魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
46 / 82

46話 婚約者になった

しおりを挟む
「で? なんの用?」
「っ、その話し方はなんだ! 誰に向かって」
「ここは私の城で、主は私なんだけど? 名乗りもできないのに、なにを偉そうなこと言ってるわけ?」

 まあ堅苦しいのはなしねとは思うけど、かといって元婚約者に横柄な態度をとられたくない。
 元婚約者は聖女候補のピラズモス男爵令嬢を隣に、少し後ろに何度かここに来た騎士団長エウプロを連れて立っている。
 私は王じゃないからいいとしても、隣にいるエフィはこの国の王太子なんだけどな?
 ま、エフィを侍らせてる時点で私がアウトか?

「不敬だぞ、おれは」
「もういいや。エウプロ話して」
「え?」

 さっさと終わらせたいんだよね~と加えれば、元婚約者の眉間に皺が寄った。整然と立ちつつも、驚きに僅かに眉を上げるエウプロ。

「殿下……」
「……かまわん、お前から話せ」

 憎々しげに私を見上げ、次にふいと視線を逸らしてエウプロに許可を出した。あーあ、時期王たる人間がまともに交渉の場で話せないとかなんなの? この人私がいなくなってからも外交なりなんなりうまくやれてないな?

「僭越ながら申し上げます」

 話が早くて助かるエウプロはまたまた要点だけ述べてくれた。
 内政処理のためにパノニキカトに戻ること。
 聖女として、その力で王都における不作と最近出始めた疫病の改善すること。
 相変わらずかあ。溜め息しかでてこないや。

「私がシコフォーナクセー国の民になったのは知ってるよね?」
「……聖女様、それは」
「エウプロ」

 続けようとするエウプロを制した。
 折角だから、重要そうなとこは彼に話してもらおうかな。

「パノキカト王太子殿下、貴方からききたいわね?」

 なに言うか分かってるけど。

「シコフォーナクセー国民が他国の内政に手を出すことが、どういうことか分かってる? パノキカトがシコフォーナクセーの属国になるって話が当然出るわよ。それを覆す程の理由を持ってこれたの?」
「……俺の、第二妃に、してやらなくもない」

 やっぱそこかあ。
 自分の立場が危うくなったから、私を囲うための手段が結婚。
 第二妃にしたら、住民票もすぐパノキカトに移動すればいいだけ。
 テンプレ中のテンプレだ。

「アホらし」
「なんだと?」
「馬鹿馬鹿しいにも程があるわ。帰って」
「貴様、恩情を見せればつけあがるのか!」
「お断りだっつってんの。聞こえてる?」

 謁見の間の雲行きが文字通り怪しくなる。また雷かな? ちょっと違う?

「魔物を従え王になったというのは真実だったのか」
「従えてないけど?」
「兵を増やしパノキカトに攻め込む気か? 軍力を確保する為にシコフォーナクセーに寝返ったのだろう」
「はあ?」

 パノキカトの新聞をそのまま読んでくれてありがとう。
 スイッチ入っちゃった。魔王モードの。

「魔物は害悪でないと、エウプロから報告受けてない?」
「っ!」

 炎がどこからか現れて地を這った。蛇のような蜥蜴のような動きで元婚約者たちを囲む。
 うん、あったかい。
 そして何気なく換気してるアステリすごい。一酸化炭素中毒になっちゃうもんね。
 あーでも本当気分悪すぎることばっかり言ってきて逆に爽快だよ。

「兵呼ばわりするなんて最悪」
「な、にを」

 本当パノキカトの徹底した私への悪役ぶりは振りと見なせるから乗るけど、私の周囲を悪者にするのは許せない。
 玉座の肘掛けに乗せた手に力が入る。
 元婚約者にとって、今も過去も全部私が悪いのか。悲しいや怒りを通り越して呆れてしまうよ。

「イリニ」
「!」

 かたく握られた手を覆う大きな手。顔を向けると、エフィが傍らで膝をついていた。

「エフィ」
「……俺に任せてくれないか」

 またエフィは私を助けてくれるの?
 このまま恐怖におののいて帰ってもらうだけだよ?


「……エフィ」
「イリニは怒るかもしれないが、後できちんと話すから」

 返事ができないかわりに、城内を覆う炎が沈下した。
 エフィに手をとられたら気持ちが落ち着いてしまう。これもラッキースケベのハグ係で積み重ねた日々の賜物ね。
 その様子を見て、エフィは微笑んだ。すっと立って元婚約者と向かいあう。

「パノキカト国王太子殿下」
「……」

 エフィの立ち振舞いが王太子のそれになった。

「貴殿が正式な手続きを経て我が国に来た事は分かっている」
「なら話が早い」
「だが、アギオス侯爵令嬢をパノキカトに連れて行かれる事に了承は出来ない」
「なんだと」

 エフィの賓客だから。
 シコフォーナクセーの人間になっても王族にお呼ばれしてるなら、条件は前と同じ。けど、あっちが正式な手続きしてるなら、ウエイトがこちらにあってもそんなに強く出られない気もする。
 強い要因があるのだろうかとエフィの背中に視線を送ると、エフィは王太子として堂々と言葉を続けた。

「アギオス侯爵令嬢は私の婚約者になった」
「……え?」

 いつ? どういうこと? そんな会話どこかにあったっけ? なかったよね? なかったはず。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】「私は善意に殺された」

まほりろ
恋愛
筆頭公爵家の娘である私が、母親は身分が低い王太子殿下の後ろ盾になるため、彼の婚約者になるのは自然な流れだった。 誰もが私が王太子妃になると信じて疑わなかった。 私も殿下と婚約してから一度も、彼との結婚を疑ったことはない。 だが殿下が病に倒れ、その治療のため異世界から聖女が召喚され二人が愛し合ったことで……全ての運命が狂い出す。 どなたにも悪意はなかった……私が不運な星の下に生まれた……ただそれだけ。 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿中。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて2022年11月19日昼、日間異世界恋愛ランキング38位、総合59位まで上がった作品です!

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

処理中です...