魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
69 / 82

69話 俺がやりたいから、イリニを守る

しおりを挟む
 次にドラゴンを見上げる。ドラゴンは分かっていたようで、穏やかな面持ちのまま驚くことはなかった。

「私達に気を遣わなくていい」
「この状況は三国が協力しても打破するには難しいと考えている」

 だから助けて欲しい。
 エフィの言葉にドラゴンが目を細めた。少し嬉しそうにも見える。

「いいだろう」
「感謝する」
「いつでも力になるつもりだったさ」

 なあフェンリルとドラゴンが言えば、どこに控えていたのかフェンリルが出てきて、こちらもしっかり頷いた。それにエフィがほっと肩を撫で下ろす。

「エクセロスレヴォの国境武力と折り合いをつけた。助力してくれると」
「ああ、助かる」

 フェンリルったらいつの間に。どうやらエクセロスレヴォには伝手があったらしい。
 後はシコフォーナクセー側から正式な要請をエクセロスレヴォにすればクリア。
 本来はパノキカトがするべき案件だけど、緊急性が高い為シコフォーナクセーが間を取り持つ形にしてうまくおさめる気らしい。この短時間でよく考えてる。

「……イリニ、本当にいいのか?」
「私の許可は必要ないよ?」

 私だって捨てた国とはいえ、滅茶苦茶になるのは心苦しい。そこに住む住民に罪はないし、元婚約者や聖女の件がなければ良い国だし愛着があるもの。
 エフィが真剣な面持ちでいる横からアステリが口を出した。

「魔王に許可はふつーだろ」
「魔王設定いかさないでよ」

 別に魔王でもいいけど、内々で盛り上がる必要ないでしょ。
 あー新聞とか考えると絵になるかも。魔王、パノキカトで蛇と戦う的な。なんだか規模が怪獣映画みたいになってきた。

「ならばイリニに統率してもらうか」
「え、ドラゴン、ちょっと?」
「ああ、そうするつもりだ」
「エフィ?」
「お前、まずはイリニに説明しろよ」

 アステリに言われ、頷いた後詳しく話してくれる。
 パノキカトにとって蛇の精霊は私が起こした厄災だ。それを私が魔物を伴って打ち砕けば、聖女がパノキカトを恨んで滅ぼそうとしているという疑念が晴れる。自作自演と言われる可能性もあるが、それは少数とみてエフィの方で後日処理でどうとでもなるレベルと予測してるらしい。
 そこまで気を遣ってくれるなんて。とっくの昔に悪役でもいいと思っていた私をあっさり救い上げようとする。

「イリニを利用しているようで申し訳ないんだが」
「私は構わないよ。というか、あれなら今の私のモードで一発じゃない?」

 俺つえええモードでも魔王モードでも倒せると思うんだけど。
 そういう俺つえええで一瞬で終わるタイプは最近のバトルものではテンプレのはず。

「お前、街中でぶっぱなしたらパノキカトなくなるだろーが」
「手加減するよ?」
「手加減してエフィがあんなになるんだぞ?」

 一番最初の真っ黒になっちゃったやつね。最近のことなのに妙に懐かしく感じる。

「お前は立ってるだけで魔物に任せておけ」
「うーん?」

 魔王が魔物従えて現れたら恐怖だろうなとも思うけど、今はそこを考えてる場合じゃないか。子供のトラウマになっても仕方ない、そのあたりは諦めよう。
 俺つえええで一発退場でもなく、総力で殲滅戦の方かなあ。そっちもテンプレっちゃテンプレかな?

「エフィ」
「ああ」

 王城側から連絡があったのか、カロが嬉しそうにエフィを呼ぶ。ほぼ予測した通りの回答だった。

「緊急措置で武力介入の許可が三国間で出たよ~。パノキカト救済の為で通った」
「カロ、よくやった」

 このスピード感たら。元婚約者は対処できないだろうから、パノキカトでは王陛下自ら動いたのかな。
 ともあれ、これで堂々と動けるわけか。

「イリニ、いいか?」
「うん」
「俺が君の側にいて守るから」
「大丈夫だよ?」

 この通り魔王なもので、と肩をあげて見せてもエフィは至極真面目だった。

「俺がやりたいから、イリニを守る」

 嬉しいことを言ってくれるんだから。そんなはっきり言われると恥ずかしいし、あまりに真っ直ぐ見てくるものだから目を逸らしてしまった。

「嫌か?」
「……ううん、嫌じゃない」

 エフィの直轄の騎士団はカロに任せて、エフィ自身は私と一緒にいる。
 確かに魔王と魔物の側にシコフォーナクセーの人間がいれば、敵という認識に至るまで迷いが出る可能性がある。その迷っている僅かな時間に蛇を倒してしまえばいい。
 それ以前に純粋に一人でどうにかしなきゃいけない感が薄まるだけで私は嬉しいと思っているのだから不思議ね。

「あー、いちゃついてるとこわりーんだが」
「っ!」
「い、いちゃついてなんか!」
「へーへー」

 アステリってば相変わらず私たちのことニヤニヤ笑いながら見てからかってくる。
 別にラッキースケベで密着してるとかじゃないんだし、いちゃついてるとは違う気もするけど敢えて言わないことにした。これ以上つつかれたくないし。

「よし」

 すぐにすっと顔つきを変えて、行けるかと問わた。
 私も引き締めて、しっかり頷く。やるべき時だもの。きちんとやるわ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

処理中です...