38 / 82
38話 シコフォーナクセー王城へ
しおりを挟む
「エフィにとって、どれも大事なだけでしょ? 私は素敵なことだと思うけど」
「……イリニは自分を犠牲してないか? 少しは我が儘を言っても」
「してないよ。私は自分最優先にしてるもの」
にしても我が儘……うーん。
確かにエフィにはお願いあまりしてないかな?
ハグ係やめてとか、ついてこないでとかはきいてもらえないし。
「しいていうなら、エフィの願い全部叶えて」
「え?」
「どれかが叶わないなんてないでしょ」
そう言えたのがなんだかすごい気がした。
今までの私なら、真っ先に自分の感情を抑えて周囲の幸せをとるだろう。
今のエフィの立場で例えるなら、私を王城に軟禁してシコフォーナクセーの利をとる。勿論、賓客として扱うから贅沢な暮らしを保証されるけど、そこに私の求める自由はない。その自由を諦める、これが以前の私。
けど今の私は、私自身の自由を最善でとりつつ、周囲も幸せにする方法をがあると知っているし、それが叶うと思っている。だから、エフィにああ言えた。
「俺は……あの城に戻る」
イリニと一緒に、とぽつりと話すエフィの握る手に力が入った。
「分かった。私も諦めてたとこあったけど、王陛下にお願いしてエフィと帰れるよう頑張るよ」
「いいのか」
「うん」
エフィは戻らないと思っていてそれが伝わっていたから、エフィをこんなに落ち込ませたのかもしれない。
そこは私の望む気持ちを言わないとか。うっかりしてた。私もまだまだだな。
「イリニは一人がいいのかって」
「最初は一人がよかったけど……その、今は、」
少し恥ずかしいけど、今のエフィにはきちんと伝えた方がいい。
「エフィいないと、淋しくなりそうだし」
「え?」
「今の賑やかさがないと、嫌だなーって」
というか、きっかけになった魔力枯渇の時にきちんとエフィに城にいてほしいってことは言ったし。
なんでもう一度伝えなきゃいけないの。
「そうか」
「あー、色々誤解を招いてごめんね?」
「本音を隠すな」
「ごめんて」
恥ずかしいし、あまり真面目に語りたくないんだって。
「あ、戻ってくるならハグ係とか、いつもついてくるとかはいらないよ?」
「それは譲れない」
エフィってば、そこ譲れないのに城追い出されるって思ってたわけ?
「住民票移動と固定資産税納付だから、すぐ終わるよ」
「前から言ってる、そのじゅうみんひょうはなんだ」
ここの言葉じゃなかったね。でもおかげでエフィの極端な落ち込みはなくなった気がする。
エフィの肩が少し抜けたし、変わったウンチク話して、もうちょっと和んだ空気にしようかな。
「お二人さん、ついたよー」
話をしてしばらく、カロが呼んだ。
エフィが先に出て、おりようと身を乗り出したらエフィが当たり前のように手を差し出す。
「ありがと」
「ああ」
カロか反対側から耳打ちしてきた。
「イリニちゃん、ありがと」
「ん?」
「エフィのテンション、どうにかしてくれたっしょ?」
「ああ、そこね」
「どうした」
「なんでもない」
エフィに連れられ先を進む。
「カロと何を」
「たいしたことじゃないよ」
「……」
「エフィ?」
「ヘソ曲げんなよー」
「っ! 誰がっ!」
後ろからカロが揶揄する。
思わず笑ってしまうとエフィが驚きつつも妙な戸惑いを見せながら、しどろもどろになっていた。
「エフィ可愛い」
「か、かわ?」
「あ、ごめん。男性に可愛いはなしだね」
「いや、別に、それは」
うんうん、やっと私の前でかたいのが柔らいできたな。
心置きなく付き合える仲になれた感。素直に嬉しい。
「もー、いちゃつくなら別でやってよー」
「いちゃついてない!」
「はいはい。分かったから、イリニちゃん連れて行けって」
「く……覚えてろよ」
さすがに城の中に入るというところで、エフィは王太子殿下の顔になった。
すごいなと思いつつ、彼に連れられシコフォーナクセー王城の敷居を跨ぐ。
城で公的な謁見なんて久しぶりだ。毎日のようにこなしていたことなのに、不思議と遠く感じる。
「イリニ」
「なに?」
「その、父上の事なんだが……少し変わっていて」
「変わってる?」
まあ、何かのトップに立つ人間だし、多少個性はありそうだけど。社長が変わり者だと会社大きくなる的な。
「今日はそれを出さないとは思う」
「ふうん?」
もうすぐやめるとはいえ、聖女がシコフォーナクセーに居を構えるとなれば、国内外に影響を与える案件。しかも法的にきちんと手続きする。そういう真面目な場なら、王陛下も仰々しく対応するから、素は出さないだろうというのがエフィの見解。
「私は全然かまわないけど……おや」
「……すまない、人避けをしたつもりだったんだが」
入城し、進む先は謁見の間なのはどの城も変わらない。
その手前の部屋で多くの貴族や騎士が控えていた。
奇異の目をこちらに向け、遠慮なく聞こえる声音でこちらのことを話している。
慣れたものだ。いい子ちゃんしてた頃も、魔王になってからも。
「……イリニは自分を犠牲してないか? 少しは我が儘を言っても」
「してないよ。私は自分最優先にしてるもの」
にしても我が儘……うーん。
確かにエフィにはお願いあまりしてないかな?
ハグ係やめてとか、ついてこないでとかはきいてもらえないし。
「しいていうなら、エフィの願い全部叶えて」
「え?」
「どれかが叶わないなんてないでしょ」
そう言えたのがなんだかすごい気がした。
今までの私なら、真っ先に自分の感情を抑えて周囲の幸せをとるだろう。
今のエフィの立場で例えるなら、私を王城に軟禁してシコフォーナクセーの利をとる。勿論、賓客として扱うから贅沢な暮らしを保証されるけど、そこに私の求める自由はない。その自由を諦める、これが以前の私。
けど今の私は、私自身の自由を最善でとりつつ、周囲も幸せにする方法をがあると知っているし、それが叶うと思っている。だから、エフィにああ言えた。
「俺は……あの城に戻る」
イリニと一緒に、とぽつりと話すエフィの握る手に力が入った。
「分かった。私も諦めてたとこあったけど、王陛下にお願いしてエフィと帰れるよう頑張るよ」
「いいのか」
「うん」
エフィは戻らないと思っていてそれが伝わっていたから、エフィをこんなに落ち込ませたのかもしれない。
そこは私の望む気持ちを言わないとか。うっかりしてた。私もまだまだだな。
「イリニは一人がいいのかって」
「最初は一人がよかったけど……その、今は、」
少し恥ずかしいけど、今のエフィにはきちんと伝えた方がいい。
「エフィいないと、淋しくなりそうだし」
「え?」
「今の賑やかさがないと、嫌だなーって」
というか、きっかけになった魔力枯渇の時にきちんとエフィに城にいてほしいってことは言ったし。
なんでもう一度伝えなきゃいけないの。
「そうか」
「あー、色々誤解を招いてごめんね?」
「本音を隠すな」
「ごめんて」
恥ずかしいし、あまり真面目に語りたくないんだって。
「あ、戻ってくるならハグ係とか、いつもついてくるとかはいらないよ?」
「それは譲れない」
エフィってば、そこ譲れないのに城追い出されるって思ってたわけ?
「住民票移動と固定資産税納付だから、すぐ終わるよ」
「前から言ってる、そのじゅうみんひょうはなんだ」
ここの言葉じゃなかったね。でもおかげでエフィの極端な落ち込みはなくなった気がする。
エフィの肩が少し抜けたし、変わったウンチク話して、もうちょっと和んだ空気にしようかな。
「お二人さん、ついたよー」
話をしてしばらく、カロが呼んだ。
エフィが先に出て、おりようと身を乗り出したらエフィが当たり前のように手を差し出す。
「ありがと」
「ああ」
カロか反対側から耳打ちしてきた。
「イリニちゃん、ありがと」
「ん?」
「エフィのテンション、どうにかしてくれたっしょ?」
「ああ、そこね」
「どうした」
「なんでもない」
エフィに連れられ先を進む。
「カロと何を」
「たいしたことじゃないよ」
「……」
「エフィ?」
「ヘソ曲げんなよー」
「っ! 誰がっ!」
後ろからカロが揶揄する。
思わず笑ってしまうとエフィが驚きつつも妙な戸惑いを見せながら、しどろもどろになっていた。
「エフィ可愛い」
「か、かわ?」
「あ、ごめん。男性に可愛いはなしだね」
「いや、別に、それは」
うんうん、やっと私の前でかたいのが柔らいできたな。
心置きなく付き合える仲になれた感。素直に嬉しい。
「もー、いちゃつくなら別でやってよー」
「いちゃついてない!」
「はいはい。分かったから、イリニちゃん連れて行けって」
「く……覚えてろよ」
さすがに城の中に入るというところで、エフィは王太子殿下の顔になった。
すごいなと思いつつ、彼に連れられシコフォーナクセー王城の敷居を跨ぐ。
城で公的な謁見なんて久しぶりだ。毎日のようにこなしていたことなのに、不思議と遠く感じる。
「イリニ」
「なに?」
「その、父上の事なんだが……少し変わっていて」
「変わってる?」
まあ、何かのトップに立つ人間だし、多少個性はありそうだけど。社長が変わり者だと会社大きくなる的な。
「今日はそれを出さないとは思う」
「ふうん?」
もうすぐやめるとはいえ、聖女がシコフォーナクセーに居を構えるとなれば、国内外に影響を与える案件。しかも法的にきちんと手続きする。そういう真面目な場なら、王陛下も仰々しく対応するから、素は出さないだろうというのがエフィの見解。
「私は全然かまわないけど……おや」
「……すまない、人避けをしたつもりだったんだが」
入城し、進む先は謁見の間なのはどの城も変わらない。
その手前の部屋で多くの貴族や騎士が控えていた。
奇異の目をこちらに向け、遠慮なく聞こえる声音でこちらのことを話している。
慣れたものだ。いい子ちゃんしてた頃も、魔王になってからも。
0
お気に入りに追加
61
あなたにおすすめの小説

絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
婚約破棄してくださって結構です
二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。
※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています
踏み台令嬢はへこたれない
IchikoMiyagi
恋愛
「婚約破棄してくれ!」
公爵令嬢のメルティアーラは婚約者からの何度目かの申し出を受けていたーー。
春、学院に入学しいつしかついたあだ名は踏み台令嬢。……幸せを運んでいますのに、その名付けはあんまりでは……。
そう思いつつも学院生活を満喫していたら、噂を聞きつけた第三王子がチラチラこっちを見ている。しかもうっかり婚約者になってしまったわ……?!?
これは無自覚に他人の踏み台になって引っ張り上げる主人公が、たまにしょげては踏ん張りながらやっぱり周りを幸せにしたりやっと自分も幸せになったりするかもしれない物語。
「わたくし、甘い砂を吐くのには慣れておりますの」
ーー踏み台令嬢は今日も誰かを幸せにする。
なろうでも投稿しています。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる