長さんやらも協力してくれたのだろう。
なにより本人の意識がそこまであがってきたのが素晴らしい。
このタイプなら、案外早いかもしれないぞ。
「お父様、お越し頂き大変嬉しく思います」
「……ああ」
食事を共にとる。
傍のオリアーナは少し落ち着きがない。
2人を見ればオリアーナも父親も食があまり進んでいないがそこは織り込みずみだ。
すると父がナイフとフォークを置いてこちらを見た。
「…オリアーナ」
「はい」
「………その、すまなかった」
頭を下げて謝る父。
色々言い訳していたが、やはりきっかけは妻が亡くなったことだった。
そこを理解してるようなら認知の一歩は踏み出せている。
「ただ、どうしたらいいのかわからなく…」
「そうしましたら、明日から早速お父様とやりたいことがあります」
「なんだ?」
「これを」
アンナさんに頼み持ってきてもらったのはジャージの上下セットだ。
最初に頼んだ時に男女分頼んでいてよかった。
ランニングウェアももう少しすれば届くし、なかなかいいタイミングで物事が運んでいる。
「朝は起きづらいと思いますので、来る事が可能であればで結構です」
「え?」
「運動療法、食事療法、認知療法全部やります。明日メディコに来てもらうのでそこでまた話しましょう」
「りょうほ、え?いや、しかし、」
今まで朝が起きられない、夜眠れないし、10年前を鮮明に思い出すから酒に頼るしかない、そうすると酒をやめられない、酒の飲みすぎで悪くなっているのは分かっていたし、何度もやめようとしたが、少しでも酒が抜けると手が奮え、汗が止まらなくなり、日によっては吐いてしまったり、脈がおかしくなる等などと諸症状を勝手に話してくれる。
それは全部、早期離脱症状。
典型的なアルコール依存症だな。
「急に酒を飲まない、つまるとこ断酒をするというのは難しいですよ」
「え…」
「まずは減酒からです。少しずつ減らしていく事に慣れていきましょう。その後に見えてくるのが断酒です。もちろんメディコに明日相談しますが」
「そ、そうなのか…」
専門家とプランニングして治していくのが1番だ。
父がやる気になっている今こそ。
今の父親ならメディコを無碍に帰す事はしなさそうだし、傍に控えているメイド長さんと執事長さんも協力的なのも大きい。
後はやるかやらないかだ。
もちろん私の選択肢はやる以外ない。
「本当ならメディコに相談した上でやろうと思ってましたが、折角です、明日から動いてみましょう」
「これを着るのか?」
服を広げてなんとも言えない顔をしている。
今までフォーマルウェアしか着てなかった人だろうし、見た事もない服に戸惑いを隠せないのは仕方のない事だろう。
「ここ最近の話になりますが、私は同じものを着て毎朝外に出ています」
「これをオリアーナも着ているのか?」
嫁入り前の娘がみたいな事をぼそぼそ言っているが、ああユニセックスというのがそもそも浸透していない社会なのかな?
でも事業は男女関係なくやっていけるということは、男女差という点では私の世界である現代日本に近い気もするけど。
乙女ゲームの設定がそこまで細かくないと、そのラインの判断が難しいものだわ。
まあ私はおいしいところだけ持っていくけど。
「領地内に留まって動いてますので、人には見られてません」
お隣の奥様と馬車通りの人たちをのぞくけど。
私の言葉に父親は、それならとしぶしぶ納得していた。
さすがにいつものドレスで走り回っていたら、それはそれで奇行だろうし、走りにくそうだから私が嫌。
それにしても父親が思っていた以上に素直にジャージと早朝起床に同意をしてくれて助かった。
やれるならさっさと行動するに限る。
だいぶ予想外だったけど最初の一歩は本当に素直なものだ。
なかなか治療という形に持っていくのが難しいものの中で何故ここまでスムーズに踏み出せたのか…今はきく時ではないだろうけど、今後を見ながら教えてもらうとしよう。
なにせこれからの方が大変なのだから。
「では明日よろしくお願いします」
「…あ、ああ」
そして私は翌日大いに驚かされることになる。
食後の紅茶として早速頂いてるわけですが、あの酔っ払い父親が来ることはなかった。
「お嬢様、旦那様は…」
気まずそうに伝えてくる執事長さんに、大丈夫ですと軽く伝える。
そんなすぐには来ないだろう。
颯爽と自分アル中治します!と言ってやって来たら、そもそも10年も酒浸りするはずがない。
ここは忍耐。時間をかけるに限る。
「明日もこちらで食事をとります」
「畏まりました」
「今日も美味しかったです」
オリアーナと共に部屋を出ようとすると声がかかった。
メイド長さんだ。
躊躇った後、父親の容体について話してくれた。
曰く、私の平手打ちが効いたのか落ち込み方が少し違うと。
自棄にはなっていない、どうしたらいいかわからないけれど、私の言う通りだと思うところもあると感じているらしい。
長年の付き合いからか、メイド長さんには心内を伝えられるよう。
「それなら父に伝えて下さい。オリアーナは待っていると。どうしたらいいかは皆で考えればよいと」
「…畏まりました」
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
そこから3日。
ひっそり淑女マナーやら魔法の基礎やらを学園でエステルたちから学び、授業はノーコンを晒しエドアルドに心配されつつディエゴに睨まれつつ、ジョギングをオリアーナとともに習慣づけて、帳簿10年分を制覇し、夕餉で酔っ払いを待ち続けてのこの3日。
父親が夕餉の時間に現れた。
早い、すごい成果だ。
きっとメイド長さんやら執事長さんやらも協力してくれたのだろう。
なにより本人の意識がそこまであがってきたのが素晴らしい。
このタイプなら、案外早いかもしれないぞ。
「お父様、お越し頂き大変嬉しく思います」
「……ああ」
食事を共にとる。
傍のオリアーナは少し落ち着きがない。
2人を見ればオリアーナも父親も食があまり進んでいないがそこは織り込みずみだ。
すると父がナイフとフォークを置いてこちらを見た。
「…オリアーナ」
「はい」
「………その、すまなかった」
頭を下げて謝る父。
色々言い訳していたが、やはりきっかけは妻が亡くなったことだった。
そこを理解してるようなら認知の一歩は踏み出せている。
「ただ、どうしたらいいのかわからなく…」
「そうしましたら、明日から早速お父様とやりたいことがあります」
「なんだ?」
「これを」
アンナさんに頼み持ってきてもらったのはジャージの上下セットだ。
最初に頼んだ時に男女分頼んでいてよかった。
ランニングウェアももう少しすれば届くし、なかなかいいタイミングで物事が運んでいる。
「朝は起きづらいと思いますので、来る事が可能であればで結構です」
「え?」
「運動療法、食事療法、認知療法全部やります。明日メディコに来てもらうのでそこでまた話しましょう」
「りょうほ、え?いや、しかし、」
今まで朝が起きられない、夜眠れないし、10年前を鮮明に思い出すから酒に頼るしかない、そうすると酒をやめられない、酒の飲みすぎで悪くなっているのは分かっていたし、何度もやめようとしたが、少しでも酒が抜けると手が奮え、汗が止まらなくなり、日によっては吐いてしまったり、脈がおかしくなる等などと諸症状を勝手に話してくれる。
それは全部、早期離脱症状。
典型的なアルコール依存症だな。
「急に酒を飲まない、つまるとこ断酒をするというのは難しいですよ」
「え…」
「まずは減酒からです。少しずつ減らしていく事に慣れていきましょう。その後に見えてくるのが断酒です。もちろんメディコに明日相談しますが」
「そ、そうなのか…」
専門家とプランニングして治していくのが1番だ。
父がやる気になっている今こそ。
今の父親ならメディコを無碍に帰す事はしなさそうだし、傍に控えているメイド長さんと執事長さんも協力的なのも大きい。
後はやるかやらないかだ。
もちろん私の選択肢はやる以外ない。
「本当ならメディコに相談した上でやろうと思ってましたが、折角です、明日から動いてみましょう」
「これを着るのか?」
服を広げてなんとも言えない顔をしている。
今までフォーマルウェアしか着てなかった人だろうし、見た事もない服に戸惑いを隠せないのは仕方のない事だろう。
「ここ最近の話になりますが、私は同じものを着て毎朝外に出ています」
「これをオリアーナも着ているのか?」
嫁入り前の娘がみたいな事をぼそぼそ言っているが、ああユニセックスというのがそもそも浸透していない社会なのかな?
でも事業は男女関係なくやっていけるということは、男女差という点では私の世界である現代日本に近い気もするけど。
乙女ゲームの設定がそこまで細かくないと、そのラインの判断が難しいものだわ。
まあ私はおいしいところだけ持っていくけど。
「領地内に留まって動いてますので、人には見られてません」
お隣の奥様と馬車通りの人たちをのぞくけど。
私の言葉に父親は、それならとしぶしぶ納得していた。
さすがにいつものドレスで走り回っていたら、それはそれで奇行だろうし、走りにくそうだから私が嫌。
それにしても父親が思っていた以上に素直にジャージと早朝起床に同意をしてくれて助かった。
やれるならさっさと行動するに限る。
だいぶ予想外だったけど最初の一歩は本当に素直なものだ。
なかなか治療という形に持っていくのが難しいものの中で何故ここまでスムーズに踏み出せたのか…今はきく時ではないだろうけど、今後を見ながら教えてもらうとしよう。
なにせこれからの方が大変なのだから。
「では明日よろしくお願いします」
「…あ、ああ」
そして私は翌日大いに驚かされることになる。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
乙女ゲームの正しい進め方
みおな
恋愛
乙女ゲームの世界に転生しました。
目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。
私はこの乙女ゲームが大好きでした。
心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。
だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。
彼らには幸せになってもらいたいですから。
夫と息子は私が守ります!〜呪いを受けた夫とワケあり義息子を守る転生令嬢の奮闘記〜
梵天丸
恋愛
グリーン侯爵家のシャーロットは、妾の子ということで本妻の子たちとは差別化され、不遇な扱いを受けていた。
そんなシャーロットにある日、いわくつきの公爵との結婚の話が舞い込む。
実はシャーロットはバツイチで元保育士の転生令嬢だった。そしてこの物語の舞台は、彼女が愛読していた小説の世界のものだ。原作の小説には4行ほどしか登場しないシャーロットは、公爵との結婚後すぐに離婚し、出戻っていた。しかしその後、シャーロットは30歳年上のやもめ子爵に嫁がされた挙げ句、愛人に殺されるという不遇な脇役だった。
悲惨な末路を避けるためには、何としても公爵との結婚を長続きさせるしかない。
しかし、嫁いだ先の公爵家は、極寒の北国にある上、夫である公爵は魔女の呪いを受けて目が見えない。さらに公爵を始め、公爵家の人たちはシャーロットに対してよそよそしく、いかにも早く出て行って欲しいという雰囲気だった。原作のシャーロットが耐えきれずに離婚した理由が分かる。しかし、実家に戻れば、悲惨な末路が待っている。シャーロットは図々しく居座る計画を立てる。
そんなある日、シャーロットは城の中で公爵にそっくりな子どもと出会う。その子どもは、公爵のことを「お父さん」と呼んだ。
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。

私は幼い頃に死んだと思われていた侯爵令嬢でした
さこの
恋愛
幼い頃に誘拐されたマリアベル。保護してくれた男の人をお母さんと呼び、父でもあり兄でもあり家族として暮らしていた。
誘拐される以前の記憶は全くないが、ネックレスにマリアベルと名前が記されていた。
数年後にマリアベルの元に侯爵家の遣いがやってきて、自分は貴族の娘だと知る事になる。
お母さんと呼ぶ男の人と離れるのは嫌だが家に戻り家族と会う事になった。
片田舎で暮らしていたマリアベルは貴族の子女として学ぶ事になるが、不思議と読み書きは出来るし食事のマナーも悪くない。
お母さんと呼ばれていた男は何者だったのだろうか……? マリアベルは貴族社会に馴染めるのか……
っと言った感じのストーリーです。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる