魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
62 / 82

62話 婚約発表

しおりを挟む
「僕は僕でイリニさんにお近づきになりたかったのもありましたが、結果的にうまくいったみたいですね」
「え?」
「パノキカトの、イリニさんの元婚約者がずっとこちらを見ていますので」
「うっわ」

 むしろ睨み付けてるでしょ、あれ。というか、そこまでする?
 隣のピラズモス男爵令嬢が話しかければ途端だらしなく顔を崩す。そのままうまくコントロールしてて、お嬢さん。もう関係ないし、睨まれたくもない。

「はあ」
「どうした、何があった」
「!」

 兄様、と嬉しそうにするアネシス。
 背後から現れたエフィは不機嫌だった。

「アネシス」
「違いますよ。僕は楽しくイリニさんとお話ししてました」

 名前、と聞こえるか聞こえないかの声でエフィが囁く。

「本当だよ。アネシスと話してただけで、他の人に話しかけられることもなかったから」

 名前、と再び囁くエフィ。なんなの。

「機嫌悪いな」
「エフィ、彼女も困ってるぞ」

 エフィの背後からさらに聞こえた声に視線をずらすと、二人の男性が前に出てきた。

「え、」
「ああ、イリニ。紹介が遅れたな。上の兄達だ。姉は父上と一緒だから、ここにはいないが」
「ご、ご挨拶が遅れました」
「ああ、必要ないよ」
「君の事はよく知ってるし、君がパノキカトにいた頃は顔を合わせることも多かったしな」

 第一王太子殿下に第二王太子殿下。まさか連れてくるなんて。
 兄弟の会話をしてくるだけじゃなかったの。

「んー、本当だ」
「アネシスの言った通りだな」
「でしょう?」
「?」

 私を見てにこにこしてる男三人。
 見かねてか、エフィが私と王太子殿下たちの間に入ってきた。

「兄上、アネシス」
「エフィ、私は大丈夫だから」
「駄目だ。近すぎるし不躾にも程がある」
「ぶふ」
「うけるな」
「兄様良かったです」

 三者三様の反応。
 間に入ったことで、今度はエフィが三人からじろじろ見られている。

「父様が嬉しそうなわけです」
「ああ、私達としても一安心だな」
「ふむ、随分変わったとは思っていたが、ここまでとは」
「もういいでしょう? 父上が来ますので早く戻って下さい」

 挨拶すらしてないのにこれで終わるの? いくらなんでもよくないんじゃ?

「なんだ? 途端器量が乏しくなったな」
「兄上!」
「恋は盲目かあ」
「兄上!」
「僕は兄様のことを応援してますよ!」
「あー……」

 エフィに言われて大人しく去ろうとする殿下たち。

「あの、」
「父上の挨拶があるから、その後にでも」
「駄目だ」
「うわ」
「はは、笑える」

 愉快そうに笑って去っていく。その先はそれぞれの王太子妃の元だった。アネシスは別の場所へ行ったのか見えなくなってしまう。さすがに兄弟揃ってるところに挨拶なしはよくないのではと思い、エフィの名を呼んだところに王陛下の入場が重なった。
 王陛下、王妃殿下、第一王女殿下を伴って現れる。
 三国恒例のダンスパーティー、いつも通りの挨拶が降りてきて、いつも通りの言葉で締めくくられる。
 そして最後に私の住民票移動についての話がきた。

「パノキカトの聖女だった女性がシコフォーナクセーの民になった事は周知の事実かと思う。我が国としてもパノキカトとエクセロスレヴォ、三国間の交流をより深める為に民の居住の意志を尊重していきたいと考えている」

 さすが。三国間の関わりの為に必要な移動だったと思わせる言い方だった。さらに言葉を続ける。

「我が息子もこんなに美しい女性と婚約出来、大変喜ばしい限りだ。こちらは後々正式に皆に披露目することが出来るだろう」

 ざわつく場とこちらに集まる視線。
 エフィ、パリピにどういう話の持っていき方したの。
 元婚約者に話した手前、引くことはできないのはわかるけど、婚約したってなった。住民票移動の話だけでよかったはず。

「しかし今日はまた一つ慶び事がある。我が娘とエクセロスレヴォの王太子との婚約が正式に決まった」

 王陛下の側にいた王女殿下が前に出て、そしてエクセロスレヴォの王太子殿下と並んだ。
 おかげで私とエフィの婚約話が霞む。うっかりエフィが元婚約者に言っちゃった内容だって分かってて話し方考えたの?

「イリニ、姉の所へ行っても?」
「うん大丈夫。お祝いしたいし」

 王陛下が去って王女殿下にご挨拶だ。
 幸い上の王太子殿下二人とアネシスが既に二人を囲んでいたので、私とエフィもするりとご挨拶の中に入れた。

「エフィ」
「姉上、此度はおめでとうございます」

 形式的な挨拶を済ませ、祝辞を述べる。
 にっこり微笑むお姉さま眩しいわ。美女。間違いなく美女。
 王妃殿下に似た華やかさをもっていて、目を細めて笑う表情がエフィによく似ていた。

「ふふ、ありがと。貴方にもおめでとうと言うべき?」
「今日は姉上の為にあるものなので」
「遠慮しなくてもいいのに。皆の憧れの聖女様がフリーになった途端ゲットしちゃって。抜け目ないわよねえ?」

 と、なぜか私に話を振る王女殿下。こたえづらいのですが。

「イリニを困らせないで下さい」
「え? 周囲は貴方達に話を聞きたくて仕方ないのよ? 山の城に籠って中々御目にかかれない聖女様がシコフォーナクセーの民になって、貴方と婚約したって」
「それを事実だと周知すれば済む話じゃないですか」
「やあねえ、当人から話を聞いて盛り上がりたいの」

 恋ばな的な意味で。
 そういうことなんだろうなあ。二人の王太子妃も頷いてるし。
 いつの時代も女性の好きなものは恋ばなで間違いない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

処理中です...