魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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46話 婚約者になった

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「で? なんの用?」
「っ、その話し方はなんだ! 誰に向かって」
「ここは私の城で、主は私なんだけど? 名乗りもできないのに、なにを偉そうなこと言ってるわけ?」

 まあ堅苦しいのはなしねとは思うけど、かといって元婚約者に横柄な態度をとられたくない。
 元婚約者は聖女候補のピラズモス男爵令嬢を隣に、少し後ろに何度かここに来た騎士団長エウプロを連れて立っている。
 私は王じゃないからいいとしても、隣にいるエフィはこの国の王太子なんだけどな?
 ま、エフィを侍らせてる時点で私がアウトか?

「不敬だぞ、おれは」
「もういいや。エウプロ話して」
「え?」

 さっさと終わらせたいんだよね~と加えれば、元婚約者の眉間に皺が寄った。整然と立ちつつも、驚きに僅かに眉を上げるエウプロ。

「殿下……」
「……かまわん、お前から話せ」

 憎々しげに私を見上げ、次にふいと視線を逸らしてエウプロに許可を出した。あーあ、時期王たる人間がまともに交渉の場で話せないとかなんなの? この人私がいなくなってからも外交なりなんなりうまくやれてないな?

「僭越ながら申し上げます」

 話が早くて助かるエウプロはまたまた要点だけ述べてくれた。
 内政処理のためにパノニキカトに戻ること。
 聖女として、その力で王都における不作と最近出始めた疫病の改善すること。
 相変わらずかあ。溜め息しかでてこないや。

「私がシコフォーナクセー国の民になったのは知ってるよね?」
「……聖女様、それは」
「エウプロ」

 続けようとするエウプロを制した。
 折角だから、重要そうなとこは彼に話してもらおうかな。

「パノキカト王太子殿下、貴方からききたいわね?」

 なに言うか分かってるけど。

「シコフォーナクセー国民が他国の内政に手を出すことが、どういうことか分かってる? パノキカトがシコフォーナクセーの属国になるって話が当然出るわよ。それを覆す程の理由を持ってこれたの?」
「……俺の、第二妃に、してやらなくもない」

 やっぱそこかあ。
 自分の立場が危うくなったから、私を囲うための手段が結婚。
 第二妃にしたら、住民票もすぐパノキカトに移動すればいいだけ。
 テンプレ中のテンプレだ。

「アホらし」
「なんだと?」
「馬鹿馬鹿しいにも程があるわ。帰って」
「貴様、恩情を見せればつけあがるのか!」
「お断りだっつってんの。聞こえてる?」

 謁見の間の雲行きが文字通り怪しくなる。また雷かな? ちょっと違う?

「魔物を従え王になったというのは真実だったのか」
「従えてないけど?」
「兵を増やしパノキカトに攻め込む気か? 軍力を確保する為にシコフォーナクセーに寝返ったのだろう」
「はあ?」

 パノキカトの新聞をそのまま読んでくれてありがとう。
 スイッチ入っちゃった。魔王モードの。

「魔物は害悪でないと、エウプロから報告受けてない?」
「っ!」

 炎がどこからか現れて地を這った。蛇のような蜥蜴のような動きで元婚約者たちを囲む。
 うん、あったかい。
 そして何気なく換気してるアステリすごい。一酸化炭素中毒になっちゃうもんね。
 あーでも本当気分悪すぎることばっかり言ってきて逆に爽快だよ。

「兵呼ばわりするなんて最悪」
「な、にを」

 本当パノキカトの徹底した私への悪役ぶりは振りと見なせるから乗るけど、私の周囲を悪者にするのは許せない。
 玉座の肘掛けに乗せた手に力が入る。
 元婚約者にとって、今も過去も全部私が悪いのか。悲しいや怒りを通り越して呆れてしまうよ。

「イリニ」
「!」

 かたく握られた手を覆う大きな手。顔を向けると、エフィが傍らで膝をついていた。

「エフィ」
「……俺に任せてくれないか」

 またエフィは私を助けてくれるの?
 このまま恐怖におののいて帰ってもらうだけだよ?


「……エフィ」
「イリニは怒るかもしれないが、後できちんと話すから」

 返事ができないかわりに、城内を覆う炎が沈下した。
 エフィに手をとられたら気持ちが落ち着いてしまう。これもラッキースケベのハグ係で積み重ねた日々の賜物ね。
 その様子を見て、エフィは微笑んだ。すっと立って元婚約者と向かいあう。

「パノキカト国王太子殿下」
「……」

 エフィの立ち振舞いが王太子のそれになった。

「貴殿が正式な手続きを経て我が国に来た事は分かっている」
「なら話が早い」
「だが、アギオス侯爵令嬢をパノキカトに連れて行かれる事に了承は出来ない」
「なんだと」

 エフィの賓客だから。
 シコフォーナクセーの人間になっても王族にお呼ばれしてるなら、条件は前と同じ。けど、あっちが正式な手続きしてるなら、ウエイトがこちらにあってもそんなに強く出られない気もする。
 強い要因があるのだろうかとエフィの背中に視線を送ると、エフィは王太子として堂々と言葉を続けた。

「アギオス侯爵令嬢は私の婚約者になった」
「……え?」

 いつ? どういうこと? そんな会話どこかにあったっけ? なかったよね? なかったはず。
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