魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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54話 誰を想ってラッキースケベが起きる(エフィ視点)

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 聞いたことがなかった。学生時代にだって、卒業した後だって。
 ああでもそうなると、イリニを助けた理由の一つにもなるのか?
 聖女を失う事によって起きるパノキカトへの影響と自身の立場も勿論考えたのだろうが、イリニがあの男によって殺された場合、アギオス侯爵家とそこで働く者達にも当然影響がある。
 マリッサを守る為にも、イリニに生きてもらえた方がアステリには最善だ。

「お嬢様、この男と話す必要はありません」
「そこまで?!」
「んー、マリッサ本当エフィのこと嫌いだねえ」

 困った顔をして笑うイリニ。
 だめだ、イリニへの印象が悪くなる。ここは侍女マリッサとある程度友好関係を築かないといけない。

「頼む、誤解だ。話を」
「絶対嫌です!」
「マリッサてば落ち着いて」
「今すぐ出ていってもらうべきです!」
「え、と、エフィ出ていくのはちょっと……」
「そんなお嬢様! 付け入った後なんですか?! やはりこいつが!」

 飛びかからんとするマリッサをイリニとアステリが止める。
 泣かした事やまあ付け入ろうとしている事が気に入らないのは分かるがどうしたらいいか。告白したのは知ってなさそうだが、言ったら炎上しそうだ。けど、こちらとしても譲れない所でもある。

「マリッサ、聞いてほしい」
「嫌です!」
「俺はイリニの側にいたい。だから許して欲しい」
「エフィ」

 イリニの瞳に水気が帯びる。何を考えて瞳が潤むのか分からないが、出来れば嬉しくて滲んでいてくれてると嬉しい。やはり何かしらのモードで出てくれると分かりやすいな。
 マリッサを放ってイリニの事ばかり見ていたら、それすらも気に入らないのかマリッサがさらに怒りを爆発させた。

「こ、こ、」
「?」
「こんのかっこつけがあああ!」
「ま、マリッサ、だめだって!」

 暴れるマリッサを二人が抑えようとしたら、彼女の手に持つものが浮いた。
 雑巾が宙を舞い、バケツの水が揺れ飛んだ。
 ああ、これは。この展開は。

「エフィ!」

 水を被った。
 その後にぺしゃりと雑巾が顔にかかる。
 上半身が駄目になったな。

「ラッ、」
「エフィ!」
「?」
「来て! アステリよろしく!」
「へーへー」
「お嬢様あああ!」

 手をとられ角を曲がった所でイリニがまた謝罪してきた。

「やはりラッキースケベか」
「うん、その、ごめん、マリッサにはラッキースケベのこと話してなくて」
「そうか」

 まああまり知られてほしくないだろう。今でも恥ずかしげに顔を赤くするのだから。被害に遭って気づいた者に渋々話してる程度かとは思う。

「今のラッキースケベは、俺とマリッサの関係のせいで?」
「まあもうちょっと仲良くできればなあとは思うけど」
「けど?」

 先を促すとイリニは口ごもる。何に淋しいか、何を思っているかをきくようにしていくらか経つが、いつもイリニは言葉にするのを悩む。だからしつこいと思われてもいいから粘って聞くようにしている。

「マリッサが追い出そうとしてたでしょ?」
「ああ」
「マリッサも本気じゃないとは思うけど、それでエフィが出ていったら、やだなって」
「イリニ、」
「あ、た、タオル持ってくるから!」

 恥ずかしいのだろう、慌てた様子で握る手を離し、俺の背中をぐいぐい押して部屋に促した。
 俺の事を想ってラッキースケベが起きる。アステリも前に言っていたが、イリニの心内を聞くようになってからはそれが顕著な気がした。
 俺としては当然嬉しいに決まっている。ラッキースケベが起きる程意識してくれている。ピラズモス男爵令嬢の時に起きた静電気みたいなものを起こすモードを見てからは、それこそ父上の言うワンチャンがあると思えた。
 まあ返事は未だ聞いてないが。

「イリニ」

 出ていこうとするイリニの手をとって留める。

「俺はこの城に、イリニの側にいるから」
「う、うん」
「君が嫌だといってもいるぞ」
「それはさすがにちょっと」

 そう言いつつも耳が赤くなってるあたり満更でもないはずだ。
 ああ本当に、あの時の想い描いていた俺の前だけで本音を吐露して欲しいという願いが叶うまでもうすぐな気がした。

「エフィ、離して。タオル持ってきたい」
「ああ」

 扉を閉める間際、小さくありがとうと言うのを聞き逃す事はなかった。
 これだから離してくれない。
 自分は変わった別人だと言っても、俺からすればイリニのままだ。少し砕けた話し方をするようになっただけ、心内を少し見せてくれるようになっただけ。本当のイリニを知る事が出来て嬉しいばかりで、イリニの言う別人で戸惑うという感覚はない。

「はあ……やっぱり可愛いな」

 笑みを溢しながら濡れて張り付く服を脱ぎにかかった。
 イリニの記憶ではこれを濡れ透けというらしいが、確かに未婚の貴族令嬢に見せるものではないだろうな。
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