魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
54 / 82

54話 誰を想ってラッキースケベが起きる(エフィ視点)

しおりを挟む
 聞いたことがなかった。学生時代にだって、卒業した後だって。
 ああでもそうなると、イリニを助けた理由の一つにもなるのか?
 聖女を失う事によって起きるパノキカトへの影響と自身の立場も勿論考えたのだろうが、イリニがあの男によって殺された場合、アギオス侯爵家とそこで働く者達にも当然影響がある。
 マリッサを守る為にも、イリニに生きてもらえた方がアステリには最善だ。

「お嬢様、この男と話す必要はありません」
「そこまで?!」
「んー、マリッサ本当エフィのこと嫌いだねえ」

 困った顔をして笑うイリニ。
 だめだ、イリニへの印象が悪くなる。ここは侍女マリッサとある程度友好関係を築かないといけない。

「頼む、誤解だ。話を」
「絶対嫌です!」
「マリッサてば落ち着いて」
「今すぐ出ていってもらうべきです!」
「え、と、エフィ出ていくのはちょっと……」
「そんなお嬢様! 付け入った後なんですか?! やはりこいつが!」

 飛びかからんとするマリッサをイリニとアステリが止める。
 泣かした事やまあ付け入ろうとしている事が気に入らないのは分かるがどうしたらいいか。告白したのは知ってなさそうだが、言ったら炎上しそうだ。けど、こちらとしても譲れない所でもある。

「マリッサ、聞いてほしい」
「嫌です!」
「俺はイリニの側にいたい。だから許して欲しい」
「エフィ」

 イリニの瞳に水気が帯びる。何を考えて瞳が潤むのか分からないが、出来れば嬉しくて滲んでいてくれてると嬉しい。やはり何かしらのモードで出てくれると分かりやすいな。
 マリッサを放ってイリニの事ばかり見ていたら、それすらも気に入らないのかマリッサがさらに怒りを爆発させた。

「こ、こ、」
「?」
「こんのかっこつけがあああ!」
「ま、マリッサ、だめだって!」

 暴れるマリッサを二人が抑えようとしたら、彼女の手に持つものが浮いた。
 雑巾が宙を舞い、バケツの水が揺れ飛んだ。
 ああ、これは。この展開は。

「エフィ!」

 水を被った。
 その後にぺしゃりと雑巾が顔にかかる。
 上半身が駄目になったな。

「ラッ、」
「エフィ!」
「?」
「来て! アステリよろしく!」
「へーへー」
「お嬢様あああ!」

 手をとられ角を曲がった所でイリニがまた謝罪してきた。

「やはりラッキースケベか」
「うん、その、ごめん、マリッサにはラッキースケベのこと話してなくて」
「そうか」

 まああまり知られてほしくないだろう。今でも恥ずかしげに顔を赤くするのだから。被害に遭って気づいた者に渋々話してる程度かとは思う。

「今のラッキースケベは、俺とマリッサの関係のせいで?」
「まあもうちょっと仲良くできればなあとは思うけど」
「けど?」

 先を促すとイリニは口ごもる。何に淋しいか、何を思っているかをきくようにしていくらか経つが、いつもイリニは言葉にするのを悩む。だからしつこいと思われてもいいから粘って聞くようにしている。

「マリッサが追い出そうとしてたでしょ?」
「ああ」
「マリッサも本気じゃないとは思うけど、それでエフィが出ていったら、やだなって」
「イリニ、」
「あ、た、タオル持ってくるから!」

 恥ずかしいのだろう、慌てた様子で握る手を離し、俺の背中をぐいぐい押して部屋に促した。
 俺の事を想ってラッキースケベが起きる。アステリも前に言っていたが、イリニの心内を聞くようになってからはそれが顕著な気がした。
 俺としては当然嬉しいに決まっている。ラッキースケベが起きる程意識してくれている。ピラズモス男爵令嬢の時に起きた静電気みたいなものを起こすモードを見てからは、それこそ父上の言うワンチャンがあると思えた。
 まあ返事は未だ聞いてないが。

「イリニ」

 出ていこうとするイリニの手をとって留める。

「俺はこの城に、イリニの側にいるから」
「う、うん」
「君が嫌だといってもいるぞ」
「それはさすがにちょっと」

 そう言いつつも耳が赤くなってるあたり満更でもないはずだ。
 ああ本当に、あの時の想い描いていた俺の前だけで本音を吐露して欲しいという願いが叶うまでもうすぐな気がした。

「エフィ、離して。タオル持ってきたい」
「ああ」

 扉を閉める間際、小さくありがとうと言うのを聞き逃す事はなかった。
 これだから離してくれない。
 自分は変わった別人だと言っても、俺からすればイリニのままだ。少し砕けた話し方をするようになっただけ、心内を少し見せてくれるようになっただけ。本当のイリニを知る事が出来て嬉しいばかりで、イリニの言う別人で戸惑うという感覚はない。

「はあ……やっぱり可愛いな」

 笑みを溢しながら濡れて張り付く服を脱ぎにかかった。
 イリニの記憶ではこれを濡れ透けというらしいが、確かに未婚の貴族令嬢に見せるものではないだろうな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...