魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ(旧題:婚約破棄と処刑コンボを越えた先は魔王でした)

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43話 デート中のラッキースケベ問答

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 抱き止められた形なら、私の手がエフィの胸に触れてるのは仕方ない。揉んでないからセーフ。
 まあしいていうなら、私の太ももががっつりエフィの足の間に入って、あろうことか件の場所をぐりぐりしちゃったことだ。

「ごめ、」
「待て」

 ぐいっと片腕が腰を回って引き寄せられる。
 せめて太もも、どかせてよ。動くとエフィのぐりぐりしちゃうでしょうが。
 案の定、エフィ自分でやっておいてびくってしたし。やめてってば、まずは離れないと。

「イリニ」
「離れないと」
「ラッキースケベだな」
「ここではやめて!」

 城の中とは勝手が違う。事情を知らない人たちの前でハグなんてできない。
 エフィは少し考える素振りを見せて、ゆっくり立ち上がった。腰に腕が回ったままだから一緒に私も立ち上がる。

「二人とも怪我は?」
「問題ありません。ですが」
「お、おう?」
「二人きりになりたいので、そろそろ」

 一瞬ぽかんとした技術屋さんたちが次にものすごい笑顔になって、次々にどうぞやら気使えず悪かったやらデートだもんなとなんやら言って私たちを外に促す。

「え、あ、あの」
「また王都来るときは寄ってくれ」
「なんか欲しいもんあったら連絡くれりゃ作るぜ」
「は、はい」
「申し訳ありません、失礼します」

 ええんやで~なノリでさよならだった。なんだ、あの生あたたかさ。
 そんな生あたたかさに対して、エフィは手を繋いでぐいぐい引いてくる。

「エフィ、ごめんね?」
「いや、俺こそイリニを放っておきすぎた。つい気になって」
「あ、いや、それは王太子として必要なことだし」
「けど淋しかったろ?」
「うぐ……」

 ラッキースケベが起きたから逃げられない。なにに淋しかったかエフィは分からないだろうけど、淋しかった事実は誤魔化せない。

「何が嫌だった?」
「うっ……」

 歩く早さを少し遅くしてエフィがこちらを見る。並んで歩く形で、こちらを見続けるエフィに居たたまれない気持ちになった。

「イリニを放っていたから?」
「……ううん」

 むしろエフィの評判を聞けた挙げ句、王太子殿下としてがんばる姿も見られてよかったよと伝える。本音だ。すごいなと思ったもの。

「じゃあ何に?」
「言いたくない」

 エフィがむっとした。
 恥ずかしいわ。これ以上きかないで。

「言わないなら、ここでハグだ」
「え、ちょっとやめてよ」

 王都だから人通りもそこそこ。
 第一エフィは第三王太子という有名人なものだから、ちらほら女性の視線を感じる。
 そんな中、抱きしめられたらどうなるって分かり切ってる。いや、シコフォーナクセー的にはその方が聖女確保という意味で正解なんだけど。
 城の中はほとんど見られないし、見られても限りあったけど、不特定多数にハグを見られるのは恥ずかしさの限界に思えた。

「その……」
「ああ」
「エフィとお別れするんだなあって考えてた」
「お別れ?」

 恥ずかしながら、そろそろと視線を上げてエフィを見れば、不思議そうに小首を傾げてこちらを見下ろしていた。あれ、なんでよ。

「いつ俺と君が?」
「え、だって王様なにも言ってなかったし」
「俺はイリニと帰るぞ?」
「え?」

 どうやら両陛下の許しはもらっているらしかった。
 馬車の中で王陛下にお願いしてみるなんて言って、パリピの飲み会に参加しただけで、何もお願いできてなかったのに、エフィはきちんと会話を済ませていたなんて。

「帰城命令は、なし?」
「引き続き、君の側にいるようにと言われている」
「そ、そう」
「ああ、言うのが遅れたな」

 すまないとエフィが軽く謝罪。
 言われてなかったのはちょっととは思ったけど、それ以上にエフィが一緒というのが嬉しくなってきた。
 山の城にエフィと一緒に帰れる。エフィが城にいる。

「一緒にいられる」
「……また君は」
「え?」

 見上げたら、エフィがなんとも言えない顔をして視線を逸らした。目元が赤い。

「そういう顔をするなと」
「前も気になったけど、どういう顔?」

 そんなに変? ときけばエフィが唸った。
 なんでよ。そんなにやばい顔なの。

「……変じゃない」
「そうなの」
「あまりに、可愛いから」
「え?」
「!」

 顔がうっかり的な様相を見せた。
 咳払いして誤魔化すように話題を変える。

「いや、その前に、ああそうだ」
「なに?」
「まだ時間に余裕があるな……少し付き合ってもらおうか」
「なにに?」
「デートに」

 切り替えたのか、エフィがにんまり笑う。
 それならイリニは俺を独占できて淋しくないな、とも。

「……手」
「手?」
「離して」
「嫌だ」

 ラッキースケベが起きるだろ、とエフィがまた笑う。
 むっとしたと思ったら今度は機嫌がよくなった。なんなの。

「……ずっと憧れていたんだ」
「デートに?」
「ああ」

 遊んでたのにデートしてなかったのとは思ったけど、それは言えなくて黙って連れていかれることにした。
 手はずっと離れなかった。
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