魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

文字の大きさ
上 下
45 / 82

45話 元婚約者来訪

しおりを挟む
「まだ乾いてないけど」
「放っておけば乾くだろ」
「さっき拭いてって言ってたじゃん」
「もう充分だ」

 どうやら滴ってないかどうかが判断基準らしい。
 ここに側付きの侍従がいればいいんだろうけど、いるのはカロだけでカロはそういったとこに関わっていない。
 呪いやら毒やら色々あるから大概の事は一人でできるようになったと主張するけど、こういう部分に関しては雑にほったらかしだな。気になる。

「拭く」
「いい」

 私がエフィ付きの侍女になれば、聖女をやめてもシコフォーナクセーの城で一緒になれるか。
 ああでもそしたらエフィがどこぞの令嬢と結婚するのを見ないといけない。
 一緒にいたいけど、そこを見て過ごすのは嫌だと思ってしまった。
 かといって、自由が不確定な未来は嫌だし。

「いいから拭くよ」
「いい」
「あ、ちょっと」

 肩にかかるタオルをとろうとしたら、エフィが素早く回収した。
 ソファの上で手を伸ばして掴もうと追いかけたら、そのままスカっと綺麗に的を外す。
 そしてバランスを崩して倒れこんだ。エフィの膝目掛けて。

「え」
「おっふ」

 やっぱり男の人の膝はかたいな。女性の柔らかい太もも希望。

「これは、ラッキースケベか?」
「違う、たぶん」

 膝枕程度がラッキースケベなものか。
 まあ膝と膝の間に綺麗に鼻突っ込んだあたり、前のお尻に顔突っ込んだのと変わらない気もするけど。
 前か後ろかの差的な。

「イリニ」
「ラッキースケベじゃないって」
「念の為だ」

 肩を掴んでそのまま引き寄せられる。
 上半身だけ預ける形。
 あー、なんだか専属ハグ係に慣れてきちゃってるよなあ。よくないよねえ。
 この甘やかしが一番危険な気がする。

「おい」
「ひえ」

 ハグしてる時にタイミング悪くアステリが顔を出した。
 いやもうこの城の中なら何度も見られてるんだけどね?

「いちゃついてるとこ悪いな」
「いちゃついてないし」
「ああ、これは別にそういうんじゃない」

 お前ら揃いも揃ってと呆れるアステリは、溜め息一つ、後頭部をかきながら面倒な奴らと囁いた。失礼すぎでしょ。

「客だ。準備しろ」
「え?」

 珍しい。ここのとこまったく訪問者なんていなかったのに。

「会いたくないなら帰ってもらってもいーけど」
「誰?」
「……パノキカト王太子殿下」
「え?」
「バシラス・カルディア・ゾンダースタイン王太子殿下と、パンセリノス・ピラズモス男爵令嬢だよ」

 元婚約者とその相手。

「帰らせろ」
「エフィ、待って」

 途端表情を変え不機嫌になったエフィが矢継ぎ早に返すのを制す。

「あの人、正式な手続きした上でここに来たの」
「おー」

 前にエフィがエウプロに言った、シコフォーナクセーの法に則って手続きをして自らやってきた。
 プライドの塊なあの人がわざわざ来るなんて相当でしょ。パノキカトの状態が良くない方へ向かっているのは取り寄せてる新聞から把握していたから知ってたけど、まさか王太子自ら動かないと困るレベルだなんて。

「まあきちんとした手続きはしたんだが、エフィの親父さんからの連絡が遅れてな」

 今、訪問と同じタイミングでエフィのお父さんであるシコフォーナクセー国王陛下から元婚約者がそっち行くよ的な手紙が来たらしい。

「チッ」

 エフィが盛大な舌打ちをした。お行儀悪いぞ、王太子。

「エフィ?」
「父上はたまにそういう事をわざとするんだ」
「え?」
「わざと試練を与えて楽しんでる節がある」

 そしたら元婚約者が来るなら拒むな立ち向かえってことなのかな?

「ちなみにお前あてには、ワンチャン連呼してる手紙来てたぞ」
「勝手に読むな」
「同じ封に入ってんだ、不可抗力だぞ?」

 ワンチャン連呼してる手紙ってなに。ちょっと怖いよ。

「で、どうする?」

 決まっている。

「会うよ」
「イリニ」
「エフィ、大丈夫。きちんと帰ってもらうから」

 なにを求められるかはさておき、私が元婚約者側に傾くことはない。私はエフィとこの城で過ごしたい。たとえいつか別れの時がくるとしても。

「……大丈夫なのか?」
「うん」
「嫌な思いは?」
「ん? 相手の出方によってはいらっとするかもしれないけど、会うだけっていうなら嫌な思いはないよ」
「その、あの王太子の事をまだ」

 語尾がごにょごにょしてる。
 なんなんだろう。んー、いやでもまさか恋愛的な意味できいてる?

「元婚約者のことなら、なんとも思ってないよ?」
「なんとも?」
「うん」
「そうか」

 んん?
 あかさらさまにほっとしてる。
 いや、まって。そんな嬉しそうにされると、もしかしてとか思っちゃうじゃん。

「エフィ、それやきもち?」
「は?! そんなわけないだろ!」
「そう……なんか嬉しそうだったから」
「違っ、その、」
「ふうんへえふふふ」
「だから違うとっ! その顔はやめろ!」
「えー?」

 なんだかもぞ痒くて笑いが止まらない。

「うおーい、そろそろいーかー?」
「あ、いいよ」

 アステリに呼ばれて向かう。
 エフィは顔を赤くして不機嫌になった。

「なんだイリニ機嫌いいな?」
「ふふふ、そう見える?」
「まーいいけど」

 ちらりとエフィを見るアステリ。

「いちゃつくなら別でやれって」
「アステリ!」

 エフィが怒る。謁見の間遠くて良かったね。
 あんまり声大きいと聞こえちゃうし。

「ほら、さっさと終わらせて、終わったらもっかいお茶でも飲もう」
「おー」
「……ああ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです

白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。 ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。 「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」 ある日、アリシアは見てしまう。 夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを! 「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」 「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」 夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。 自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。 ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。 ※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

踏み台令嬢はへこたれない

IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」  公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。  春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。  そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?  これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。 「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」  ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。  なろうでも投稿しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

処理中です...